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魔王様、支配してください!  作者: 春花
堕天使ラファエルとの戦い
20/24

裏切りの理由

 前回、オージャンの闇の結界により市街地まで戦闘が広がりませんでした。今回はその時に裏切り者が何をやっていたかというお話です。

 オージャンが哄笑を上げる少し前、魔三角陣に沿って結界を張る役目を担う〈要石〉の一つに、ラファエルの姿があった。そこは校舎から一番遠く、林の中だ。


 敵に気取られないよう、聖なる威光を極力抑えている。そんな彼の目の前に、黒い三角柱の物体がある。


 高さは三メートルほどで、表面には札が多く張られている。普段ならば中から動力音が聞こえるはずだが、電力が来ていない今は沈黙している。


「これさえ壊せば、ここの結界は完全に瓦解する」


 ラファエルは『危険高圧電流』と注意書きされているフェンスを掴み、地面に深く埋め込まれている土台ごと引き抜き、ポイッと背後に捨てた。


 そして三角柱の〈要石〉に手を伸ばせば、触ろうとした直前で電撃によって弾かれた。


「なるほど。多少は知恵が回るようだ。浅知恵だがな」


 ラファエルが人差し指と中指を揃えてクイッと立てたら、三角柱の地面から強い風の柱が立ち昇った。


 その風が晴れると、三角柱の表面にあった札は全て消し飛んでいた。


「さてと」


「お待ちください!」


 後ろからの声に振り返らず、意識を少しやるだけで視線すら動かさない。


 ラファエルの後ろに現れたのは、堕天使ではなくキネマだった。彼は離れたところで相手に跪き、


「あなた様の作戦は結界を壊して校舎を占拠し、異界と繋がる陣を掌握することだったはずです! なぜ市街地を襲うようなことを! 一般人には手を出さないと約束してくださったはずでは!?」


〈控えろ下郎! 私に意見するとは何事だ!〉


 下等な存在とは声を交わすことすらせず、ラファエルはテレパシーで激昂する。


〈敵のまとまりを阻害するために、数の利を生かして広範囲に戦場を展開させる。当たり前のことだろ〉


「しかし!」


〈それにどうせ人間共は死ぬことになるのだ。遅かれ早かれだ〉


 その時、ランスを構えたジャンヌがラファエルの背中を貫こうと突撃した。だが、その穂先は一メートルほど手前で止まり、いくら彼女が力を入れても分厚い層に阻まれて全く進まなかった。


