堕天使の不意打ち
主人公不在で始まる最終決戦。まあ、主人公のいないところで話が進むのは、私が書くストーリーではよくあることです。
ネフィが頑張って交渉し、どうにか第三週の金曜日に二年生のサポートランクのPクラスと練習試合を持てた。
クラス対抗試合でX組はネフィ・ガロウ・キネマ・ジャンヌの四人で、Pクラスの七人と試合をした。レシャールは体調面でキネマが参加を許さず、グリアスには連絡したが返信すらなかった。
人数の差と参謀の不在、ガロウが魔剣を使いこなせないこともあり、苦戦するかと思われたが、キネマが上手く立ち回ったおかげで勝利した。
土日は教職員が休みのため練習試合は行われず、ついに第四週に入った。来週の火曜日三〇日にオンザバージの結果が出る。つまり、閉鎖か存続か。
今週はじゃんじゃん練習試合を入れたいところだが、土曜日に高確率の堕天使警報予測が入っている。前日金曜日は体を休めるため、全クラス練習試合を入れられない。
そんなわけで月曜日の午後。一週間の予定を決めるため、X組で作戦会議が行われる。
欠席はジャンヌとグリアス。四人いるだけ十分過ぎる。
ホワイトボードの前でネフィは、
「今週は三試合やるわよ!」
鼻息荒く息巻いた。
自分の腕を枕にしているガロウが、ヒラヒラと手を振る。
「無理だって。今時そんなローテーション、メッシュ先生が許すわけないだろ」
「でも、もうやるクラスの委員長とは話をつけちゃったし」
「お詫びしてキャンセルした方がよろしいかと」
「あら、面白そうじゃありませんこと?」
「だよね!」
「お嬢様」
ジロッとキネマが見るが、レシャールはツーンっとソッポを向く。
「だ~いじょうぶだって! 回復役の私がいるんだし、二連戦や三連戦ぐらい」
「なに話してんの?」
ネフィが得意気に胸を叩いたところで、ジャンヌが教室に顔を出した。
「今週練習試合を三つやるかって」
「三つ? は、冗談」
「あなたには無理でしょうから、一つにでも出ればいいですことよ」
素っ気ない言葉にジャンヌは舌打ちして、長机の端っこに腰掛け、
「今週サポートの仕事を入れないのかって話! 今週末は高確率の堕天使警報が入ってっしょ。勝てるかどうかの練習試合詰め込むよか、そっちの方をやっといた方がいいでしょ、マジで」
「あ~、そう言えばそうだったな。希望出すんなら月曜の三時までだったんじゃなかったっけ?」
「オージャンは抜け目なく拾っていましたけど、委員長はどうするんですこと?」
ネフィは強張った笑みで固まっている。どうやら練習試合のことばかり考えていて、堕天使の情報を一切調べていなかったようだ。
表情からそれを察したクラスメイトは、重たいため息をつく。
「サポートの仕事を入れるのでしたら、練習試合三つは許可が絶対おりませんね」
レシャールがスマホで情報を確認して、
「土曜日に警戒レベルスリーが設定されていますし、金曜だけでなく木曜も休んだ方がいいですことよ」
「え~っと~、それじゃ火と水?」
オロオロしながら、ネフィはホワイトボードに「練習、三つ、スリー」と書き出す。
「サポートの仕事の種類はどうすんだ? また避難誘導か?」
「もっと学園で目立つほうがいいんじゃない。もしかしたら防衛に駆り出されて、この前みたくワンチャンあるかもしんないし」
今度は「サポート、わんちゃん」と書かれ、そのあたりからレシャールが口元を手でかくし、肩が震え始めた。
「それでしたら負傷者救助がいいかもしれませんね。一番戦場に近いサポートの仕事です」
「まあ、委員長が回復魔法使えるからいいっちゃいいけど……学園の仕事は確か、どっかで夜勤いれないといけないんじゃなかったっけ?」
「かなりあっちこっちに回るからクラス単位で動くことはないよな。クラスでの加点は無理だろ」
次々進む話に目を回し、ネフィが書くのは「それ、からい、かなり、勝てん」だ。
「なに書いてんだ、さっきから!」
ガロウのツッコミが入ったところで、レシャールは机に突っ伏して肩を震わせる。
「どうして三つとスリーって二回も三を書いてんだよ!」
「サポートワンちゃんって盲導犬のこと? 最後は激辛バトルに負けたなぞのダイイングメッセージみたいだし」
