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転生者にも事情がある  作者: 蜜柑缶


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24   就職活動

 洗濯場には何人も下女がいてわいわい騒ぎながら踏み踏みしたり、棒で叩いたりして仕事をしていた。


「すみません、ここいいですか?」


 私は小太りのオバさんに話しかけた。オバさんはお喋りを止め振り返ると私をジッと見た。


「あんた見ない顔ね。どっから来たの?聞いてないけど」

「エマです。よろしくお願いします。庭師の方に来たんですけど……」

「あぁ、間違えられちゃった子ね。まだいたの?」

「うっ、居ます。ここに残りたくて」


 私は持ってるタライを見せた。


「あら、粘ってるの?そりゃそうね、ここは人気だもの」

「さっきも聞きました。私は知らなかったんですけど、そんなに人気があるんですか?」

「そうだよ、はい、ここで洗いな。ここの若様がいい男でね。若い女のコはほら、愛人目当てでね〜」

「そうなんですね」


 平民は愛人狙いもあるって聞いたけど、結構積極的なんだね。まぁ、メイド位しないと貴族なんてそうそうお目にかかれないか。


 私はオバさんに石鹸をもらい洗濯場で踏み踏み洗い出した。メイドにもランクがあり、オバさんはモリーと言って洗濯や貴族様の部屋の掃除をしていて貴族様には直接は接しない下位のメイドだった。モリーは私と年が近い息子がいるらしく同情して色々教えてくれた。


「ここじゃ若様の目に止まらないよ。私等がいるような所には勿論来ないし、庭だって貴族様が居るときは入れないしね」

「本当に私は愛人目当てじゃないです。まだ十二才ですし」

「今から探さないと間に合わないよ。父親が決めるの?」


 ここは婚姻年齢は低くみんな十六、七才くらいでする。生活が苦しくて早く出される女のコも少なくないようだ。


「いえ、両親はいなくて……」

「あら、そうなの?ごめんね。じゃあクビは困るね」

「そうなんです。帰るに帰れないんで、頑張り中です。どこか空きがあったら教えてもらえませんか?」


 私は洗濯する足を止めずにモリーにお願いしておく。こうなれば声をかけまくるしかないかも、ずっと無給でいる訳にいかないし。


「そうねぇ……お屋敷で無くてもいいんなら……」

「勿論、お屋敷で無くても、いい所なら!」


 ここのお屋敷内ならラッセルに頼んでるのと同じかも。だったらお屋敷の外の方がいいだろう。しっかりしてるねぇ、と言い残しモリーは大量の洗濯物をかかえて去っていった。

 私は山盛りの洗濯物と懸命に戦い、なんとか終えると干場に行った。

 力が弱いので服を絞るのは一枚づつ、端っこから少しづつしか出来ず手は真っ赤になりなかなか終わらない。

 

 くぅー、負けるもんかぁ。洗濯物ってこんなに必死にやるもんだったんだ。ヒェ〜心折れそう……


「まだか?……まだだな。貸してみ」


 突然見知らぬ少年が私の手からシャツを取り上げるとグイグイ絞り出した。


「あの、こ、困ります。私の、仕事……です」


 息を切らしながら絞っていた私は何とか話す。


「いや〜、何時までたっても戻って来ないから。ラッセルさんが見て来いって。これは終わらんだろ」

「あ、ラッセルさんが……でも、仕事しないと追い出されるから」

「ハハッ、ラッセルさん、そんなに薄情じゃないから。大丈夫だよ。一人でやれって言われてないだろ?」

「そう言えば……私はエマです。あのお名前は?」

「オレ、セス。そんな丁寧に喋らなくていいよ」


 セスは十三才、ここに来てまだ一年で一番下っ端だそうだ。いつも洗濯は下っ端何人かで交代でしていて、今日はセスの番だった。


「正直、やってくれたら助かるけど、これじゃ無理だな。細っこい腕」


 セスは私を見てボヤく。むむっ!


「まだ慣れないだけです。ちゃんと出来ます!」


 実際はヘロヘロだが、なんだか腹がたって来た。こっちはわけのわからない転生で混乱してるのをあえて考え無いように必死に動いてんの!小僧が偉そうに!


