102 呪いの行方2
ミラベルに懇懇と魔力を勝手に通わせては行けないとお説教され、やっと開放された頃、ユージーンにまた部屋に来るように呼ばれた。
ミラベルは外で待たされ中にひとりで入るとマティウスがアーヴィングと共に来ていた。
気まずい。
マティウスとあまり視線を会わせずユージーンの隣に座る。
「イライジャ様がなぜここにいるのですか?」
マティウスがイラついている。イライジャはアーヴィングを見ている。
「このままでは医術部にフェアリーネ様を取り込まれると思ったのでね、まさかユージーン様と話が済んでいたとはね」
えーっと、なんか難しい話?私のせい?
「あの、なんの話でしょうか?」
「フェアリーネは黙っていろ」
マティウスが偉そうに言うのでちょっとムカつく。
「わたくしのことなのでしょう、聞きたいです」
ムッとした私にイライジャが頷く。
「本人が望んでいるのです。教えるのが道理では?」
「それは、知らなくても良い事もあります。彼女はまだ未成年です、保護者であるユージーン様が知らせないと決められたのですから」
ユージーンに顔を向けると私を心配そうに見ていた。
「なんですの?聞きたいわ」
「フェアリーネ、知らなければ苦しまなくて済むのだが、ここまで話を聞いてしまってはね。この頃のお前は前とは違うからね」
「自分の事は自分で決めますわ」
「言うと思ったよ」
マティウスが立ち上がり私の側に来る。
「止めておけ、私がなんとかするから」
「もう無理です。いずれイライジャ様あたりが知らせてきますよ。今日だってそのつもりだったのではないですか?」
イライジャは頷きマティウスの様子を窺ったが話し出した。
何代か前の領主の話で、政敵の力を削ぐために暗殺を繰り返していた事が始まりだ。
権力の争いというのはいつも同じで食うか食われるかだが、やり過ぎた。
繰り返される暗殺の応酬に領地が荒れに荒れ、死人も大量に出た後やっと落ち着いたもののそれを見ていた次代の領主が暗殺者を自分の代から排斥していったのだ。
それまで領主の命を受け表立って排除出来ない政敵をあらゆる手を使い抹殺し領主につくしてきた事が、ある日を境に全て否定された。
一族はそれまで暗殺を秘密裏に担うことで取り立てられていたので、それによって政権の恩恵を受けれなくなった。事情を知る者の間では血塗られた歴史を持つ呪われた一族として疎まれ婚姻は避けられ益々衰退していった。
「それがディミトロフなのです。これは領主一族の一部と側近とされる、魔術部長、医術部長、騎士団長のみ知らされていた事でこれまで外には漏れていませんでした。ディミトロフは衰退させられユージーン様の代で断絶するはずでした」
イライジャが真剣な眼差しで私の反応を見ていた。
権力者のやる事はよく分からない。でも暗殺なんてしたくないから、排斥は良かったと思うが、実は呪われているのは私じゃ無くディミトロフそのものだったとは。
今まで散々私は呪われた娘だと言われ続けていたのにこんな裏話が根本にあってその上髪が白い事でまことしやかに噂されていたのか。
これは驚かなくてはいけないところだろうか?
