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プロローグ
金属の擦れる嫌な音が、静まり返った路地裏に響いた。
「おいおい、冗談だろ……」
レクスは手元を睨みつけ、乾いた笑いを漏らす。
握りしめた愛剣の刃は、無残にも真ん中からへし折れていた。昨日の戦いで、手強い魔物の外骨格を無理に叩き斬った代償だ。
革の財布をひっくり返すが、落ちてきたのは錆びかけた銅貨が数枚だけ。
宿代にも足りない。今夜の干し肉すら買えやしない。
十年間、泥をすすりながら戦場を駆け抜けてきた。
手元に残ったのは、折れた一本の剣と、鳴りやまない腹の虫だけだ。
英雄になれるなんて思っちゃいない。ただ、明日も生きていたい。その一心で、死体の山を越えてきた。
「……あいつらは、よく眠れているかね」
自分を裏切り、報酬を持ち逃げしたかつての「仲間」たちの顔が浮かぶ。
怒りはもうない。あるのは、胃袋を焼き焦がすような、冷たい飢えだけだ。
レクスは折れた剣を鞘に収め、冷たい雨が降り始めた夜の街を見上げた。
この街の地下には、生きて戻った者はいないと言われる古の迷宮が眠っている。危険と引き換えの、莫大な富。
死ぬのは怖くない。だが、飢えて野垂れ死ぬのだけは、真っ平御免だ。
「よし、行くか」
男はフードを深く被り、闇の中へと歩き出す。
牙を失くした狼が、最後に生き残るための戦いが始まる。




