次なる脅威
やっぱり評価にポイントが入ると嬉しいですね。暇つぶしにでも見捨てずに見てくれている皆様、ありがとうございます。それでは今回もレッツゴー。
オージャンは転んだネフィを助けずすれ違って、ジャンヌのところへ戻る。
「またせたな」
負けたジャンヌは、ヘソを曲げてオージャンから顔をそらしてソッポを向いている。だが彼は、素っ気ない態度を気にせず玉座の戒めを解いていく。
「頼みがあるんだが」
「イヤだ」
にべもない返事にオージャンはため息をついた。
「まだ何も言ってないが」
「ど~せ、オンザバージを覆すために協力してくれって言い出す気っしょ。そんな面倒なことマジごめんだし」
「貴様どこまで自意識が高いのだ? 前世持ちの自分が協力すればオンザバージなんて楽勝だぴょん。とでも思っているのか?」
「変な語尾を勝手につけんな、マジで!」
オージャンは一旦縄を解くのをやめ、ジャンヌの頭を掴んでグリッと自分の方を向かせる。
「さ、触んな! バカ! 変態! ロリコンじじい!」
強がりの罵声などオージャンは聞き流し、
「余は生まれる前の貴様に興味はない」
「ウソ言うな。アタシが嫌いな火を使ってきたくせに!」
「戦略として効果が認められると思ったから使っただけだ」
「アンタだってどうせ前世の私を期待してるだけでしょ! 真っ平なのよ! もう聖女らしさとかって!」
いきり立って叫び終わった合間を狙って、オージャンが短く言う。
「スイーツの試食を頼む」
「……………………は?」
一瞬何を言われたのか分からず、ジャンヌは呆けた声を漏らした。
「余は今、パプリカでアルバイトをしているのだが」
「アレってマジ!? てっきりアタシをおびき出すためとかって思ったけど」
「継続中だ。それでスイーツに興味を持って自分でも作っているのだが、どうも上手く出来ているか自分では判断がつかなくてな。貴様に試食をしてもらって、批評を頼みたい」
「なんでアタシが」
「貴様のブログを見たが」
「ちょ! 勝手に見んな!」
「さらしておいて何を言っているんだ。面白かったから一気に読んだが」
面と向かって面白いと言われ、とっさの返しが出て来ず、ジャンヌはちょっと頬を染めて口をパクパクと無意味に動かす。それに構わず、オージャン。
「スイーツに対するコメントが分かりやすく、広く種類を網羅している。このことから貴様の舌は信用でき、適切な評価をもらえるのではないかと判断した。毒味をさせるわけだから当然金はいらん。時間が合えばでいいが付き合ってくれ」
それからオージャンは縄解きに戻る。
オージャンみたいな奴、ジャンヌは初めて出会った。他人は自分達を通して前世しか見ていなかった。まるで今の彼女達には興味が無いとばかりに、焦点は常に前世にあった。それが嫌で前世のことを気にせず付き合える〈プレビオス〉ができた。
だがその〈プレビオス〉でも、オージャンほどスッパリ前世と今世を区切らなかった。一歩間違えれば自己否定やアイデンティティーの否定にもつながるから当然なのだ……が、ジャンヌは常に自分を見てほしいという思いを持っていた。その思いがあったからモデルの仕事もやるようになったのだ。
返事をせっつかれず、ジャンヌは黙って彼を見るが何も言ってこない。結局全て解いても黙っていたので、彼女の方から話しかける。
「そんだけかよ!」
「そうだ。何か不満か?」
「不満とか……」
ジャンヌはウニャムニャと口をもごもごさせ、何か言いたいのに上手く言葉にできない。
「ウジウジと……貴様は自尊心と前世に対する反抗心は高いと思っていたのだが? 言いたいことも言えないのか?」
カチンときたジャンヌはオージャンを見上げて文句を言おうとしたが――顔を上げた目前に彼の顔があった。息がかかるどころか間違いがあればキスができるほど近かったのに、オージャンの瞳に縫い止められて顔を外せなかった。
「前世の続きを今生きているわけではなく、今の貴様が今を生きているのだ。好きに生きればいいであろう。それには少し、余も興味はある」
アッサリと、オージャンは傾けていた上体を戻してジャンヌから離れる。
さっきからオージャンのペースに巻き込まれていると思ったジャンヌは、お腹の下あたりから熱が上がってくるのを感じ、頭にまできたところで――、
「連絡先!」
「ん?」
「連絡先交換しないと、時間を合わせられないっしょ! 感謝しなさいよ! アタシのプライベートの連絡先なんてすんごい価値があるんだからね!」
興奮した赤い顔でスマホを手に持って言われ、オージャンも合わせてスマホを取り出すが……。
「連絡先交換も、これでできるのか?」
魔王の戸惑った顔を見て、少し溜飲が下がったジャンヌは朗らかに笑った。
練習試合の残務(主に罠の後始末)はネフィに任せて、オージャンは一人で校舎内にいた。そろそろ目標としていた十五日が近づいてきたので、ここらでしっかりとクラスメイトに目的を認識して、クラスに戻ってきてほしいところだ。なにせ彼の作戦は、人数が必要なのだ。
そのための一手として、学園に書類を提出してきた。その帰りである。オージャンは背中を丸めるほど大きなため息をつく。それは疲労の色がアリアリと見えた。
『ケ~ケッケッケッケッケ!』
陰気な笑い声に、オージャンは足を止めた。周りを見るが、廊下に人の姿は無い。
『魔王のくせに自分を殺して似合わない優等生~。慣れない生活、ダメな上司、周りは憎い十六歳~、スットレスで~、ボ~ロボロ~』
