第1章:武器商人の男との遭遇
路地裏の隅、煤けた看板が揺れる武器屋『黒鉄堂』。
ドアを押し開けると、錆びた鉄と安いオイルの臭いがレクスの鼻を突いた。
「……何の用だ、流れ者。うちは冷やかしならお断りだよ」
カウンターの奥から響いたのは、ひび割れたコップのような低い声。
店主のガザルは、片目を眼帯で覆った厳ついドワーフの老人だ。その鋭い隻眼が、レクスのボロい外套と、中身の軽そうな財布を値踏みするように睨みつける。
「鉄クズを買い取ってほしくてな。それと、代わりの獲物を探している」
レクスが折れた愛剣をカウンターに置くと、ガザルは鼻で笑った。
「買い取りだと? そんなナマクラ、ただのゴミだ。それに兄ちゃん、死にそうな顔をしてるぜ。ツケじゃあ、一本のナイフも売らねえからな」
「死にやしないさ。……まだな」
レクスは懐から、数枚の錆びた銅貨をそっと差し出した。ガザルの目が、その銅貨ではなく、レクスの『手のひら』に留まる。
無数の肉刺と、剣を握り続けた者特有の分厚い皮膚。
ガザルの険しい目元が、ほんの少しだけ動いた。
「……ふん。口先だけのガキかと思ったが、一応は戦いの中にいた手のようだな」
ガザルはカウンターの下から、一本の無骨な大剣を取り出した。装飾もなく、ところどころに手入れの跡がある、いかにも中古の武器だ。
「これを持っていけ。安物だが、簡単には折れねえ。買い取りのゴミと、その銅貨全部で手を打ってやる。……ただし、死んでも化けて出るんじゃねえぞ、狼さん」
「助かる、親父。これでまだ、泥水をすする元気が保てそうだ」
レクスは新しい剣の重みを確かめ、不敵に口元を歪めた。




