復活のオージャン
ついに堕天使が大軍となって襲い掛かってきた。しかも電力不足から結界が弱化し、戦場を学園内に留めておけないというピンチ! というのが前回のお話。今回は主人公が帰ってきます!
警報が鳴り始めてから五分で、学園長アステリアが作戦司令室に飛び込んできた。
パジャマの上にジャケットだけを羽織った格好で、
「シフトに入っているナンバーズとサブは全員学園に来るように! 非番で飛行能力を有する三年七九DK! 二年三CEJ! 一年一は敷地外に出た堕天使を討って! オペレーターはまず学園外に出た堕天使の数と位置を残らず配信! 避難誘導に入っているサポートは各クラス所定の場所に行って住民を避難! 残りの非番は別命あるまで待機! いつでも動けるように!」
全ての学年クラスのシフトと学生の能力が頭に入っているからこその指示だ。
「学園長! 校舎の防衛が! 敵はもうすでに結界を破ろうとしています!」
校舎は結界の外にあるが、今その結界は頼りない。
今出ているナンバーズが守っている結界の箇所はほんの一部。それでも、敵の多さを考えるとよく死守している。だが、やはり人数が足りない。結界を破砕して校舎を攻撃しようとしているところを止めに行けないし、結界の穴から外に出る堕天使も止めにいけない。
「大変です!」
オペレーターの叫び声が上がり、続けて――、
「準戦闘区域に出た堕天使は、一直線に市街地を目指しています!」
作戦室全体が冷水をぶっかけられたように冷え、一瞬混乱のあまり体から力が抜けた者もいた。
「しっかりしなさいっ!」
だが、アステリアの活で再び体に力が戻る。
「仲間を信じなさい! 我が学園の生徒がむざむざ堕天使の好きにさせると思いますか!」
その言葉通り、準戦闘区域に入った堕天使の先頭集団が次々に撃墜されていく。
「シフトに入っているナンバーズ到着! 戦闘に入ります!」
徐々に報告の声にも力が入ってくる。だが、グラウンドを見ていたガロウから声が上がる。
「堕天使の増援確認! 数は――」
現れていくそばから番号がマークされていき、その数字を読み上げる。
「数は、二二四体! まだ増えます!」
「なんだってぇ!」
校舎が衝撃で揺れた――堕天使の攻撃を受けたのだ。
「学園外に出る堕天使の数、止まりません!」
「非番の陰陽師を呼びなさい! 結界の〈要石〉に配置して結界を強化させて――」
「あ、堕天使が――準戦闘区域を抜けます!」
このまま堕天使が準戦闘区域も出れば、警戒レベルは最悪のファイブとなり、一般人に死傷者が出る。
そう最悪がよぎった瞬間――一瞬で校舎全体が明るくなり、電力が戻った。その時、アステリアはグッと拳を握った。
準戦闘区域で空中戦を繰り広げている中の一人、シャルマル。一人という表現は違うかもしれない。今彼女は五人に分身している。
「仙技、重奏分身!」
雲に乗って飛ぶ五人のシャルマルはバラバラに動き、住宅街を目指して高速飛行する堕天使を背中から撃墜していく。
緋色の拳で見つけるはしから倒していくが、次から次へと湧いて出てくる。
彼女がいる地点よりもさらに上空を、天使の集団がまとまって飛んでいた。すぐさま追いかけるが、集団から二体の天使が足止めに出てきた。
一人のシャルマルは止められたが、少し遅れて気づいたもう一人のシャルマルが必死に追いかける。
だが、間に合わない。
「ふっざけんな~!」
区域の境界に近づいた天使は、銃器を民家に向けて構えた。そして、一切の躊躇なく掃射した。
だが、天使の弾は全て空中で霧散し、消えた。
驚きの中にいた堕天使は、驚いたまま緋色の拳を受けて消滅した。
殴り倒してから驚くことにしていたシャルマルは、ちゃんと驚いた。
「なにが起こったんだ!?」
そこに声が響く。いや、声ではなく哄笑だ。
『ハーハッハッハッハッハッハッハッハッハ! ハーハッハッハッハッハッハッハッハッハ! ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』
上機嫌で気持ちの良さそうな哄笑。場違いなそれで、戦場に戸惑いの空気が流れる。
『空を飛びまわるうるさいハエどもよ。眼下に刻まれし偉大なる余の紋章をその目にしかと見よ!』
