25 伯爵家
不思議な気持ちでその光景を見ていた。夢でも見てるみたいだ。私がいた場所に赤毛の小さなアリアが泣きそうになりながらジョルジュにしがみついている。
なんだか家族を取られたような気持ちがふとよぎるが元々は小さいアリアのものだ。思い直すとミルクを飲んで自分を落ち着かせ、またそっと見る。
「何見てんだよ」
急にセスに声をかけられ驚いた。
「あ、いや。子供がいるなって……」
「あぁ、アイツらね。ほら、お前と一緒に騎士団に助けられた家族だよ。ここで主の仕事をするらしいぜ」
「ここで?主って、まさかここ!」
「テンプルウッド伯爵家だよ、知らなかったの?まぁ知らないか。普通知らされ無いよな孤児院じゃ」
孤児院から子供を連れてくるとき本人にはどこかは知らせない。言ってもわらないしね。って言うか、ここマティウスの家か!マティウスって伯爵様なの!?驚きで気が遠くなりそう。でもそうなんだ、皆いるんだ。ちょっと会いたいかも……会いたいなぁ。同じ敷地内なら会えるかな?ジョルジュ達には会えたし、でも、ここら辺に貴族様は来ないってモリーが言ってたから無理か。
私はしんみりしながら食べ終えた食器を片付け、食堂から出るとアリステアとすれ違う。
「えっ!アリ……うっ」
思わず名前を呼びそうになって口を抑える。
「うん?あ、お前この前の!元気になったんだな、良かったな」
「あ、その節はどうも。ありがとうございます」
私はペコリと頭を下げた。アリステアは手を上げて答えるとそのまま中に入りジョルジュの名を呼んだ。そうだ、私はもう関係ない。
寂しさを感じながら洗濯に向かった。また山盛りの洗濯物を抱え洗い場へ行くとモリーがいて手招きしてきた。
「いま、聞いてやってるから。まぁ期待はしないで、どこも一杯でね。いい所はすぐになくなるからね」
「ありがとうございます。とりあえず食べれて眠れるんで気長に探します」
「そうだね」
「それより、ここテンプルウッド伯爵家だったんですね。人気の坊っちゃんて……」
「そう、マティウス様だよ。私も見かけたことあるけど、キレイな顔してるよ。若い子は倒れそうになってキャーキャー言ってるよ」
あれは駄目だ。そりゃキャーキャー言われるわ。性格は怖いけど賢いし、孤独癖あるけど責任感もある。また一緒に勉強したいなぁ、マティウスに教えてもらってた時は楽しかったな。踏み踏みしながら馬車で旅してた時の事を思い出す。新月魔草はちゃんと出来るかな?オルガは元気かな?ウォルフの顔を見れなかったけど兵士見習いかな?
ヤバイ泣きそうだ。
洗濯物を洗い終え干場へ向かい、タライを抱えながら鼻をすする。
泣くな、考えるな、今は別人だ。
必死に足を動かし干場へ着くと洗濯物を絞りながら干す。また歌いながら自分を鼓舞する。夢中でやり終え、気が着くとお昼を少し過ぎていた。今日は一人でやったので随分時間がかかっていた。
タライをもって寮へ帰るとセスが食堂から帰ってきたところで、早く食べろと言われて慌てて向かう。食堂はザワザワとして沢山の人がいくつかの塊になって話しながら食べていた。
私はまた同じ席について一人で食べていた。多分この場所は庭師達がいつも陣取っているのだろう。前日に見かけた男が何人か近くに腰かけてくる。
「お前、まだ食べてなかったのか」
「はい、慣れなくて。時間がかかってしまって」
「ふうん、セスは?」
「さっき会いました。早く食べて来いって言われて」
「アイツ、ちゃんと面倒みてんのか?」
「大丈夫です。私が一人でやるって言ったので」
早くも荒れた手を隠しながら答えると、その男はチッと舌打ちして、「アイツわかってんのかよ」と呟き食べ始めた。
私は食べ終え片付けると急いで寮に戻った。セスに遅れた事をあやまると、また朝行った搬入口に連れていかれ、また荷物運びだ。同じ所に何往復かしてクタクタになった所で休憩になった。
