21 非常事態
旅は順調に続き、ウォルフは流石に若かったからか早々に動き回っていたが、ジョルジュもやっと回復。思いのほかキズが浅くて助かったらしい。アリステアによると三流の騎士だそうだ、自分なら仕損じないって。怖いし。
ジョルジュはテリウスに何か仕事をくれるように頼み、私達は洗濯とお片付けをする事になった。食事はテリウスが用意しないと気がすまないようだ。料理好きなのかな?
貴族様の洗濯はジョルジュとラルクが、家族の分は私がする。貴族様のは棒で叩くけど自分達のは足で踏む、私の力がないからね。大変そうだ、洗濯機が恋しいよ。
タライの中に水をはり服と石鹸を入れ踏み踏みする。もう冬が近いのでかなり水が冷たい。足を赤くしながら半泣きでいると、ジョルジュがお湯を用意すると言って少し離れた。ラルクは洗った物を干しに行っている。一人になったので気を紛らわす為に歌を小声で歌いながら踏み踏みだ。転生前はよく家事しながら歌ってたなぁ……
「♪出逢えた〜」
お気に入りの曲を何曲か歌う。久しぶりだなぁ、一人カラオケ行きたいよ。新曲出たかなぁ……なんて考えながら気を抜いていた。
「変わった歌だな……」
急に声をかけられ飛び上がる。
「マ、マティウス様!驚かせないで下さい」
「一人では危ないぞ」
「大丈夫です。お湯を取りに行っただけです。直ぐに戻ってきます」
「お前は一人にしては何かをしでかしそうで危険だ」
そっちか!失礼な、とは言えずハハッと笑って視線を外す。ジョルジュが慌てて戻って来た。私にタライから出で礼を取るように言う。あ、そうなんだと私が出ようとするとマティウスがそれを止めた。
「かまわん、今更だ。続けて良いぞ、それより栽培の事だが何か案はあるか?」
ジョルジュは私のタライに少しお湯を足し話出す。
「本当なら自然のままの新月魔草をジックリ見たいところですが……」
「あ、それならウォルフが結構観察してたよ」
「そうなのか?」
「うん、次の仕事に繋げられないかっていってた」
「先見の明があるな、ウォルフは」
マティウスは感心して言う。ジョルジュは恐縮しながら
「ラルクの方が研究熱心だと思います。読み書きも早かったですから」
「そうか、では私の持っている本をいくつか貸し出すから読むように言っておきなさい」
おお、ラルクにチャンス到来だね。このまま気に入られたら食いっぱぐれないね。ジョルジュの目もちょっとギラついた気がする。商売人だね〜。
後でテリウスから本を手渡されたラルクは決して雑に扱わないようにと念を押されたらしい。本は貴重で一財産するらしい。私は決して触らないように言われた。誰?、転生前に言われたのと同じように、落ち着きがないからって呟いたのは。失礼な、大人だよ私。
夜、テントの中で家族会議だ。
「ウォルフ、お前新月魔草をよく観察したって?」
「はい、商売が不安だったし誰も成功してないなら何か出来ないかなって思って」
「やっぱり俺が行けばよかったよ」
ラルクは少し悔しがった。自分の方が得意なのがわかってるのだ。ウォルフも自覚があるから頷く。
「確かにラルクのが得意分野だからな。でもちゃんと見てきたよ、何でも聞いてくれ」
「よし、まず……」
ラルクは新月魔草の形、色、群生の生え方、場所など、どんどん質問する。横でジョルジュも頷きながら時折口をはさむ。
私は話を聞きながらせめて家庭菜園をしておくべきだったと後悔しつつ、テレビで見た畑のシーンを必死に思い出す。私の海馬フル回転!
