第4章:汗の結晶
深夜の『黒鉄堂』。
暖炉の火だけが赤々と燃える店内に、レクスは静かに戻ってきた。
ガザルはカウンターで古い斧を研いでいたが、レクスの姿を見ると、小さく鼻を鳴らした。
「おいおい、幽霊のお出ましにしちゃあ、ずいぶんと泥臭いな。生きて帰るとは思わなかったぜ」
「親父の目利きのおかげさ。この大剣、見た目よりずっと頑丈だった」
レクスは背中の大剣を机に置き、懐からボロ布に包まれた『氷液の髄木』を取り出した。机の上に置かれた瞬間、冷気が薄く広がり、ガザルの手が止まる。
ガザルは眼帯のない方の目を細め、無造作に木片を掴み上げた。親指の腹で表面を強くこすり、匂いを嗅ぐ。
「……ほう。三階層の『根の処刑人』を仕留めたか。口先だけの狼じゃなかったわけだ」
「いくらになる? そいつでまた、しばらく食いつなぎたい」
ガザルは木片を机に放り、腕を組んだ。
「銀貨二十枚。これが上限だ。お前が素人なら金貨一枚と言って騙してやるところだが、その手の肉刺に免じて、職人としての適正価格を出す」
銀貨二十枚。今のレクスにとっては大金だが、彼は首を横に振った。
「銀貨十五枚でいい。その代わり、条件がある」
「……ああん? 安くしろってのか? 耳が腐ったか、兄ちゃん」
「残りの五枚分で、この大剣の重心を少し削って、俺の体格に合わせて調整してほしい。それから、迷宮の四階層に関する『まともな噂』を教えてくれ。命を売る準備はできている」
ガザルはしばらくレクスを睨みつけていたが、やがて低く笑い声を漏らした。ドワーフの分厚い手が、レクスの肩を叩く。
「ハハッ! 目先の金より、次の生き残り方を選ぶか。気に入った。その取引、乗ってやるよ」
カウンターに、鈍い音を立てて十五枚の銀貨が並べられた。




