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魔王様、支配してください!  作者: 春花
残された者達
16/24

オージャンの死因は?

 前回、いきなりですがオージャンが死んでしまいました。

 第二週の金曜日。皮肉なことにオージャンが定めていた十五日以内に、クラスメイト全員がX組に集まった。グリアスは可愛くない羊のぬいぐるみに憑依した状態での出席だが。


 集まった理由は、学園長直々にみんなへ連絡が来たからだ。オージャンが死亡したことと、それについて大切な話があると。


 各々誰とも視線を合わさない。


 そんなところに、教室のドアをノックして学園長のアステリアが姿を見せた。


「みんな、いいかしら? 辛いかもしれないけど、オージャン君のことについて分かっている限りのことを教えておくわ」


 その途端、全員がアステリアに詰めかける。


「ウソですよね! オージャンが死んだなんて!」


「魔王が簡単に死んだら勇者なんて必要ないじゃん! マジで! なんの冗談よ!」


「オージャンに会わせてくれませんこと」


 口々に質問をするので、アステリアは目をペケマークにして圧倒される。


「ちょっと、ちょっと待って! 落ち着いて、みんな!」


 部屋の隅にまで追いやられて、アステリアは声だけでなく両腕を上げた。


「姉さんから放れろ!」


 廊下にいたシャルマルが教室に入りざまに端っこにいたガロウに蹴りを入れ、全員をアステリアの前からどかせた。


「随分と狭く貧相なんだな、サポートランクの教室は」


 将棋倒しになった下からネフィが起き上がって、


「シャルマルさん! ナンバーズのあなたがなんの――」


 小馬鹿にするような物言いに怒ったが、シャルマルに「ああ?」と睨まれたらスゴスゴと口を閉じた。


「魔王が死んだのは本当だ。死体の第一発見者は僕だ」


 シャルマルの言葉に衝撃を受け、全員が黙りこくった。


「姉さんに魔王がどうして死んだのか聞きに行ったら、ここで説明するって言うからついて来たんだ」


「あなたがオージャンのことを気になさるんですこと?」


「不可解なことが多いから気になるだけだ! おまえらは魔王がいなくなっただけなのに、捨てられた犬のようにしょぼくれているな」


「なんだと!」


 ガロウがいきり立ったところで、アステリアが手刀をシャルマルとX組の間に落とした。


「はい、そこまで。オージャン君の話に戻るわよ」


 X組の面々は不満げに席につき、シャルマルは固い椅子に座るのを嫌がって、最後尾で壁に寄りかかる。


「オージャン君は狙撃されました」


 クラスが驚きで固まるが、アステリアはさらに説明を続ける。


「オージャン君は魔王として常に命を狙われる立場にいたわ。彼の危険察知センサーは並大抵のものではありません。そんな彼を殺そうとするなら彼の常識外の方法……つまり、異世界の技術では不可能な、超長距離狙撃が手法の一つに上げられます」