やっと休めるとホッとして座り込む。周りは運んで来た園芸用品等で一杯だ。他の庭師の人達が話しながらアレコレ指差し打ち合わせしている。
「コレで全部か?割と少なめだな」
「最初から大々的にはやらんのだと。どうせ俺達は入れてもらえんらしい。ラッセルさんとガビーさんだけだと」
「ヘェ~、こっちに皺寄せくるのか。早くちゃんと人手を増やしてくれんとな」
そう言うとこっちをチラッと見る。間違えたのは私じゃ無いけど、もしかして私が居なくならないと次の人が来れないのかな?気まずいな。
「お前、ちゃんと面倒見てんのか!一人でメシ食ってたぞ」
「見てますよ、オレだってやらなきゃなんない事あるし、付きっきりは無理ですよ」
「あんなチビの娘に荷物運びとかさせんなよ」
「だって他になにがさせられらんですか?どうせ居なくなるのに!」
急にセスとさっき食堂で話した男が言い合いを始めた。私の扱いについて注意されたセスが言い返し騒ぎになっている。
どうしよう、止めなきゃいけないけど、私のせいだし。口出しして良いものかわからない。
オロオロしながら近くに行くとガビーが割って入った。
「やめろ、騒ぎを起こすな。貴族様がいらっしやる」
その一言で争いはピタリと止む。私もギョッとして振り返るとアリステアがジョルジュとアリア、ラルクを連れてこっちに来ていた。みんな慌てて道を開け端に並ぶとガビーが「コチラです」と案内して奥に進んだ。
目の前を歩いて行くアリステア達を見ていると小さいアリアと目があった。アリアは少し不思議そうな顔で私を見てラルクに手を引かれ歩いて行く。少し進んで振り返り私に手を振り、私も戸惑いながらも手を振り返す。
覚えている訳ないよね、夢の中の事だし。ボーっとしてるとセスに呼ばれた。
「お前、もう良いよ。洗濯終わったんなら部屋に帰んな」
「え、まだ早いですよね」
「お前に出来る仕事なんかないよ」
セスはそう言うと何処かに行ってしまった。一人置いて行かれてしまい困ってしまう。何か片付けでもしようか?でも何をどうすればいいんだろ。
勝手がわからないので仕方なく洗濯の洗い場に行った。そこにいる人に手伝うと声をかけるが仕事を盗るなと叱られ立ち尽くす。
私なんの役にもたたないや。
トボトボ歩き寮に帰ったがまだ誰もいなくてシンとしている。ラッセルの部屋に行ったが留守だった。
ジッとしているのも嫌だったので掃除道具を探し出し寮の掃除を始めた。個人の部屋には入れないので廊下を掃き出し雑巾で拭いていく。
結構広いな。
ゴシゴシやってるとガビーが帰ってきた。私はペコリと頭を下げてそのまま掃除を続ける。ガビーはラッセルの部屋に入り何か引き出しを開けて机に書類を広げ読み始める。
なんだろと興味を惹かれ掃除をしながら近づいていき、机に広げられた書類を盗み見る。
あぁ、これ新月魔草の栽培計画だな。
もうすぐ一回目のサンプルが届くようで、とにかく植木鉢に一株づつ分けて色々試していこうとしてるようだ。
つい手を止めてそれを読んでいるとガビーが不審な顔をして私を見た。
「まさか読めないよな」
私は何気なく、
「はい、全部は無理ですよ」
そう答えるとガビーは慌てて書類を隠し「読めるのか?!」と怒鳴った。しまった!と思ったが後の祭りで完全にやらかした。
「なぜ読める。孤児院育ちだろ!」
「えっと……親切な人が教えてくれて」
「誰が孤児に字を教えるんだ」
そう言うなり私の手を掴むと書類をかき集め引っ張って行かれた。私は逆らう事も出来ず引きずられるように連れて行かれると、荷物を運び込んだ場所を過ぎさっきアリステア達が消えて行った方へ入って行く。セス達が不思議そうな顔でこっちを見てるがお構いなしだ。
私、またなにかやっちゃったの?