かなり上空まで来ていたシャルマルは、地面から立ち上る黒紫色のオーラに気づいた。そのオーラは地面に引かれた線に沿って続き、学園だけでなく準戦闘区域のほとんどを円で囲っていた。
円の中に書かれた幾何学模様は一筆書きで書かれている。不思議なのは、建物で線が断絶しているところも、ちゃんとオーラが出ていて、次の線に繋がっているところだ。
シャルマルも中にいるので分からないだろうが、外部から見ればそこら一帯は不透明なドームで囲まれていた。そのドームが先程の攻撃を無効化させたのだ。
『これほど大きく書かれていたものに気づかないとは憐れだな! 貴様ら目が二つでは足りんのではないのか? いっそハエになって複眼にしてもらったらどうだ? しかし、結界を抜けてもまだ閉じ込められているのに気づかず、自由になった気でいた空中遊覧はどうだった? 楽しかったか? こういうのを、この世界では『ドッキリ大成功』と言うらしいぞ』
しゃべりの途中で我慢できず、声に笑いが混じり、震える。
『余の結界を破りたいなら、神の力を秘めし光り輝く神具を用意するのだな! 神に見放された堕天使どもに用意できるとは思えんがな! ハーハッハッハッハ!』
助けられた。確かに助けられたのだが、プチプチとシャルマルの頭に怒りマークが張りついていく。
「生きていたのか……というか、僕達まで一緒くたにハエ呼ばわりしただろ、魔王~!」
ただ、今は残っている堕天使に集中していく。学園から今入った情報によると、もう敷地外に出る堕天使はいないらしい。
大魔王には大魔王たる登場の仕方がある。
一つは高いところからの登場。そしてもう一つは、絶対に目立つこと。
校舎の屋上の建物の上、まさに天辺中の天辺でオージャンはマイクを片手に持って存在していた。さらに彼の周りに浮遊する人形とぬいぐるみ達は、小さなライトを持って彼を照らし続けている。
『大魔王オージャン、降臨!』
光を浴びて、オージャンは人差し指を立てて突き上げていた。
ぬいぐるみと人形に紛れて空撮するドローンが、彼の姿をモニターに映し出す。その姿を作戦司令室で見ていたネフィとガロウが大口を開けて愕然としていた。
「バカな! 貴様は死んだはずだ!」
そんな声が堕天使側から上がり、オージャンは「ふん」と鼻で笑った。
『無能無知無教養など諸々の「ム」がつく頭の悪い奴め! まあ、この世界の聖痕持ちは大事にされているから知らんのも無理はない。教えておいてやろう。聖痕を受けた者は、神の使命を達するまで死ぬことすら許されんのだ!』
「じょ、冗談だろ」
そんな小さな呟きすらオージャンの耳は拾い、
『冗談などではない。余が聖痕持ちを神の奴隷と言ったのはそういうわけだ。奴らには瀕死はあっても死亡はない。余だってな~……余だって何度となく勇者を倒したのだ! それこそ灰も残さず倒したのだ! なのに、あいつ平気な顔してまた余の前に出てくるのだぞ! 結局余が負け……負けてはいないが、なんだかんだで一回だけ倒れた……一回キリだったのだぞ! 戦績は七四勝い、いいい、一敗…………これが納得できるか~!』
確かにとは思うが、勇者と魔王の戦いってそんなものだろ、とも思ってしまう。
興奮していたオージャンは傍らにいる可愛くない羊のぬいぐるみに肩を叩かれ、コホンと咳払いをして落ち着きを取り戻す。
『おいガキ共、いつまでボサッとしている。電力の代わりに余の魔力をしこたま流してやった。結界も万全の状態になり、憂いはなくなっただろ。さっさと堕天使共を倒せ』
グラウンドにいる学生達が、それを聞いて一気に攻勢に出た。戦力は十二分に揃っているし、堕天使側はオージャンの登場で困惑して動きが鈍い。
そんな中、堕天使の一体がオージャンの眼前の高さまで飛んできて、手を重ね合せたところから高エネルギーの火炎を放出させた。その攻撃は結界に阻まれたが、堕天使がさらに力を込めると、結界に穴が空いて威力が削がれた炎がオージャンまで届いた。
『そういえば前回、結界を突破したものがいたな』
オージャンはヒラリとかわし、火炎が途切れると結界の穴は勝手に自己修復された。
『どの程度の強度かはもう承知の上ということか。だが――』
空中にいた堕天使に式神である鬼が襲い掛かり、こん棒で叩き落とした。