「だ、誰がそんなこと!」


「この世界でオージャンの命を狙っている人なんていないんじゃ……」


 ジャンヌとネフィの言葉を受け止め、アステリアはポケットからビニールに入った弾丸を取り出した。


「オージャン君の体内から摘出したものです。この弾丸は必中のキューピッドの矢と同じものから作られていました。つまりオージャン君は堕天使に殺された可能性が高いです」


「そんなバカな!」


 声を上げて立ったガロウに、隣のネフィは目を白黒とさせ、


「え、なんで? 堕天使側の武器が使われてるならそうなんじゃ……」


「昨日は警報が鳴ってないだろ!」


「……あ」


 堕天使が魔三角陣から出て来ようとすれば島中に警報が鳴り響く。だが、オージャンが狙撃された木曜日は、警報が一度も鳴っていない。


「考えられるのは、水曜日の大規模襲来の際、堕天使がこちらのセンサーから察知されない何らかの方法を用いて潜み、ことに及んだ」


「ステルスということね」


 キネマの言葉にレシャールが重ねた。


「でも、どうしてオージャンをわざわざ狙い撃ちすんのよ。マジ意味わかんない」


「動機に関しては不明ですが、水曜日の侵攻時点で堕天使側にオージャン君を狙う動きがあったことは確かです」


 そう言われて、みんなは思い至った。強固な結界を抜けた堕天使が大した破壊活動もせず自分達と戦っていたのは、狙いがオージャンにあったからなのだと。


「それで私達は彼の身の安全をはかるため、木曜日に彼を呼び出したのですが……」


 その矢先に狙撃されたのだろう。


「おそらく、彼と最後にコンタクトを持っていたのはあなた達です。何か気づいたことはありませんか?」


 アステリアから逆に質問を受け、X組の面々はお互いに顔を見合わせる。


「って言っても、あの日はシェルターで一晩過ごした後で、避難した人達を帰して……俺達もあの場で解散したよな?」


「委員長がオージャンと一緒に学園に報告に行ったっしょ?」


「うん。でも、グリアスさんもいたよね? オージャンの腕に引っ付いてたし」


『あ~ん? アタシは体に戻って寝~てたよ。四六時中、こん中にいるわけじゃ~ない』


 ぬいぐるみの姿で前足を振って答える。それでみんなの視線はネフィだけに注がれる。


 ネフィは熱のこもったいくつもの視線に見られ、少し目を泳がせながら、


「え~っと…………あ! そうだ、私一旦女子寮に戻ったんだ!」


「なんで?」


「いや……身支度を整えようかと……」


「激しい運動もしていませんでしたのに?」


「だ、だって、報告が長引くとそのまま授業に入る時もあるし」


「だ~れも気にしねえよ」


「気持ちは分かるけど、時と場合を考えてよ。マジで」


 みんなに責められ、ネフィは肩をすぼめる。背後ではシャルマルが大きなため息をつく。


「結局、決定的な場面を目撃している奴は一人もいないんだな」


 呆れた口調に一瞬教室はピリついたが、アステリアがすぐに声を出してみんなの意識を自分に向ける。


「もう一つ考えられるのは、この島内に堕天使側の存在がいるという可能性です」


 教室の全員が驚愕で息を呑んだ。


 確かに堕天使側の武器が使われたからといって、犯人が堕天使だと結論付けるのは早急だ。だが、そんな可能性は露にも思っていなかった。


「う、裏切り者?」


『ケ~ケッケッケッケッケ! なら、怪しいのは委員長だ~ね!』


 誰もが心の奥ではちょっと思っていても口に出さなかったことを、グリアスは躊躇も遠慮もせず、すぐ言った。


『ハーフ! ハーフ!』


 はやし立てるほどに、ネフィは青ざめていく。


「やめなさいグリアスさん! 私はそういうことを追求しにきたわけではありません!」


 アステリアに強く注意され、グリアスは『は~い』と言ってすんなり口を閉じた。


 でも教室には不穏で気まずい空気が流れる。


 アステリアは咳払いをして仕切り直し、


「裏切り者の可能性は捨てきることができません。ですので、オージャン君の死はあなた達以外には伏せてあります。もちろん、このことに関わった全員に口止めをお願いしてあります。犯人についての捜査は学園で進めます。あなた達は気にせず…………と言うのも無理でしょうが、オンザバージ回避のために時間を使ってください。私は、応援しています」


 話を終えてからみんなの顔を見ていくが、やはり意気消沈して暗い。特にネフィの青ざめた顔は深刻だ。このまま去るのは心配で仕方ないが、アステリアも色々と忙しい。


「ごめんなさい」


 頭を下げて謝り、アステリアは教室を出て行った。それにシャルマルも続き――


「魔王なんかいなくなって清々した」


 ガタッと席を倒して立ち上がったのは、ガロウとジャンヌだった。


「なんだと」


「アンタ、さっきから調子乗りすぎ」


「短い間に随分と籠絡されたな。考えてもみろ? 相手は魔王だぞ。表向きはどうだったか知らないが、腹の底ではおまえ達を見下して笑っていたに決まっているだろ。従順に動く部下ができたって。新生魔王軍の先兵にされなかっただけラッキーだったな」


