閑話 エルナンデスの娘
カイリン先生が多忙を極めたある日。
「フェアリーネ、ちょっと手伝ってくれ」
私を試験官助手としてついてくるように言った。
なぜ私?
「わたくしが行けば参加人数が減るかもしれませんよ。呪いで」
「そこが狙いだ」
カイリン先生曰く、呪いを信じている奴は科学の城にはいらない。よって私を怖がったり嫌がったりする人はいらない、と言うのは建前で恐らく講義を受ける生徒の人数を減らして楽したいと言うのが本音かな。
そんな事で人の呪いを利用なんてする人はいないだろうが、ま、いいか。
私はカイリン先生と学院の試験会場である教室に向かった。
先生用の廊下から出た瞬間、ザワッとしてササッと道が開ける。
「お、歩きやすいな」
カイリン先生は人避けとしての私の機能を活用し廊下も快適に進んだ。
教室に入り、再び人避けとしての機能を果たすかと思えば、薬学系の生徒は結構私の事を聞いていたらしく残念ながら出て行ったのは野次馬だけであった。
ちょっとは浸透しつつあるのね。
「あぁ!?」
突然ひとりの女生徒が私を見て驚く。やっぱり気にする人がいるよね、と思いそちらを見ると違う意味でヤバかった。
そこには守ってあげたいふんわり夢見るお嬢様エルナンデス伯爵令嬢がいた。
なぜここにいる。私が薬学にいるのは広まっているだろう。避けることはあっても目がけて来るなんて、まさか何か恨み言でも言われるのだろか?それならば仕方ない。
世間的にはマティウスはまだ婚約破棄にはなっておらず、彼女は私からマティウスを救った女性として一部の人に知られている。
おそらくマティウスファンクラブでもあるのだろう。割と高貴な方々に人気のあったらしいマティウスが私のような呪い持ちの悪魔的な女より守ってあげたいお嬢様の方がお相手として納得しやすいようだ。
そのお嬢様は潤んだ瞳で私を見るとゆっくりと近づいて来た。
隣でカイリン先生が面白いものが見れそうだとほくそ笑でいるのが腹立らしい。が、逃げるわけにもいくまい。
目の前に立ち止まり彼女は両手を祈るように組み頬を上気させ私を見つめる。
何、何が始まるの?
「お姉様……」
エルナンデス伯爵令嬢は呟いた。
私そっち違う。
試験が終わり、私はさっさと片付けると素早く教室を出た。カイリン先生を待つことは出来ない。急がなければアレが来る。
「お待ち下さい。お姉様」
来ちゃったよ。私はまだ完全に回復していないとはいえ、このお嬢様は結構足が早い。
「何でしょうか?エルナンデス様」
私は足を止めずに答える。優雅とは程遠い早歩きに彼女はついて来る。
「お姉様、セレーナとお呼び下さい」
「セレーナ様、何でしょうか?」
先生専用の通路に入ってもセレーナは付いて来て離れない。
「あの、今からご休憩でしょう?ご一緒してもよろしいですか?」
「駄目です」
即答で断る。大変失礼だがこれが一番良い。キッパリ、ハッキリお断り。
「あぁ、お姉様。そんなハッキリと……素敵ですわ」
失敗した。変なツボ押しちゃった。
私は諦めて立ち止まり、セレーナに向き直った。
「何の目的でしょうか?わたくしは貴方の縁談を台無しにしたんですよ。何か企んでいらっしゃるのですか?」
私の言葉にセレーナはニッコリと微笑む。
「責任をお感じになってらっしゃるのですか?」
ちょっと甘えたような可愛らしい仕草で見上げられても困る。
私そっち違う。
「いえ、私は私のしたいようにしたまでです。悪いですけど責任は感じません」
「私とお友達になってくださいまし」
話が通じないの?
「あの日以来わたくし眠れない日が続いておりますの」
「婚約破棄はショックでしょうからね」
「そんな事はどうでも良いのです」
そんな事の為に私はあんなに頑張ったのに。
「あの日のお姉様がわたくしの心から消えませんの。あのお美しいお姿が……」
セレーナはうっとりとし頬を赤らめアレを反芻しているようだった。
本当に止めて。早く忘れて。
「そうですか、どうでもいいなら良かったです。では」
私は早歩きでその場を離れる。
「あぁん、お姉様〜」
だからそっち違うって、それに確か私の方が年下だったはず。
その日以来、しばらく付きまとわれた。