〈無礼者!〉


 ジャンヌは激しい風に押され、背後に吹っ飛ばされて木の幹にしたたかに体を打ち付けられた。ぐっと呻いてずり落ちるが、まだ意識はある。


「勝手になにをやっていますこと、キネマ」


「……お嬢様……」


 次に現れたのはレシャール。彼女はラファエルではなく、キネマに厳しい視線を向けていた。その視線に見られ、キネマは後ろめたさでたじろぐ。


「やっぱ、発電室を凍りつかせたのはアンタだったのね。マジでなにをやってんのよ、アンタ!」


 声を張り上げて問いただすジャンヌ。キネマは何も語らず俯くが、


〈余に刃を向けたそこの人間を撃ち殺せ。それで貴様のくだらぬ言は聞かなかったことにしてやる〉


 ラファエルの指令にビクッと背中が跳ねたが、キネマは懐から拳銃を取り出し、弾倉に氷の弾を装填し、銃口をジャンヌに向ける。


 青ざめるジャンヌは、


「な、なに、堕天使の言うこと聞いてんの? 意味分かんない、マジで!」


「オージャンに会ったら、彼を殺したのは私だったとお伝えください。彼は誰に殺されたかも分からなかったでしょうから」


「なっ――」


 返事を聞かず、キネマは引き金を引いた。だが、彼の氷の弾丸はジャンヌに届く前に火炎を受けて消えた。


 そして、ジャンヌの前にレシャールが立ちはだかる。


「お嬢様」


「……考えたくはありませんでしたわ。堕天使の命令で、キネマがオージャンを殺したなど」


 レシャールはポケットから薬のケースを取り出し、地面に捨てて踏み潰す。


「なにを!?」


「もうこんなくだらないことはお止めなさい。わたくしも覚悟を決めましたことよ」


 興味をなく楽観していたラファエルだが、早々に飽きて腕を直上に上げる。そして、手刀を薄く輝かせ、三角柱の〈要石〉に振り下ろそうとした。


 その時に、オージャンの哄笑が響いた。


 彼が生きていたことにその場にいる全員が唖然とし、さらにラファエルは市街地を強襲する作戦が失敗したことも知り、ひどい衝撃を受けていた。


「ば! バカなの、あいつ! 悪質な死んだふりして、なに考えてんのよ、マジで!」


 思わず出てきた涙を手で払って、ジャンヌは嬉しそうに叫んだ。


「聖痕にはそんな働きもあるのですこと」


 レシャールは今まであった心の重りが外れ、背筋が伸びる想いだった。


 だが、キネマだけは「そんなはずは」と青ざめる。


 そんな彼の背後に、ラファエルが立つ。その気配に気づいてキネマが後ろを振り返ると同時に、暴力的な裏拳が彼の顔面をとらえて吹っ飛ばした。


〈貴様のせいで私の作戦が台無しだ! やはり、下等な人間は役に立たんな〉


 ラファエルは腕を×印に振るった。すると、その軌跡にそったカマイタチが手刀から放たれ、キネマの背後の木々を斬り倒した。


 大仰なデモンストレーションを終え、ラファエルは手刀を構え、キネマの首を落とそうと――。


「インフェルノボム!」


 ラファエルの肩口で爆発が起こるが、彼の服にすら焦げた跡は残らず、視線をレシャールにやることすらしない。


〈今まで誰のおかげで命を繋げられていたと思っている〉


「相手が堕天使だと知っていれば、最初から頼みにしていませんでしたことよ」


 ラファエルは顎でしゃくってキネマを示す。


〈奴はどんな存在だろうとも、貴様を延命させることができる相手ならば構わなかったようだがな。それにそんなことを言いつつも、貴様も死にたくなくって薬を飲み続けたのだろ〉


 レシャールは気まずく俯き、悔しさで体を震わせる。


〈これだから人間は愚かなのだ。自分可愛さに他を犠牲にして踏みにじる。大切な者の命を救うためなら、無関係の人間の命を犠牲にしてまで生き延びようとする。そのような傲慢な行いが許されると思っているのか! 醜い。大いに醜い! たかだか数十年の命! そこまで醜く執着する意味が分からぬ! なぜ神は貴様らのような醜い者を気にかけられるのか!〉


 木を使って跳び、ラファエルの直上を取ったジャンヌがランスを腰だめに構えて落ちてくる。だがやはりラファエルに届かず、空中で穂先が止まった。が、あっさりとジャンヌはランスを手放す。


 落下中にジャンヌはラファエルへ向かって手を伸ばし、その手の中に光を集める。地面に着地したその足で前に飛び込み、ラファエルの眼前に出来上がったランスを突き入れる。


 しかし、その攻撃は顔を傾けられて避けられ、ラファエルにランスを持つ手を掴まれる。


〈死ね〉


 一瞬大きくジャンヌの体が跳ね、ラファエルが手を放すと、彼女はゆっくりと仰向けに倒れた。見開かれた目は瞳孔が開き、生気が無かった。


「ジャンヌ!」


〈最早いちいち相手にするのも面倒。貴様ら全員、私の手で死ぬがよい〉


 ラファエルが両腕を高く掲げ、頭上に風の塊を作り上げる。


 そこへ、オージャンの罵倒が飛んできた。


『こんなしょ~もない作戦しか立てられず、この劣勢な状況を放置しておきながら、まだ人間を愚かとか言っているのだとしたら滑稽だな』


 ちょうど今さっき、人間を愚かだと言っていたラファエルは大きな怒りマークを頭に張りつける。だが、ラファエルは強力な自制心を発揮し、興奮を抑える。でも無駄だ。オージャンの罵倒は留まるところを知らない。


『余は神の考えが手に取るように分かる。このような愚鈍で浅はかな考えしかできないような単細胞、身近に置いておくのも無意味。分からんのか? そこの貴様だ貴様。貴様が神に愛されなくなったのは、神が人間に目移りした訳ではない。ただ単に、愛想を尽かされて見放されただけなのだ』