みんな私に注目しているが私としては白い呪いはやはり全くのデタラメという確認が取れただけの話だけど……
「ナンデスッテ?オドロイタワ」
ユージーンがガックリと肩を落とした。
「わからないかい?」
「全く」
私は首を横に振った。
「そうかも知れないとは思ったよ。お前は髪のことを聞いたときも全く動じなかったからね」
ユージーンは可哀想な妹を嘆いているようだった。
バカな妹でごめんなさい。
「代々続いた家がご自分の代で絶えることがショックでは無いのですか?」
アーヴィングが再度私に確認する。
「えっと、お兄様は結婚出来ないという事?」
「……そう……だが。そこでは無い」
マティウスも複雑な顔をして言う。
私の中身が元々平民だとマティウスは知っているのでそこは理解が早かったようだ。
仕方無いって。平民じゃ無くても転生者の私にディミトロフには何の思い入れもない。ユージーンが結婚出来ないのは可哀想だがそれくらいしか気にならない。
「お兄様は何処かへ婿入りすればよいのでは?」
「もう黙りなさい、フェアリーネ。問題はそれだけじゃない」
まだ何かあるらしい。
イライジャは笑いたいのを堪え、アーヴィングは呆気に取られていたが、先が知りたい。
「私達の能力の問題がある」
「能力って魔術の事ですか?」
ユージーンは私にディミトロフ家の特殊な能力について話した。
魔術は一般的に現在基本の火、水、土、風、氷がある。それに加え、特殊な能力の癒し等がある。その昔は他にもあったそうだが最近は継承が絶え失われた特殊能力もあるそうだ。
例えばマティウスが持っている癒やしだ。癒やしは特殊とはいえ常に必要とされる為いくつかの家で大事に受け継がれ未だに絶えずに残っている。
マティウスはテンプルウッドでも特殊能力を受け継いだ貴重な人材らしい。親から子へ受け継がれるものではなく、その家系に何代か毎に稀に現れるそうだ。
「それで?」
「ディミトロフで受け継がれる能力は、麻酔だよ」
背筋がゾクリとし血の気が引いた。インファントが私に施していた事だ。
「ちょっと、気分が……」
一瞬クラリとした気がして、私はそれだけ言うと何とか立ち上がり新鮮な空気が吸いたくて執務室にあるバルコニーへ向かった。マティウスが着いてこようとしたが首を振り拒否した。ひとりになりたかった。
外へ出ると大きく呼吸し、体の中の空気を入れ替えた。
魔術ってエグい。能力によって私は死なない程度に眠らされていたのか。もしかしたら前のフェアリーネは効きすぎた結果の事故だったのか。そりゃ心も病むよ。
私は少し落ち着きを取り戻したが、まだ戻る気になれず外を眺めていた。
背後で気配がした。マティウスだろう。隣に並んで立つ彼に少し寄りかかる。
「落ち着いたか?」
私は無言でコックリと頷く。
「その、魔術が何なの?」
「ベリハベルを探すのに必要だとイライジャ様が言う」
マティウスは眉間にシワを寄せ不本意そうだ。
「何故?ま、麻酔ってどう使うの?」
木を探すのに麻酔がいるのか?
「ベリハベルの生育地は多くの魔物の生息地でもある」
「魔物を眠らせて探すというの?そんな事が可能なの?」
「それがディミトロフには可能なのですよ」
声がする方へ振り返るとイライジャが大袈裟に両手を広げ近づいて来た。
「ディミトロフには可能でも私には無理です。まだ魔力を感じないですし」
私はイライジャを胡散臭そうに見た。
「だから私がお手伝いをしようというのですよ。さっきは喜んで承諾してくれていたではないですか」
マティウスが私を「あぁ?」って感じで見てる。
ごめんなさい、もうしません。
「さっきはわたくしの魔力に対する理解が足りませんでした。お断りします」
イライジャは何ともない顔だ。
「そうですか、ではマティウスが?」
「それは……兄と相談いたします」
マティウスが良しという感じで頷いた。
ふぅ、魔力の話は疲れる。
私達が部屋に戻ると変な雰囲気だった。アーヴィングは何か考えているようだ。
ユージーンを見るとため息をついた。
「イライジャ様から婚姻の申込みがあったよ」
「は?」
私は頭か耳がおかしくなったのだろうか?一応マティウスに確認する。
「なんて言ったの?」
マティウスは無言で私を見ない。なに?何が起きたの?
「お兄様、私、よく聞こえなくて」
ユージーンは私をマティウスの隣から自分の側に引き寄せる。
「イライジャ様から正式に婚姻の申込みがあった。悪い提案じゃない。考える余地があるよ」
「何故ですか?私は……あの……マティウスが……」
「マティウスとは結婚出来ませんよ。フェアリーネ様」
イライジャが楽しそうに言った。