 ガロウが魔剣、ジャンヌがランスを手にしたところで、沈み込んでいたネフィもさすがに慌てて止めようと立ち上がる。


「や、やめなよ、みんな! 確かにオージャンは初日に「人間は愚かだ」って言ってたけど! ちゃんとみんなのことを考えてたでしょ!」


 止めようと言った言葉で、本当に全員の動きが止まった。


 意外に効果的過ぎたので、逆にネフィは戸惑った。


「あ、あれ? 私、なにか変なこと言った?」


『ケ~ケッケッケ! 魔王様、さ~いこう!』


 グリアスが長机の上で腹を抱えて笑い、シャルマルも肩を震わせる。


「やっぱり、魔王は魔王だったな」


 シャルマルは気分よさそうに出て行った。


 その次に、


「クソッ!」


「は~アホくさ」


 ガロウとジャンヌが教室を出て行く。


「言わなくてもいいことを言ってしまいましたことね」


「では、失礼します」


 レシャールもライトグリーンの髪をなびかせながら、キネマを伴って出て行く。


 次々に人がいなくなる事態に混乱し、ネフィは頭上に疑問符をいくつも浮かべる。そして、「そうだ、まだグリアスがいる」と視線を長机に向けると、もうそこにぬいぐるみはいなかった。


 あっという間に、またオージャンが来る前に逆戻りだ。


 一人残されて、


(あれ? これからどうすればいいんだろう……)


「無能」


 バッと背後を振り返ったが、誰もいなかった。何だかやけに涙が出た。



 金・土・日と無為に過ごし、惰性のようにネフィはX組に登校してきた。


 教室に来たら、ガロウとレシャール、キネマがすでに席にいた。


 あまりに見慣れない光景に、ネフィはドアを開けたまま立ち尽くした。


「なにしてんだ、委員長?」


「マヌケ面ですことよ」


「え、いや……みんなどして?」


 その質問に、何をバカなことをとばかりにため息を吐かれた。


「オージャンが言っていただろ。こんな底辺にいる俺達でも、いなくなったら困ることもあるかもしれないんだ。ま、どうなるかは分からないが、最後までは付き合うぜ」


「オージャンがわたくし達のことをどう思っていたのかは知りませんが、発言には賛同できましたことよ。か弱い者に奉仕するのは力を持つ者としての義務ですし、元々家からは学業と店の両立を求められていましたから、最初に戻っただけですことよ」


「どうやらお二方とも、休日があったおかげでいい感じに心の整理がついたようです」


「なにを訳知り顔で笑っていますこと」


 ムニーっとレシャールがピクリとも動いていなかったキネマの頬を引っ張る。


「え……え~っと、私のこと…………疑ってないの?」


「必中の弾を使ったとしても、あなたなら外しそうですことよ」


「なんでしょうか。あなたには目撃者も出さずに魔王を倒すことなんてできないと、断言できるんですよね」


「委員長はマジメだけが取り柄だからな。隠し事とかウソとか絶対にできないタイプで、やったとしてもすぐにボロが出るだろ」


 実はみんなけっこうヒドイことを言っているのだが、それに気づかずネフィは涙ぐみ、


(……もしかして、グリアスさんはみんなが自分達で答えが出せるように、わざと口に出して指摘してくれたんじゃ……)


 ネフィは深読みしていい方に考える。ポジティブに物事を考えられるのは個性だろう。


「ガロウくん! 午前の授業に出てくれるのね!?」


「任せろ!」


 全ての授業で爆睡。彼の信条は『学校の勉強が社会でなんの役に立つ』。


「レシャールさん! 午前の授業に出てくれるのね!?」


「仕方ありませんことね」


 全ての授業でスマホを使って読書。彼女は画一的な授業がつまらない。


「よ~し! みんなで頑張ろう!」


 ネフィはモチベーションが上がって拳を突き上げた。が、X組の平常点はむしろ落ちた。


 やっぱりやる気があったところで、本質がすんなり変わるわけがなかった。

 まあ不幸中の幸いというかオージャンは副委員長なので、いなくなってもすぐさま代わりが必要になるわけじゃない役職なんですよ。委員長のネフィもいることですし。

 オージャンがいなくなったら前に戻るのかといえばそんなことは全然なく、彼が残したことはちゃんと残っていたりするんです。

 いなくなっても大事ななにかを残している。理想の上司だ。

 次回はオージャンがいないなりにみんなでどうしようかと話し合います。ここからすごいスピードで日が進んでいきます。

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