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魔王様、支配してください!  作者: 春花
残された者達
17/24

不在時

「委員長、なに魂出してんの?」


 午後の授業前にジャンヌが教室に来た時、ネフィは机に突っ伏し、世を儚んで頭上から天使の輪を上げていた。ときにジャンヌも来たということは、彼女もネフィが魔王を狙撃したとは欠片も思っていないようだ。


 午後の授業時に復活したネフィは、どうすればあと半月でオンザバージを回避できるかの会議を始めた。


「アイツ、なにか言ってなかった?」


 ジャンヌに一番に聞かれて、ネフィは腕を組んでうなる。


「う~ん……上のクラスと戦うとは言っていたけど、具体的なことはなにも……」


「終わったな」


「まあ、絶望的ですことね」


「どうしてもう諦め!? 諦めたらそこで試合終了ってよく言われるけど、試合前に諦めたらもうどうすんの!?」


 慌てて大仰に手を振り回して訴えるネフィに、みんなは胡乱げな視線をやる。


「だってさ~、オージャンだったら何とかしてくれそうな雰囲気はあったけど、委員長じゃな~」


「うっ」


 ガロウの正直な評価に、ネフィは言葉を詰まらせて呻いた。まあ、ここまで追い詰められた要因の一つに、彼女が頑張ったというのがあるから仕方ない。


「…………少し調べてみましたけど、過去オンザバージ中に二十戦二十勝したクラスもあったそうですが、そんなクラスも閉鎖していますことよ。戦いで存在を示すだけでは足りないと思いますけど、どうお考えですこと?」


「え~、そんなこと急に言われても~」


「急にって……もう半月経ってるだろ」


 一月しか猶予がないのに……ただ、その程度なのは分かっているので、みんなは大して呆れた様子もなく、


「現実的に考えますと、クラス対抗で練習試合をして勝つのが一番のアピールになりますことよ。ただ、わたくし達のクラスだと相手より何名か少なくなりますけど」


 ここにいる全員が出ても五名で、基本七名構成のクラス対抗だと二人少ない。


「クラスから代表者を選んでやるやつだと、チームワークの点が低いからな」


「そうそう続けてお嬢様を練習試合に出しませんよ。お体に障りますので」


「少し過剰ですことよ。わたくしはそれほど貧弱ではありませんことよ」


「ってか、レシャールと一緒には戦いたくない。マジで」


「わたくしも火を出す度にガクブルと震えて縮こまる方がいますと、気をつかってしまいますことよ」


 レシャールは壁側、ジャンヌは窓側を見ながらも、間でバチバチとしたものを走らせる。レシャールの攻撃がもろにジャンヌの弱点とはいえ、どうして日常生活でも相性が悪いんだと、他の人達は押し黙って思った。


 と、ジャンヌが長机に手をついて立ち上がる。


「今日仕事入ってるからもう行くわ。なんか決まったら、次に来た時にでも教えて。気が向いたら顔出すから」


「あ、連絡先を――」


「百年早いってーの」


 あっさり袖にされる。スマホを持ったまま固まって見送ったネフィは、


「誰かジャンヌさんの連絡先知ってる?」


「クラス内ラインぐらいでしたら」


「俺も」


「大抵既読もつきませんし、ついてもスルーしますことよ」


 クラスメイトなのにプライベートな連絡先を誰も知らなかった。こうなってくると、すぐに彼女の連絡先をゲットできたオージャンは凄かったのだと、再認識させられた。


(さすがは魔王)


