101 呪いの行方1
なかなか森への探索が決まらない様だ。
マティウスはカイリン先生と私のいない時に話し合っているようで進展具合は分からないが難航しているのは顔を見れば分かる。
何を迷っているのだろう?
休憩にいつもの温室でエイダンとマティウスの三人で久しぶりのランチだ。
マティウスは当たり障りのない感じでポツポツ話すだけで全く気が入っていない。森の事が気になるのだがエイダンがいるのでここでは聞けない。
午後からは仕事をしないので帰ることになり、私はマティウスと別れて馬車へと向かう。マティウスはまたカイリン先生と話を詰めるのだろう。門ではミラベルが迎えに来ていた。
「フェアリーネ様、お屋敷にお客様がお出でです」
「どなたかしら?」
私に屋敷に直接お客様なんて初めてだ。そもそも知り合いも少ない。
到着するとユージーンがいる執務室に通された。そこには魔術部のイライジャ・ドレイパーがいた。あの日以来だ。
「お待たせして申し訳ございません」
私は改めて挨拶を交わしイライジャと向い合わせに座る。隣にユージーンもいる。
「フェアリーネ様とお呼びさせて下さい。私もイライジャと」
「わかりました、イライジャ様。今日は何用ですか?」
イライジャはチラッとユージーンを見た。
「魔力発動をマティウスとなさったそうで」
そう切り出しだ。
隣でユージーンが頭を抱え、ミラベルが息を止めるのがわかった。
誰だ!人に黙っとけって言っといてベラベラとあの人は!
カイリン先生に苛立ちを覚えつつ落ち着てる風に装う。
「えぇ、まあ。それが何か?」
既に私とマティウスの関係性を知っているイライジャに隠す事も無いし出来ない。
「それで魔力は操れるようになりましたか?」
「そう言えばまだです。多分」
いつどうなれば操れると分るのか知らないのでなんとも言えない。
「では私が指導致しましょう。そろそろいい頃でしょう」
アレから数ヶ月、私はやっと魔女になれるのか!風の魔術が使えるはずだ。
「はい!お願いします!」
「フェアリーネ。そんな大事なことを安易に即決してはいけないよ」
なんとか立ち直った感じでユージーンが私を諭す。
「申し訳ございません、イライジャ様。フェアリーネは少し過保護が過ぎまして、貴族社会の常識にうといのです」
「あぁ、それでアノ……」
アレを反芻しないで!
イライジャは一瞬ニヤッとして私を見る。
「マティウスが羨ましいですよ。あんなに情熱的にされれば男はグッと来ますからね」
私が視線を外し羞恥に堪えていると「私が先に出会いたかったもんです」と付け加えられた。え?
「それで、何故駄目なのですか、お兄様」
私はやっぱり魔術が使いたい。
「自分の身を守るのにも必要でしょ?」
「それはそうだが、教えてもらう相手を慎重に選ばなければ。お前には私が今度教えてあげるから」
「本当ですか?!いつですか?早くしてくださいね!」
出来れば森に行くのに間に合わせてついて行きたい。自分の身を守れればマティウスも許してくれるかもしれない。後は体力回復だ。最近なかなか思うように進まない体の状態も少しはヤル気が加わって向上するかもしれない。
「失礼だがユージーン様より私の方が魔術にも魔力にも精通している。私の方が適任では?」
イライジャは笑顔で言っているがどうしても私を指導したいようだ。
「いえ、こういう事は身内で行うものです。家族の魔力は似通っていますから指導のしやすさはこちらの方が上ですので」
いつもの優しいユージーンが頑として譲らない感じは珍しい気がする。
「ですが、フェアリーネ様はすでにマティウスが魔力発動を行っておりますから家族でなくとも問題無いのでは?」
「もしそうだとして、それならばマティウス様に頼む事になるでしょう。切っ掛けさえ掴めれば後はこちらで行いますし」
「私ならば多少の違いがあれど補えます。切っ掛けは私でお願いできませんか?勿論、お兄様立ち会いのもとで」
食い下がるイライジャ、あくまで拒否のユージーン。
「何がそんなにいけないのですか?」
私の疑問にユージーンは顔をしかめる。
「フェアリーネ、お前は下がっていなさい。後は私がイライジャ様と話すから」
なんと追い出されたしまった。訳がわからなかったがミラベルまで私を促して席を立たせるので駄々をこねるのも何だと思い言う通りにした。また変な印象をイライジャに与えたくない。
部屋へ戻りミラベルにお茶を淹れてもらう。
「ねぇ、なにが駄目なの?魔力ってどういう扱い?」
ミラベルはため息をついて私の隣に座り母親が娘に言い聞かせるように話してくれた。
「私がついていながら申し訳ございません。ですがこんな大事な事を黙っていたなんて……いいですかフェアリーネ様」
ミラベルは私に魔力の扱いについて教えてくれた。
本来は年頃になる前に同性の親族で話す事らしい。魔力発動についてはカイリンもマティウスも多少は教えてくれたが要するにちょっとラブラブカップルのような状態になるのだろうというのが私の解釈だがミラベルの話では少し違う感じだ。
「カイリン先生がご一緒だったとはいえ、マティウス様がなさるなんて。本当にどうして私に言って下さらなかったのか。
マティウス様は医術師ですが男性ですわ、魔力を扱う際に同性のものが良いと言うのはそうですね、分かりやすくいえば肌をみせた状態と言えばいいでしょうか?」
「は?肌?裸?」
「えぇ、全裸です、全開です」
「全裸全開!?」
私は既にマティウスの前では全裸全開だったらしい。ちょっとラブラブカップルではなくディープな大人の関係だったのか。
それはマティウスは変な顔するわ、終わった後、逃げ去るわ、エイダンは心配するわという大騒ぎになる。
カイリン先生にしてみれば医術師が裸を見て何が悪いと思っているのだろう。ここではまだ女性は女性医術師が見るものだと言う人が多い。古い考えが根強いのだ。
私は全裸全開した相手に無理やり公衆の面前で卑猥なことを致した辺境伯令嬢なのだ。
呪いも悪魔的な容姿がなくても問題児。
しばらくマティウスには会いたくないかも。
「なんとか、理解出来たと思います。でもそれとイライジャ様が私の魔力指導を行いたいっていうのはなんなの?」
私の疑問にミラベルはちょっと考えて
「マティウス様と魔力発動なさったとき、どれ程の量を受けられましたか?」
「量?」
「魔力を受けた時間です。長く受けましたか?」
「時間はわかりませんが、終わった後は少しグッタリして横になりましたけど……」
ミラベルはちょっと停止した後、そっと息を吐く。
「かなりの量ですね。恐らくもう成人近いフェアリーネ様の魔力量は上位貴族と同等でしょうから仕方がありませんが」
「駄目なの?」
「駄目というか……影響が大きかったはずですが」
「そうね、数日は近づけず触れるとザワザワしました」
「まぁ!そんな状態で触れるなんて!」
え!そんなに駄目なの?!
「マティウス様には責任を取っていただかないと!」