「え~ん! だってみんな早い~!」
目をペケにしてネフィが泣く。
結局、練習試合は火曜日と水曜日に決定し、予約を取っていた一クラスには断りの電話を入れた。そしてサポートの仕事はやることにし、内容は「負傷者救助」だ。
放課後になり、ネフィはレシャールとキネマと一緒に下校する。ガロウは残って聖剣の教師に魔剣の扱いを見てもらうらしい。
どうしてネフィがレシャール達と帰るかというと、
「明日からハードだからね。おいしいケーキを食べてエネルギーを蓄えなきゃ!」
こういうことらしい。
「構いませんけど、どう考えてもあなたの場合、摂取カロリーと脳に回るカロリーが釣り合わないと思いますことよ」
「ひどい!」
と、通行止めの道にさしかかった時、ちょうど通行止めの札が撤去された。
「あら、あれだけボロボロになったのに案外早く通れるようになりましたことね」
その道は、X組が第五階級の堕天使と戦った道だ。
「回り道せずによかったね!」
素直にラッキーを喜んで、ネフィは鼻歌混じりで開通第一号になる。
「あれ? 何か変な線がある」
ネフィが指差す先に、道路を横断するねずみ色の線があった。
「後日なにかあらためて工事をやるんじゃありませんこと? 大きな通りなのですから、まずは通れるようにしたのでしょう」
「そういえば寮の周りの道も工事の人が来て、測量とかして線を引いてたっけ」
「でしたらやっぱり後日まとめてなにか大がかりなことをするのでしょう」
特に気にせず、三人は線をまたいでいく。
「……ねえ、いつまで秘密にしているのかな?」
ネフィの言葉に、二人とも「何を?」とは聞かなかった。ただその瞬間、レシャールがキネマから数センチほど離れたが。
魔王オージャンの姿が見えなくなって一週間以上。寮の自室にも帰って来ない。学園でも色々と噂が出ているが、今のところは学園長の「この世界の水が合わなかったところに、季節外れだけど耐性がないインフルエンザにかかってメチャクチャ体調を崩した。そのため隔離した」という話が信じられている。
学園中で「魔王は風邪をひきやすい」と思われるようになったが……浮かばれない。犯人が捕まったと聞かないし、送り出してもあげていない。
「実感ないな」
「みんなそうですことよ。突然死にましただけでは……」
キネマは二人の会話に一切口を挟まず、黙っている。
「……オンザバージの結果が出ましたら学園長に言いましょう。そして、わたくしの店で集まりましょう」
「…………うん」
忙しくてよかった。どうであろうとも、気持ちが紛れるからと、ネフィは思った。
その日の夜に、各クラスの委員長に今週のシフトが回され、X組は無事に希望が通り、木曜日に学園での夜勤が入った。
火曜日と水曜日の二連戦の結果は、一勝一敗。やはり水曜日は本調子とは遠かった。水曜日にはレシャールも出たのだが、それでジャンヌの動きが明らかに鈍った。
ジャンヌはレシャールから遠く離れるため戦力を二分しなくてはいけなく、それまでは上手く立ち回って細かなところを補填してくれたキネマが、レシャールに付きっきりで離れたジャンヌ達を助けに行かなかった。
チームワークがグダグダで、かなりアッサリと負けた。
目立った成果も無く、木曜日の夜勤の日となった。
深夜一時、X組を含めた六クラスと宿直の先生二名が夜勤に入っている。
三時間ごとに二クラスが警戒にあたるローテーションで睡眠を取り、一クラスは作戦室でオペレーションの席につき、一クラスは見回りに行く。先生は作戦室の方につく。
ただ、そのローテーションだと間の担当が一番キツイ。まだ寝るのに早い時間に寝ておけと言われ、寝入り始めたら起こされて夜警にいかされ、終わって寝ても三・四時間で朝だ。
ジャンケンだけは強かったネフィは、最初の夜警を取った。問題なく終わり、今は男女に分かれて夢の中だ。
ジャンケンで負けた運の悪いクラスが二つ、眠気を押して頑張っている。
オペレーターの席で変化することないモニターを前にし、欠伸が止まらない七人の学生。だが、異変はいきなりやってきた。異音と共に、明かりがいきなり消えた。
「どうした?」
