第6章:遅すぎた足跡、あるいは競合
翌朝、レクスは調整の終わった大剣を受け取るため、再び『黒鉄堂』の門を叩いた。
引き渡された剣は、驚くほどしっくりと手に馴染む。ガザルの腕は確かだった。
「親父、最高の仕上がりだ。……それで、約束の四階層の『噂』ってやつを聞かせてくれ」
レクスが切り出すと、ガザルはバツの悪そうな顔をして、大きな鼻頭をかいた。
「……すまねえな、狼の兄ちゃん。四階層の『隠し水路』に関する最新の地図と情報は、さっき別の奴に売っちまった」
「なんだと?」
レクスの眉が跳ね上がる。ガザルはため息をつきながら、カウンターに置いてあった別の古い羊皮紙を広げた。
「冒険者ギルドの規約にもねえ、ただの商売だ。倍の金を積まれたら、断る理由はねえ。……買ったのは、昨晩お前が酒場で睨み合っていた、あの魔術剣のガキだ。ヒューゴとか言ったか」
ヒューゴ。
昨夜、効率とスマートさを説いていた男の顔が浮かぶ。あいつは口を動かしながら、すでに裏で先手を打っていたのだ。
「あいつは四階層に眠る『未踏の鉄鉱脈』を狙ってやがる。情報を持ったヒューゴの方が圧倒的に有利だ。今から追いかけても、まともにルートを競えばお前に勝ち目はねえぞ」
ガザルは警告するように、隻眼を鋭く光らせた。
だが、レクスは怒るどころか、フッと低く笑った。その目は、獲物を前にした飢えた狼そのものだった。
「勝ち目がねえなら、別の道を行くだけさ。親父、あいつが買わなかった『一番危険で、誰も使わない最短ルート』の地形だけ教えてくれ」
「……本気か? あそこは魔物の巣窟だぞ」
「野良犬には、野良犬の走り方があるんだよ」
効率的な正規ルートを進むヒューゴと、危険な獣道を強行突破するレクス。
四階層の暗闇を舞台に、二人の男の、互いの意地と生存を賭けた見えないレースが始まった。




