オージャンVSラファエル
ついに大魔王様が前線に立ちます! 大魔王が戦う場合って圧倒的に勝つか、激闘の末負けるかしかないのですが……ラスボスの宿命ですよね。では、賑やかなバトルをお楽しみください。
オージャンは両手を前に差し出し、ラファエルの手を掴んで力比べをする。二人の力が拮抗し、地面が陥没して周囲で激しく風が巻き起こる。
「何をやっている、魔王。人間とじゃれ合ってふざけているのか」
ラファエルに握られているオージャンの手が、ブチブチと音を立てている。指や掌の腱が切れているのだろう。
オージャンは弱みを見せないよう痛みを顔に出さず、始まって腹を決めたネフィが慌てて回復魔法をかける。
「貴様を倒す相談だ」
「魔王が人間を頼るとは」
オージャンは上げていた手を勢いよく引下げ、引っ張られて下がったラファエルの顔面を蹴り上げる。だが、ラファエルは背を弓のようにのけ反らせて避け、オージャンの手から自分の手を引っこ抜いた。そして振り上がった足首を掴み、力任せにぶん投げた。
オージャンは背中から木に激突しないよう(一応ネフィのことを気遣っている)、逆上がりの要領で半回転し、木の幹に足裏をつける。その際、掴まれた足首に激痛が走ったのでどうやらアキレス腱が切られたようだ。
追撃をしてきたラファエルがすでに肉迫していた。顔面を掴もうとしにきた相手の手をオージャンは逆に掴み、その腕にぶら下がるようにして巻きついて、飛び関節で腕十字を狙う。相手の首にかかるはずの足を思いっきり振って、顔面を蹴ろうとした。
ラファエルは空いている腕で蹴りをガードし、オージャンが巻きついている腕に旋風を発生させて弾き飛ばした。
オージャンは一回転して足から地面に着地してネフィに、
「足を先に治せ」
「手は!? まだだけど!?」
「奴を殴るのに支障はない!」
ラファエルが放つカマイタチの刃を左足一本で避けつつ、オージャンは間合いを詰める。
「人間だからどうした。余は種族で差別はせん。選民思想の強い天界の奴らと一緒にするな!」
顔面を狙った左のフックをフェイントにし、オージャンの右拳がラファエルの左第十二肋骨を砕いた。その感触が確かにあったのに、オージャンの突き込んだ拳は肉体に弾かれるように押し出された。一瞬で回復されてしまった。こっちはまだネフィが右アキレス腱すら繋げていないのに。
「人間を支配しようとする魔王がよく言う!」
「王として領土拡大をしていただけだ。魔界統一戦争時には放っといたくせに、人間界に及ぶとしゃしゃり出て来るとは、神はウザいのだ」
接近戦で踏み止まるオージャンは、ラファエルと殴り合う。これだけ接近すれば、相手も下手に風を使って攻撃できない。自分を巻き込む可能性があるからだ。
オージャンの右ストレートを鳩尾に喰らいながら、ラファエルは伸び切ったオージャンの肘を下から叩き、関節を外した。
アキレス腱をどうにか繋ぎ合わせたネフィの目の前に、関節がプラ~ンっとなったオージャンの右腕が来て、慌てて治し始める。
「神を侮辱するとはなんたる不遜! 魔界だけで満足しないとはなんたる強欲! 凶暴で凶悪! 醜悪! 身の程を知らぬからこそ、神が罰をお与えになったのだ!」
ラファエルの右フックをオージャンは首をねじって勢いを逃がしたが、頬の皮が削げ落ちて血飛沫が舞う。
「うるさいぞ。大体にして統治せず人間に好き勝手させているくせにしっかり所有権だけは主張するなど無責任だと思うがな!」
「君臨せずとも統治せずなど、立派な君主の鏡ではないか!」
憤ったラファエルが、オージャンとの間に風の球形を作り出した。オージャンはすぐさま腕を十字に交差させて体の前面を守った。
風の球形から放たれた無数のカマイタチが、両者の体をズタズタに切り裂いて吹っ飛ばす。
後方に退いた時にはラファエルの体に受けた傷は服ごと治っていたが、オージャンはガードした腕が特にボロボロだった。
「安心して止血をしろ。魔力が混入しているとはいえ、体内に入れなければ影響はない」
「ちょ……ちょっと、待って。もう、限界」
背後でぜ~は~と荒い呼吸を繰り返すネフィに、オージャンはチラリと目をやり、
「人間は自身を守るため、限界のかなり手前で脳がストップをかけるらしい」
「ふぇ?」
「つまりは自然と自分を甘やかしているのだ。安心しろ、貴様の限界は余が決める」
「…………いや~! 死ぬ~!」
