第24章:融点の攻防、あるいは鍛造の洗礼
鉄滓の海が、怪物の突進によって赤黒く跳ね上がった。
金属人形の右腕――巨大な破砕杭が、高圧の蒸気を噴き出しながらレクスの胸元へと迫る。標的は、彼の左胸にボルトで固定された『黒鉄の檻』だ。
――ガギィィィンッ!!
レクスは大剣を垂直に立て、直撃の軌道を僅かに逸らした。金属同士が激突する凄まじい衝撃音が空洞に響き渡る。受け流したものの、足元の鉄滓が粉砕され、レクスの身体は数メートル後方へと引きずられた。
骨が軋む。だが、四本のボルトで肋骨に打ち付けられた鉄殻は、その衝撃のすべてを冷徹に分散させていた。痛覚はない。ただ、肉体が物理的な負荷で限界を迎えていることを、左胸の奥の不規則な「不発の拍動」だけが告げていた。
「相変わらず、無茶苦茶な強度だな……!」
背後から飛び出したヒューゴが、新調された魔術剣を両手で構え、怪物の懐へと滑り込む。
かつての細身の美しい刀身は消え、今やガザルが強引に鉄殻を溶接した、肉厚で無骨な「断頭刀」のような姿に変貌していた。ヒューゴは魔術の詠唱を完全に放棄している。彼が狙ったのは、怪物の膝関節――鉄パイプと植物の根が、高熱でドロドロに融解し、結合している「最も柔らかい部位」だった。
「壊れろ……ッ!」
ヒューゴの咆哮とともに、無骨な魔術剣が怪物の関節へと叩きつけられた。
魔力による強化ではない。純粋な質量の衝突と、剣の内部に残留していた怪物の魔力遮断の特性が、金属人形の神代の魔術刻印を強引に「阻害」したのだ。
バリバリィィン! と、青白い火花が散り、金属人形の巨体が初めて大きく傾いた。
「レクス! 軸が狂ったぞ!」
「よくやった、へっぽこ!」
レクスは泥水を蹴るように鉄滓の海を跳んだ。
痛覚を檻に閉じ込めた男の肉体には、恐怖による縮こまりが一切ない。体勢を崩した金属人形の頭部――あの、人間の歯がびっしりと並んだ異形の顎が、レクスの大剣の射程圏内へと入る。
大剣を頭上高くに構え、レクスは自身の体重と、半分死にかけた肉体の全筋力をその一撃に収束させた。
狙うのは、装甲の隙間から覗く、金属と融解しきっていない植物の「黒い根の芯」だ。
「神代の機械だろうが、根っこがあるなら……毟り取るだけだ!」
重い大剣が、怪物の頭部へと真っ直ぐに振り下ろされた。