「貴様のような醜悪な輩に何が分かる!」


 ラファエルは声を荒げて翼を広げ、自分を中心に暴風を発生させた。あまりの力の強さに彼の体が輝き、溢れんばかりのエネルギーが巻き起こる。


 次の瞬間、校舎側の林の奥から銃弾が飛んできた。その無数の銃弾はラファエルの手前で止まって地面に落ちる。そのことを彼は少しも意に介さず、


「よかろう魔王。死ぬことが出来ぬというのなら、磔にして永遠に封じてやろう」


 最早ラファエルの興味はレシャール達に無く、翼を広げた彼は校舎へ飛んでいった。


 風に飛ばされ、地面に転がっていたレシャールは体中に感じる痛みに呻きながらスマホを取り出す。


 電話をかけると出てくれたオージャンの声に、レシャールは安心した。


「助けてくれませんこと」


 それだけを伝えると、レシャールは力尽きてスマホを取り落として気絶した。


 ネフィから『GPS機能』というオージャンにとっては謎なもので案内され、彼は一分と経たずその場に着いた。


 すぐさまオージャンはその場を一瞥し、一番ヤバいのがジャンヌだと気づく。


「アステリア。ネフィとガロウをこっちによこしてくれ」


 インカムに話しかけると、すぐに返信が来た。


『分かりました。元々X組は負傷者救助の仕事ですからね。オペレーターの方達も来てくれたので交代してそちらに向かわせます』


 オージャンはジャンヌの肩を持って抱き起こす。首を触って脈を取り、


「外傷がないのに心臓が止まっている」


『ど~すんの~? このままだったら、モノホンの幽霊になっちゃうよ~。てか、なってるか~』


 傍らにいるぬいぐるみのグリアスの軽口に取り合わず、オージャンは自分の右手首をかみ切って血と魔力を口に含む。


 そして、ジャンヌに口づけして血と魔力を流しこむ。


『うわ~お~!』


 はやし立てるグリアス。しばしジャンヌに反応がなかったが、いきなり彼女の体が跳ねた。そして目がグリンとむいて、体が痙攣し出す。次に喉を押さえて地面をのたうち回る。


 動いているということは心臓が動き出したのだろうが、それにしてもこの苦しみようはなんだろうと、グリアスが聞く。


「余の魔力は高濃度のエネルギーの塊だからな、半端な者が取り込もうとすれば許容できず死ぬ。だが、死の直前ならば強力な気付け薬になる。それでもエネルギーの奔流が体を駆け巡るから落ち着くまで死ぬほどツラいがな」


 手から放れたのをちょうどいいと思い、オージャンは次に行く。地面に転がっているレシャールとキネマを見て、大体同じぐらいだと判断し、キネマの首根っこを持って移動させてレシャールの隣に寝かせる。


 二人とも気絶しているだけで、ネフィが来るまでオージャンは特にやることがない。なので、暇つぶしに二人の顔を上から覗き込む。


「しばらく会わない間に随分と人相が変わったな。ガキはすぐ顔つきが変わる」


『どー考えても、殴られて顔面が歪んでいるとしか思えないね~』


 二人が話題にしているのはキネマの方だ。ラファエルの裏拳を喰らって、頬がひどく腫れている。


 と、話し声で気づいたのか、レシャールがパチリと目を開ける。目覚めてすぐ目の前にオージャンの顔があるのにもそれほど動揺せず、


「……本当に生きていたんですことね」


「そういうレシャールは今にも死にそうな顔色をしているぞ」


 ハッキリ言われ、レシャールは「ふふふ」とか細く笑う。


「とっくに死んでいるはずの人間ですから」


「ほう」


 適当そうなオージャンの相槌にも関わらず、レシャールは話を続ける。懺悔のように。


「先天性の血の病で、医者にも十六まで生きられないと言われていましたことよ」


「やぶ医者だったのか? まだ生きているではないか」


「キネマが……薬を持ってきたんですの。それを飲んだら体調がよくなり、普通の生活ができるようになりましたことよ」


「ほう」


「でも、その薬は……堕天使からもたらされたものでしたの。キネマは堕天使の命令を聞く代わりに、その薬を得ていたんです」


「中々思い切ったことをする奴だ」


 オージャンの驚きなどその程度だ。ほとんど気にかけていない。思っていた以上に興味を持たれなかったことで、またレシャールはか細く笑う。


「わたくしも途中でそのことに気づいたのですが……薬が無くなる恐怖でズルズルと……お互いに気づかない振りをしていましたことよ」


「お互い?」


「キネマもわたくしが気づいていることに気づいていました。でも、わたくしには一切堕天使と繋がっていることを打ち明けなかった。もしもの時、自分の独断にするためでしょう。……そのせいで、オージャンには迷惑をかけましたことね」


「命を狙われるのにはなれている。特に何も思わん」


「ふふふ、大魔王ですことね」


 隠していたことを素直に話したからか、レシャールの表情から後ろめたさが消えて、スッキリとした顔つきになった。

 狙撃された段階で犯人はキネマしかいないのは分かり切ってますけど、まあ理由はこんな感じです。

 理想の上司像の一つ「器が大きい」がありますけど、殺人未遂を許すほどの大きさはさすがにね。挽回できる失敗を笑って励ましてくれるレベルの器でいいんですよ。その程度の器があればいいんですよ。無い奴もいますから!

 さて、次回からついにオージャンの戦いが……始まらないんですよ、ビックリすることに。

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