叫ぶネフィの後ろで、クラスメイトは無言で合掌した。
「ジャンヌ! ランスを貸せ!」
「魔剣じゃなくって!?」
「その魔剣がなければ、貴様らは今ので死んでいただろ」
今のカマイタチは広範囲に効果が及んだ。当然下がっていたガロウ達のところまで来たが、シルファザードを使って風の防壁作ったので助かったのだ。
放り投げられたランスを受け取り、オージャンはラファエルに向かって行く。
「貴様の神への献身も随分と独りよがりで傲慢に思えるがな!」
その言葉に怒りを露わにしたラファエルは、凄まじい形相でオージャンへ向かって竜巻を放った。
オージャンはランスを地面に突き刺し、飛ばされないようにその場で耐えるが、呼吸は出来ないし、体はねじ切れそうなほど悲鳴を上げる。
膝をつき、身を低くして耐える。ネフィの体重分重くなっているのも効果的だ。
周りの地面がめくれ上がり、吹っ飛ばされた石や木がぶつかって飛ばされそうになるが、それでも耐える。
風が止んだ瞬間、耐えきったオージャンはランスを引っこ抜いて再びスタートを切る。すぐに後ろにいるネフィから回復魔法がかけられ、本当に復活スピードだけは早いと、胸中で舌を巻いた。
「人間界にはストーカーなる者がいるそうだ。行き過ぎた恋愛感情の末、独りよがりの暴走を起こす。まさに今の貴様がそうだ。神に注目されたいがためにこのような周りを巻き込んで大騒ぎを起こす。それで神の関心が買える訳もないのにな!」
接近したオージャンが、ラファエルの顔面を狙ってランスを突き込んだ。
「バカめ! 神はちゃんと私を見てくれている。貴様を寄こしたのが何よりの証拠!」
顔に意識がいった下で、オージャンはラファエルの足を踏んでいた。そして、ランスで自分の左足ごとラファエルの足を突き刺した。
後ろではそれを見て悲鳴が上がった。が、オージャンはニヤリとする。
「もう逃げられんぞ」
右拳を握って、ラファエルの顔面にストレートを放つ。足が動かないラファエルは上体を横に傾けて避けた。が、オージャンの本意気に騙された。右ストレートはフェイントですぐに引っ込み、本命の左フックが傾くラファエルと引き合うように接近し――ついに顔面をとらえた。
オージャンの拳に、ハッキリと相手の顔がひしゃげる感触が伝わる。
「部下を守るのが上司の責務! 余のクラスメイトに対する狼藉。貴様の顔面に拳を叩きこんでやりたいと思っていた!」
最初、ラファエルは何が起こったのか分からないような顔をしていた。頬骨が砕かれ、痛みを感じ始めたところで、はじめて顔を殴られたと気づいた。
「わ、わわわ――わわあああああ~! わたわたわたしの~! 顔が~! 完璧な! 神に愛されし顔が~!」
動揺したラファエルの顔面は中々治らない。それどころか、魔王的笑みを浮かべたオージャンがさらに顔に拳を叩きこむ。
「貴様に会いたくないから代理人を立てたにすぎんだろ! 貴様以上に神に頼りにされて余は迷惑至極だ! ストーカーは自分のことをストーカーだと思わないことが多いと聞くが、まさにそれだな!」
拳だけでなく言葉も次々に叩きこんでいく。
「自分の能力を冷静に見極めてみろ! 癒し? 神が必要としていると思うのか!? 三十代のOLじゃあるまいし! 天界にいた時、誰かに健康管理を頼まれたか!? 天界は病気や怪我とは縁遠いところだろ! 貴様の存在意義など薄い薄い! 精々が下界からの健康祈願ぐらいだろ!」
好調な罵倒が留まるところを知らない。
ラファエルの金髪ごと頭を掴んで、顔面に右膝を叩きこんだ。そのついでに、音を立てて髪の毛も引き抜いてやった。
「貴様の首! 余達の戦功として役立たせてもらう!」
トドメを刺すため、オージャンの右腕が振り上がる。
炸裂音が上がり、オージャンの右前腕が凍りついた。だが、凍りついたのはそこだけではない。その場の時間さえも凍りついたように静まり返る。
オージャンは鋭く細められた視線で相手を射抜く。驚愕で硬直しているX組の面々の最後尾にいるキネマを。
「何のつもりだキネマ?」
静かに聞くオージャンの声は、どんな答えでも許さないという鋭さがあった。
遺言を聞かれているのだと分かったキネマは構えていた拳銃を下ろし、膝と手を地面につけて頭を深く下げる。
「その方を殺さないでいただきたい。その方がいなければ、お嬢様は――」
余計なチャチが入った隙に、ラファエルの顔が元の精悍な顔つきに戻った。