『いつも言っているであろう。余を倒したいのなら先にこいつらを倒してからにしろと!』
腕を振るって、眼下にいる学生達を暗に示した――さも自分の部下の様に。
その時、オージャンが耳につけているインカムから通信が来た。相手はアステリアだ。
『オージャン君。敵の指揮官の位置は分かりますか?』
「いや、上手いこと波動を紛れ込ませているな。正確な位置は分からん」
『そうですか……』
「まあ心配するな。余にかかればあぶり出すなど造作もない」
インカムとの話し合いから、オージャンは再びマイクに口を近づけ、
『しかし、稚拙な作戦を立てた奴がいたものだ。取り立てて言うべきところは速さだけだな。それも読まれていては何の意味もないがな。結局は結界を突破させた隊を孤立させ、無駄に殺しただけだ。余にしてみれば、スマホの操作よりも分かりやすい強攻策だった。こんなしょ~もない作戦しか立てられず、この劣勢な状況を放置しておきながら、まだ人間を愚かとか言っているのだとしたら滑稽だな』
そして、オージャンはかぶりを振りながら深々と重たいため息をつく。
『余は神の考えが手に取るように分かる。このような愚鈍で浅はかな考えしかできないような単細胞、身近に置いておくのも無意味というかいるだけ邪魔。分からんのか? そこの貴様だ貴様。貴様が神に愛されなくなったのは、神が人間に目移りした訳ではない。ただ単に、愛想を尽かされて見放されただけなのだ』
オージャンは神の考えなど分かりたくもないし、相手が見えていたわけでもない。ただ適当に下を指さしつつ挑発しただけだ。堕天使がムキになりそうに、あえて神の考えを理解したかのように振る舞い――果たして、成功した。
校舎から一番遠い結界の〈要石〉がある付近から、特にムカつく波動をキャッチした。
「いたぞ」
すぐにインカムからアステリアに情報を渡し、もうここにいる必要のないオージャンは建物から下りて校舎に入る。
「上級の天使だ。学園の結界を破壊し、学園外に出る作戦を継続させるつもりのようだ」
『ケ~ケッケッケッケ。しつこい男は嫌われるっていうのにね~』
階段を何段も飛ばして下りるオージャンに並走し、羊のぬいぐるみに憑依しているグリアスが声を出す。
『分かりました。すぐに三年のナンバーズを――』
『ちょっとオージャン!』
割り込んできたうるさい声に、オージャンは目をつぶった。
「なんだ村娘A。余は今忙しいのだ。人智を超えたドジ話なら後で聞いてやる」
『誰が村娘Aよ! ってか生きてたんなら――!』
『後にしてください、ネフィさん! とにかくオージャン君、そちらにはナンバーズを向かわせますのであなたは待機をしていてください。放出できない魔力を体内から直接学園に流し込んだのです。消耗しているでしょう』
オージャンは渋い顔して、左掌にできた穴を見下ろす。聖痕の影響で体外に魔力を放出できないため、無理にでも放出するためにあえて自分の体を傷つけ、そこから魔力を溢れさせたのだ。
だが、この方法だと自らの意思で放出しているわけではないので加減が難しい。それになにより痛い。魔力を外に多く出そうとすればするほど、傷を大きく深くさせないといけない。左手にできた穴も、掌から手首まで届く深さで五センチはある。
ちょっと勢いよくやりすぎたこともあり、送り込んだ魔力はこの島全体の電力を五時間はカバーできるほどだった。
オージャンはぶすくれ、走りを緩める。
「ならば任せる。ただし、戦略的に退いたことも余達の評点に加点しておけよ」
『分かっています』
仏頂面のオージャンの頭にグリアスがケタケタと笑いながら乗っかる。それでイラッときたオージャンだが、懐のスマホが鳴り出したのでひとまずそちらに出る。
「どうしたレシャール? バイトのシフトの相談か?」
『助けてくれませんこと』
絞り出すようなか細い声を聴いた瞬間、オージャンは再び走り出した。
オージャンが帰ってきた~! やっぱり頼りになる上司がいると違いますね! なんていうか……活気が出る!
さて、ひとまず堕天使の計画をくじいたオージャンですが、最後になにやら救援要請が入りました。次回は今回の裏側のお話をします。
ピンチの時にきてくれる上司ってホント理想ですよ!