「ウェ〜、怒んなよ。ちょっとでもやってくれて助かってるから。ほら次貸して」

「…………」


 私は無言で手渡した。本当はもう腕がパンパンで上がらない。残りは、と言うより殆どセスに絞ってもらい後は干すだけだ。


「あの、ありがとうございます、後は一人でやります。本当にちゃんと働かないと……」

「そうか?お前、チビなのに頑固だな」


 セスは頭をかきつつ戻っていって私は一人で洗濯物を干していった。干すだけでも大変だ。腕は震えて力が入らないがやらなきゃ。

 

 はぁ……何してんだろ。いや、仕事でしょ。働かなくちゃ生きていけない。だけど、ここどこだよ……なんで転生してんの……


 いつのまにか溢れた涙を拭いつつ仕事を続ける。鼻をすすり、気を紛らわす為に歌を歌う。私のストレスが溜まった時のいつものパターンだ。泣いたって何にも変わらないのはわかってる。自分から動かなきゃ変わらない。ちょっとでも動いてみるしかない。

 全部干し終わってほんのり達成感がする。よし、次だ。空のタライを持って寮に走って行った。




 寮のラッセルの部屋に入ると誰もいなかったが、キョロキョロしてるとセスが入って来た。


「お、やっと終わったか。飯いくぞ」

「え、早くないですか?」

「俺達は朝が早いから、早く食べないと」


 そう言われタライを片付けると食堂に連れて行かれた。食堂はまだ人がまばらで、ある一角に庭師ばかりが集まっている場所がありそこへ向かうと食事を持ってテーブルの端っこに座りセスが横に座る。


「始めるぞ、明日の予定だか……」


 ガビーが皆を前に予定を確認する。毎日のルーティンなのだろう。今季はこれを植えて、この場所は来季に備えるとか、どこそこをもう少しこうしろ等駄目だしもあり、その後食事開始だ。


 食べ始めるとセスが明日は四時に起きてひと仕事してから朝食「その後お前は洗濯な」と指示してきた。私の指導を任されたらしくちょっと得意気だ。初めての手下らしい。

 はい、と返事はしたものの私の瞼は半分閉じだし頭はふらふらと船をこぎだした。本当に疲れました。

 セスは慌てて部屋に帰れと私を食堂から追い出し、いわれるままに部屋に入ってベッドに倒れ込むと気を失った。長い一日でした。



「おい!起きろ!エマ!」

「ふぁい!」


 怒鳴り声で飛び起きる。ココはどこ?キョロキョロしてセスを見て思い出す。そうだ、私はエマだ。


「早くしろ」


 セスに急かされ慌てて下に降りていくと洗い場で顔を洗えと言われタオルを渡された。小さな桶にためた水はかなり冷たくて目が覚める。

 すぐにセスの後について行くと、どうやらお屋敷の裏の搬入口に着いた。業者用で早朝だが沢山の人が出入りしている。


「これ持てるだけ持って」


 木材や小さい植木鉢、麻袋に詰められた園芸用の土、スコップなど道具が山積みだ。私は持てそうな植木鉢なんかを抱え、麻袋を肩に乗せたセスについて行くと昨日片付けて草むしりした場所に行き、ドサリと荷物を下ろす。


「ここに置いてって、終わったらメシね」


 セスはそう言うとまた引き返して行った。私も持っていた物を隅に置いて駆け足で引き返す。何往復かすると、ゼイゼイと息が上がったが黙々と続け日が昇る頃やっと運び終えた。


「メシ行くぞ!」

「はぁ、はぁ」


 返事も出来ず黙って頷く。セスは大丈夫かぁと言いながらケロッとしている。


 良いなぁ男の子、年齢の割にいい体格してる。細っこい私の腕とは大違いだ。


 ふらふらと食堂に入り食事を取ってきて昨日と同じ席に付き、セスも隣で食べ始めた。夕食時と違って朝は人が多かった。あまり食欲は無いがミルクでパンを流し込む。ここのパンは固くて、焼き立てはましだけど水分が無いとつらい。でも食べなきゃやってけないよ。なんとかパンを飲み込んでいると少し離れたテーブルの話が聞こえてきた。


「ほら、これ食べないと。元気にならないぞ」

「嫌だ、いらない。家に帰りたい」

「家はもう無いんだよ。ここで暮らして行くんだよ」

「どうして?ここ嫌だよ……」


 小さい女のコを父親と兄弟が慰めているようだがその声を聞いてドキっとした。鼓動が激しくなり耳鳴りがする。

 ゆっくりとそちらを見るとそこにはジョルジュ一家がいた。アリアとジョルジュ、ラルクの三人だった。


 

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