先生に言われ、すぐさま学生は内部バッテリーで動くパソコンを操作する。
「電気供給がいきなりストップ!」
「原因は不明です!」
「予備電力の切り替え、上手くいきません!」
先生はすぐさま見回りに出ているクラスに連絡を取り、
「今すぐ発電室へ――」
「待ってください! グラウンドに!」
その時、グラウンドの地面に巨大な光の指が突き出た。その指は地面を掴むと、一気に左右へ押し広げた。そのできた地面の裂け目から、堕天使が大挙して飛び出してきた。
「なぜ警報がならない!」
「警報のスイッチがオフに!」
先生は近くにある緊急の警報スイッチをすぐさま押し、島中に警報を鳴り響かせる。
寝ていた宿直の先生と夜勤の学生が飛び起きる。
「なになに!?」
半目で起きたネフィは、ボサボサの髪のまま枕元に手をやってメガネを見つけ、装着する。
「なんですこと、あれ」
ネフィはグラウンドを窓から見ていたみんなの中に混ざろうとするが、みんなくいるように見ているので隙間がない。
「なにが起きたの~!?」
それはこっちが聞きたいと、誰もが思った。
男子の部屋でも大騒ぎで、飛び起きたガロウはまず隣で寝ていたキネマがいないことに気づいた。
どこに行ったとキョロキョロしたが、すぐ宿直の先生に準備をするよう言われ、レシャールのところにでも行ったかと、とりあえず置いといた。
夜勤に入っていた三年と二年、三つのナンバーズ――二十一人はすぐにグラウンドへ飛び出て、クラスごとにまとまって戦闘に入る。
二つのサブの内、一つはオペレーター室に入って情報伝達に回り、一つはナンバーズの後方支援に入る。
X組は本来「負傷者救助」の仕事に入っていたが、ひとまずはオペレーターに入らされた。機械については作戦司令室と同種のものが中等部にもあり、そこでみっちりと練習させられるので、はえぬきの学生は問題なくこなせる。ネフィとガロウは学生寮と連絡を取り、今週のシフトに入っている学生の出撃をすぐさま要請した。
グラウンドでは結界の壁を使い、ナンバーズが半円の拠点を作り、堕天使に背後を取られないように上手いこと戦っている。
だが、堕天使側は出てきた学生に戦力をほとんど割かず、まず学園の敷地外を目指す。しかしそこには学園の強力な結界がある。
結界の間近で堕天使は銃口が丸く大きな銃器を脇に構え、一斉に掃射する。
その程度の攻撃で結界が破られるわけがないと思われたが、すぐに小さな亀裂が走った。
学園の結界は陰陽師の呪力と電力の融合で作られている。現在電力が著しく低下しているため、弱化しているのだ。
亀裂が走ってからは早かった。そこを中心に大きな穴が開き、堕天使が学園の敷地外へ飛び出していく。
出現からここまで三分とかかっていない。あまりに電光石火の行動で、警戒レベルはフォーになった。
X組のレシャールとジャンヌは発電室の様子を見に行かされていた。
「突発とかマジ勘弁だわ!」
「話には聞いていましたけど、これが門をこじ開けての襲来ですの。おそらく、かなり階級の高い堕天使が来ていますことね」
「無理やりとか、マジ鬼畜!」
配電室の鍵を持ってかけつけ、ジャンヌがすぐに開錠しようとした。だが、手応えの異変に気づき、ドアノブを捻って押した。
難なく開いた内部を見て、二人は白い吐息を出した。中は冷凍庫以上に氷の世界だった。
しばらく言葉もなく立ち尽くしていたが、
「ねえ、これって……」
ジャンヌがしゃべり出すとレシャールは数歩後ずさり、ハッとして駆けだした。
「ちょ! マジ待てって!」
慌ててジャンヌも追いかけた。
それと入れ替わるように現れた男子学生。彼は隣に浮遊している煙のような人に聞き、凍りついた配電ケーブルの一部を力任せに砕き、露出した導線に己の手を突き刺した。当然、血が流れ出た。
ネフィが会話を聞いての書き出しですけど、三つ目に関してはどんな耳してんだと思うほど単語にこだわっていません。彼女のポンコツぶりが分かる。
そしてラストに出てきた人(人達)ですが、お察しの通りの人物ですので言う必要はないでしょう。
次回は先手を取られてあたふたしたけど、反撃にでましょう。という話になります。