 ネフィはそう感心するが、魔王であるのは関係ないと思う……。



 放課後にグラウンドでガロウは居残って魔剣を振り続けていた。


 何度も繰り返し振ることで、この魔剣が「風」の属性を持っていることを確信し、その扱いの難しさにも気づいた。下手に扱えば周りだけでなく自分も吹っ飛ばされかねない。


 ガロウは素振りがちょうど五〇〇回になったので休憩を入れ、タオルで汗を拭いた後にスポーツドリンクを仰ぎ飲む。


 ふぅ~っと一息ついてから、手の中にある茜色の刀身に自分の顔を映す。


「ったく、せめて説明書ぐらい残しておけよな」


 少し休憩を入れ、また練習に戻ろうとした時、携帯にメールの着信があった。草野球の誘いだ。


 しばし迷ったガロウは、しばらくは土日の午前中だけな。と返信して練習に戻った。


 魔剣に慣れることも大事だが、守るべき人を意識するための交流も大事だと、ガロウはオージャンから教わった。



「う~! 練習試合の相手がいない~!」


 夜、寮の部屋でネフィは他のクラスに電話で練習試合の申し込みをしているが、どのクラスも今週という急な申し出は受けてくれない。無謀かなと思えるサブランクの下位にも聞いたのに、答えは同じだった。


 空振りに次ぐ空振りで、テンションが下がったネフィはメガネを外してベッドに突っ伏した。


「オージャンは残りの半月で、どうするつもりだったんだろう~……」


 こんなことならもっと色々聞いておけばよかったと後悔する。このままだと、この一週間はマジメに授業へ出て、涙ぐましく平常点を上げるしかできない。そして、そんなものはスズメの涙にしかならないことは、さすがのネフィも分かる。


「あ。そうだ、オージャンがダメなら……」


 と、ネフィはメガネをかけ直し、愛用の剣を引っ張り出して胸に抱きかかえる。


「副委員長として、委員長のカズキの仕事はしっかり見てたんだ。どうやっていたか思い出せば…………」


 と、記憶をたどったが、仕事は彼が積極的にやるのでまかせっきりだったことしか思い出せなかった。しかも、嫌なことまで思い出して凹んで、座った体勢のまま前にポテッと倒れる。


「うう~、誰かオンザバージを覆す方法を教えて~」


 それは一〇〇年を超えるソロモスチューラ学園で、誰も知らない答えだ。



 閉店したパプリカで、ストールを肩にかけたレシャールはシフトの調整をしていた。


「タダだからほぼ毎日に入れていたので、調整が面倒で仕方ありませんことよ」


 そう言いながらも、やっているのはオージャンの抜けた穴を埋めるためのものではなく、なるべく午前中の授業に自分が出るための調整だ。キネマさえ店に入れば大丈夫だろうという考えと……、少し彼から距離を置きたい気持ちからだ。


「彼もかなり奥様達から人気が出ていたのですが……残念です」


 食器を片づけながら、キネマが会話に応える。


 ふと、レシャールのペンが止まった。


「魔王が作った魔王軍、見たかったですわね」


「どうしてですか?」


「今、X組はオージャンを失ったのに、まだ諦めずに動いている。それは、みんなが本気になったから……各々がちゃんと自分の責任を意識し出したから。オージャンが時間をかけてまでクラスにこだわった成果ですことね。以前の委員長の時とは違いますこと」


 レシャールは再びペンを走らせ、前にかかってきたライトグリーンの髪を手で耳の後ろにかける。


「以前の委員長は優秀でしたし、彼についていけば間違いないと思えるだけの胆力がありましたわ。それで全ての仕事を彼に任せていた。だから彼がいなくなった時、わたくし達は何をすればいいのか分からず、どうやって戦えばいいのか分からず、どうして戦うのか分からなくなった。上手くいかないことに嫌気がさして、みんなクラスを見放した…………案外、今も異世界では魔王軍が勇者と戦っているかもしれませんことね」


 と、レシャールはペンを置いた。シフトの調整が終わって伸びをしたところへ、香りのいいハーブティーが差し出された。


「お嬢様。ご苦労様です」


 気が利くタイミングだ。レシャールは無言でカップを持って口をつけ――彼女の手から落ちたカップがテーブルではね、床に落ちて割れる。


「お嬢様!」


 すぐさまキネマはレシャールの背中に手をやり、彼女の顔をのぞき込む。いつも白い顔が、今は青白くなっている。


 キネマはレシャールの制服のポケットに手を突っ込み、ケースを取り出して驚愕した。この前と薬の数が変わっていない。飲んでいなかったのだと、確認を怠っていた自分を殺したくなった。