「スットレス? なんだそれは? どこに隠れている?」
その時、オージャンはその場から離れた。すると、上から落ちてきたものがポテッと地面に落ちた。それは可愛くない羊のぬいぐるみだった。
誰かが上から落としたのかとオージャンは上を向いたが、天井しかない。
『こっちよ~、こっち』
声の方を向けば、ぬいぐるみが二本足で立っていた。それを見て、オージャンは〇一三号室の前にあった、動く人形のことを思い出した。
「貴様まさか、グリアスか?」
『そうよ~。ケ~ケッケッケッケッケ! 毎夜毎夜逢瀬をしている相手のこと、しっかり覚えていてくれてうれ~しいわ~』
オージャンは首をさするが文句一つ言わず、
「何の用だ?」
『涙ぐましく頑張っている魔王様に、い~こと教えてあげましょう~』
ぬいぐるみは前足でオージャンを指さす。
『X組は一年の時ナンバーズ目前のサブランクで~、すんごい委員長がいたのよ~』
「ほう。そいつはどうしたのだ? ネフィに愛想を尽かして、他のクラスに引き抜かれたのか?」
『戦死したのよ~。ケーケッケッケッケッケ!』
ぬいぐるみは片足で立ってクルクルと回りながら、
『X組の奴は多かれ少なかれそいつを引きずってる~。しがらみ~! 気まずくって、思い出したくなくって~……集まらない!』
ピタッと止まったぬいぐるみは、クリンッと顔を斜めに傾ける。
『オージャンはそいつの代わりになるの? 人間の後釜に座るの? 魔王なのに?』
オージャンは薄く笑い、肩を竦める。まるで気にしていない素振りだ。
「くだらん。おまえも気が向いたら授業に出ろよ」
自分も出ていないくせに、そんなことを言いつつぬいぐるみを跨いで行く。
『あともう一つ。ネフィは堕天使と人間のハーフだから』
ピタリと足を止めたオージャンはバッと振り返ったが、すでにぬいぐるみの姿は無かった。だが、残された彼の表情は、今まで見たことのないような驚愕に満ちていた。
月曜日の職員会議では、間近に予想される堕天使の侵攻に対するシフトの作成が話し合われていた。
クラス側からの希望だけで決めるのではなく、先週までのシフトや戦力の兼ね合いもある。練習試合の頻度なども考慮し、高等部の各学年から広く振り分けられる。もちろん、会議で強い発言力を持つのは安全管理部長のメッシュ先生だ。
「高確率時の夜に待機するナンバーズは三年に任せましょう。今までの傾向から堕天使は夜を狙ってくることが多いです。だから、経験豊富な三年を多く配分しましょう」
「反対です」
声を出したのは、広報部部長のセルヴィ先生(三十代前半)だ。
「そろそろ一年にも夜警を任せ、経験を積ませるべきです。広報の点では顔が知られている三年が活躍するのは好ましいですが、一年も目立たせておかなくては後々人々の興味が離れていってしまいます」
「世間の目よりも安全をだな!」
「興味が離れるということは寄付金も減少するということですよ!」
この二人のやり取りは毎度のことだ。周りの人達がなだめ、折衷案を出してどうにかシフトは決まっていく。
「それでは最後になりますが、住民の避難誘導のクラスを決めたいと思います」
サポートの仕事の中でも、これが一番人気の無い仕事だ。学園から離れるため評価をしてくれる先生の目がないので、加点要素がない。それに避難先での問題はクラスで解決しなくてはいけない。住民の文句やゴタゴタなど、問題はしょっちゅう起きる。特に住宅街の区画が一番面倒だ。クレームが多くあれば減点要素にもなる。
「今回はどうするか……」
「いつも通り中等部からも実践の空気に触れさせるため、何クラスか出しますか」
「一クラスだけ希望を出しているところがあるわよ。しかも住宅街の避難誘導を希望」
それを言い出した学園長アステリアに、全職員の目が向けられた。彼女は笑顔で、受理した書類をみんなに見せる。
「二年X組」
長々とした会議に疲れていた面々だが、驚きの声を上げると共に元気に立ち上がった。
「先頃現れた魔王がすでに支配の手を広げているというのか」
「ハッ! 地上に行った者からの確かな情報です」
部屋の奥に玉座が安置する一室。壁には多くの鏡がかけられ、玉座に座りながらどこを向いても自分の姿が確認できるようになっている。
その部屋では今、玉座の前に一体の堕天使が跪いている。
「奴はすでに力を持つ大勢の人間を従えています。このまま聖痕を持つ魔王を放置しておけば、神が愛される地上は人間が支配する以上に混沌と化すのは必定! 奴は必ず倒さなくてはなりません!」
「無論だ」
玉座に座っていた堕天使が立ち上がり、雄々しく荘厳な翼を広げ、部下に向かって手を張り出す。
「あの計画を急がせるがいい! それとあの者にも連絡を取っておけ! 次回の侵攻で第一とすべきは、魔王の首だ!」
「御意!」
みなさん覚えていますか? オージャンが魔剣を手にした時、上手いこと後始末を学生に押し付けていましたよね? アレですよアレ。アレのせいで今回のラストが引き起こされたんです。
次回はオージャンがどういう考えを持って行動しているか、ちょっとだけ書きます。
理想の上司像一つ、「部下の趣味に理解を示してくれる」。趣味に限らず、許容量の大きい人はいいです。知らないことも知ろうとしてくれる姿勢っていうのは、向こうから距離を縮めてくれようとしてくれるんだと思わせてくれます。小馬鹿にして「もう子どもじゃないんだから」とかって言われたら、月夜の無い日を調べたくなりますよね!
それではまた次回。