「やっぱり環境を同じようにしたほうが成功するんだろうな……」
ジョルジュの言葉にラルクも頷く。ウォルフはダリューンの不寝番に付き合う為にテントを出ていった。兵士になるための訓練だね。
「たけど、洞窟だよ。無理じゃないか」
ラルクが腕を組んで考える。
「マティウス様に似たような洞窟を探してもらうか……」
「薄暗くて湿っていて岩がゴツゴツしてるところ?洞窟ってだいたいそんな感じじゃない?」
「でもだからって洞窟に新月魔草がよくあるって感じでもない」
「普通に畑で植えたらだいたい病気にかかって色が変わり腐っていくらしい」
ジョルジュは聞きかじった栽培失敗談を話す。
「病気かぁ、なら水耕とか良いかもね」
私はテレビで見た情報を話す。詳しくはしらないけど……ヒヤシンスとかのやつね。
「水耕?なんだそれ?」
ラルクが首をかしげる。え、無いのか。無いかぁ、確か水と電気がいるもんなぁ……
「え、えっと……水に植えるんだよ。土じゃ無くて」
「どうやって水に植えるんだ。水だぞ」
「そう……だね、プラスチック無いし……えっと、布、布とかに切り込み入れて差すとか」
「布?」
「そう、それで根っこだけ水につけるの。病気って土から付きやすいって言うし」
ジョルジュもラルクも良くわからんって顔してる。私もうろ覚えでちゃんと答えられずそのまま誤魔化して寝る事にした。何故私は転生前、農家に生まれなかったのか悔やまれる。
いつも通り馬車に揺られながらウトウトしていると昼休憩になった。拓けた所でテリウスが食事の用意を始め私達はカマドの準備を手伝う。そろそろスープができるかなって時にアリステアが見回りに行った森から飛び出してきた。
「マティウス様!馬車へ!」
アリステアはそのまま振り返り森を睨みつけている。ダリューンは直ぐに剣を構えた。
「なんだ?!」
アリステアは腰の剣に手を添えたまま答えた。
「グズモットだ!」
「はぁ?グズモットで何騒いでるんだ!」
ダリューンが気を緩めて呆れながら言う。
「大群のな!」
そう言った瞬間チョロリと私のそばを一匹の影が動く。
えっ?なに?
そこには大人のコブシより少し大きい位の濃い茶色のネズミの様な魔物がいた。私を見上げたその顔の鼻先に触覚がありそれがビラリと開いた。転生前にテレビで見たハナモグラのようだった。
「ギャー気持ち悪い!怖い怖い!助けてー!」
私は気持ち悪さで悲鳴をあげた。
「アリア!馬車へ入れ!」
マティウスが私の足元のグズモットを蹴り上げた。私は恐怖のあまりマティウスにしがみつく。
「ヤダヤダ!怖い!」
パニックになるとマティウスによじ登った。
「おい、離せ!」
マティウスは私を降ろそうと慌てる。私がしがみついていてはグズモットを狩れない。
「何をしている!マティウス様から離れろ!」
テリウスが駆け寄ってきたが、そうこうしている間にもグズモットは次々にやって来た。テリウスは私をマティウスから剥がした。
私はしがみつくところが無くなり手足をバタつかせるとテリウスの腕を掴んでそのままよじ登った。
「何をする!わっ!離せ、コラ!」
「ヤダヤダ怖い!」
「いいから、テリウスはそのままアリアごと馬車に入ってろ!」
マティウスの命令には逆らえずテリウスは馬車に入った。グズモットはドンドンやって来てさながら洪水のようだった。中からは見えないがガタガタと揺れる馬車とみんなの怒号で恐怖のドン底に突き落とされる。泣きながらテリウスにしがみついたままガクブル状態の私。
「しっかりしろ!あんな小物アリステア達がなんとかする!」
慰めてくれているのか私の背中をゴシゴシこすりながら外の様子を伺っている。
小さいグズモットだが大群となると足音も凄まじく怖さは増すばかりだ。
すると馬車のドアが突然開きマティウスとジョルジュ、ラルク、ウォルフが乗り込んできた。中はぎゅうぎゅう詰めだがドアを閉めた。
「出せ!」
外でダリューンが叫んだ。馬車は馬のいななきと共に走り出す。
「どうしたのですか?」
「グズモットの数が多すぎる。攻撃してくる訳では無いが何かに追われているようだ」
「何かって……」
「わからんが森の方で木々がなぎ倒される音が聞こえた」
テリウスは事情を聞きながら自分から私を剥ぎ取りジョルジュに渡す。私はジョルジュにしがみつきその柔らかさにちょっと落ち着く。
怖かったよ〜
物凄い勢いで馬車は走りその後をダリューンの乗った馬が着いてくる。グズモットの大群は横を並走するように走りこちらを攻撃する気配は無い。やはり何かから逃げて来たようだ。
街道を走り続けていると前方に何かいた。
「マティウス様!前に荷馬車がいます!」
アリステアの声がしてマティウスは窓から顔を出し確認する。それには荷物は殆ど乗っていないが馬を操る男と荷台に娘が一人乗っていたようだ。グズモットの大群に驚いて必死に逃げているのだろう。アリステアは荷馬車に並走した。
「大丈夫かぁー!?」
御者の男は馬が年老いていて限界だと叫んだその時、物凄い咆哮が聞こえた。空気が振動して馬車のガラス窓がビリビリと鳴る。
「ギャー!何なんなの?」
「静かにしろ!あれは……炎龍だ……」
マティウスの言葉にみんな震えあがった。