 自殺は後にして、キネマは慌てて中から金の丸薬を二つ取り出す。


「さ、お嬢様!」


 掌に乗っけて、レシャールの口元に持っていくが、彼女は沈痛そうな顔で背ける。


「飲みたくありませんわ」


 キネマはレシャールの想いが痛いほど分かったが、「申し訳ございません!」と言って無理やり口の中に丸薬を入れ、そのまま吐き出させないように手で押さえ続けた。


 髪を振り乱し、手と足をもがき、目の端に涙が流れるのにも構わず、キネマはレシャールの口を押さえ続けた。そして、ゴクッと彼女の喉が鳴ったところで手を放した。


 レシャールは「ハァハァ」と荒く肩で息をつき、徐々に顔色が元に戻る。だが、気分とは裏腹に、レシャールの心には黒いモヤが渦巻く。


「ふふふ」


「お嬢様、どのような罰でも」


 と、頭を下げるキネマにも、寂しそうに笑うレシャールは関心を払わない。


「…………最低ですわね、わたくしは」


「お嬢様に非はありません!」


 キネマが強く断じるが、レシャールはそうは思わない。


「魔王を討つ者が勇者だというのなら、その称号は反吐がでますことね」


 レシャールの目の端から、涙が一筋流れた。



 バルコニーから下に並ぶ部下を見下ろし、荘厳な翼を広げる堕天使――ラファエルは腕を振るった。


「皆の者! 準備は整った!」


 大きな歓声が上がり、治まるのをしばらく待ってから続ける。


「唯一の懸念であった魔王も死に、最早我らの作戦を妨げるものは何もない! 今こそ地上にある愚かな人間共の拠点を占拠し、我らの始まりの地とするのだ!」


 そして、ラファエルは拳を赤黒い空に突き上げる。


「これは聖戦だ! 愚かな人間には神の愛を受ける資格など無いのだ!」


 一際強い歓声が上がり、ラファエルはそれに手を振って応えてから奥へ下がった。


 廊下で控えていた部下の堕天使は恭しく頭を下げ、


「ラファエル様」


「どうかしたか?」


 歩きながらのラファエルの後ろにつき、そのまま話に入る。


「はい。地上にいる者からできる限り一般人への攻撃は止めてほしいと」


「無意味な願いだ。我らの目的は分不相応な人間の駆除だ。区別など必要ない。が、奴には「もちろんそのつもりだ」とでも返しておけ。その方がよく働くだろう」


「はっ」


 堕天使はラファエルが玉座の間に入る前に離れ、ラファエルはそのまま赤絨毯の上を歩き、玉座に身を沈める。


「本当に人間は愚かだな。自分さえ良ければ他人を省みないのだから」


 ラファエルは配下に酒を持って来させ、前祝として一気に飲み干す。


「ふふふ、神様。あなた様が愛する人間が大勢死にますよ? 止めたいのでしたら、自ら御出でになってください。あなた様に罰せられるなら、私は喜んで消滅いたしますよ。そしてそのことを、ずっと……ず~っと覚えていてください」


 べとつく笑みをこぼしながら、ラファエルは歪んだ表情を周囲の鏡に映していた。

 ついに決戦が近づいてきました。その際にサポートのX組は出番があるのかは分かりませんけど。

 リーダーがいない時になまけるか、仕事をきっちりこなすかはやはりリーダーの教育しだいだと思いますね。話の中でも言っていますが、リーダーが優秀で一人で何でもこなす人だったら、いなくなった時にどうすればいいのか困りますよね。

 さて、お話の方は最終決戦が近づいています。決戦時には大したドッキリはないので、戦いを楽しんでください。

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