「そうだ! その女は私の薬がなければ生きてはいけないのだ! さあ、私に協力してこいつらを殺せ! そうすれば貴様ら二人は生かし、これからも薬をやろう!」
「なるほど。神が余をよこした本当の理由が今分かった」
わめくラファエルを無視し、オージャンはランスを足から引き抜いて離れていく。そして向かうは、クラスメイトがいる場所だ。
顔から全身から血を流すオージャン。その状態で戦っていた様は修羅のようだった。
それが向かってくるのだ。背中にいるネフィは元より、ガロウもジャンヌも、ぬいぐるみに憑依しているだけのグリアスまでも恐怖を感じ、震えている。止めようと思っても、声すら出ないし、脚も震えて動かない。
「強大な敵が現れるからでも、X組を閉鎖から救うためでもなかったのだな」
ゆったりと歩みを進めるオージャンは、右前腕部の氷を皮膚ごと無理やり引きはがした。
回復魔法の供給が止まっているので、その右腕からは血がドクドクと滴り落ちる。
そうしてオージャンが立つのは、キネマでなくレシャールの前だ。
「貴様に生きていられるとキネマの暴走が止まらん。迷惑だ」
「ハッキリ言いますことね」
泣くように笑っているレシャールの声。それを聞き、キネマは自分でないことに気づいた。
「神は世界とレシャールを天秤にかけ、世界を選んだ。怨むならそんな体にした神と、余をこの世界に召喚した神を怨むのだな」
キネマが手を伸ばそうとするより早かった。
躊躇なく、オージャンは鼻歌を歌いながら右手でレシャールの胸を貫いた。激しい血飛沫が、貫かれた背中側から噴き出す。
「余の使命は、汚れ役ということか」
「う、うおおおおお~!」
狂乱したキネマがオージャンに飛び掛かろうとしたが、その体がピタリと止まった。
「これでラファエルを殺すのに憂いはなくなっただろ。バカが」
そこにオージャンの拳が来て、キネマは殴り倒されて気絶した。
『ケ~ケッケッケッケ! 魔王様~、逃~げられたよ~!』
キネマを金縛りにしたグリアスに言われ、オージャンは後ろを振り返る。そこにいたはずのラファエルの姿が消えていた。
「顔面を殴られただけで戦意を失って逃げるとは、どれだけ温室育ちの軟弱者だ。これだから天界でふんぞり返っていた上級天使という奴は」
血液混じりの唾と共に、オージャンは吐き捨てた。
『ど~すんの、見逃すの~?』
グリアスだけが平然と会話をしている。他の人は怒涛の展開で、頭の中はグチャグチャに混乱中だ。
「見逃すわけがないだろう。ナンバーズあたりが倒す」
『どうやって~? あいつには、超速再生能力があるん~だよ』
「しこたま殴った時、これと同じことを奴にしてやった」
と、オージャンは右手の聖痕をグリアスに見せた。
ダメージは回復したが、顔を殴られたという事実で精神的に消耗しているラファエルは、自らがこじ開けた穴を目指して逃げている。
「くっ! 一旦退却し、大勢を整える!」
キィーンっと甲高い音が飛来して、
「仙技、龍墜虎爪!」
ラファエルの背中に飛び乗ったシャルマルが、全身を緋色に輝かせて、翼を根元からむしり取った。
翼を失い、シャルマルに蹴り飛ばされたラファエルは、地面にクレーターを作るほどの衝撃で墜落した。
クレーターの底で、ラファエルは痛みに呻いて這いつくばっている。
「な、なぜだ。回復は、どうした」
ラファエルは気づいていないようだが、彼の胸元には血で書かれたオージャンの紋章があった。それによってラファエルの聖なる能力が抑えられ、再生能力が落ちているのだ。
落ちているだけだから、一応再生はされている。ただし、そのスピードが遅いだけだ。そして、その遅さはクレーターを学生に囲まれた状況では致命的だ。
「余が得た教訓を一つ教えてやる。人間は徒党を組むと恐ろしい――四人ほどのパーティでもだ」
オージャンは遠くで聞こえる総攻撃の音を聞きながら、「ふぅ~」と一仕事終えたため息をついて、限界を迎えてぶっ倒れた。
いや~、オージャンの口の悪さといったら……書いてて本当に楽しい。オージャンがこの世界に来た理由も発覚し、スッキリ!
とにもかくにも、オージャンは上司っぷりを発揮し、ラファエルを撃退しました。これにてめでたしめでたし。
ん? そういえば……X組のことを忘れていた。ま、ラファエルと戦ったことは評価されるので大丈夫……なのか? いえ! 簡単には終わりません!




