この世はそう上手くはいかないらしい(ルファ)
こうして、賭け金十倍のマッチは私達役立たず陣営の勝利で終わった。
私、スーテラさんの指示に従うことしかしてなかった。
もしかして、本物の役立たずは私じゃないか……?
なんて、勝ったからこんな冗談も考えられるんだけど。
本当に勝てて良かった。スーテラさんと一緒になれて、運が良かったとしか言えない。
敵だったら絶対負けてた気がする。
でもこの人、どうやってリドルさんに罪をなすりつけたんだろう。
伝令術じゃなかったのかな?
まさか申告とは全く違う技能だった?
でも、私達のレベル帯に合わせた今の状態では大それた事はできないはずだ。
追放遊戯は現実の肉体と同様の能力を持った仮想体で遊ぶのだけど、魔力やステータスなどは参加プレイヤーを参照して調整されるから、自然と使用不可能な技能も出てくる。
だからあまりに強い技能を使ったら、伝令術に使用する魔力なんて残らないはずだ。
けれど実際に声は聞こえていたわけだし……。
いくら考えてもわからない。やがて現実に戻る時間となった。こっちで正解を聞いてみよう。
机から顔を上げると、外周から野次が飛んでくる。
周りを見ても終わってるテーブルはここしかないから、私達に向かって言っているんだろう。
しかし先ほどと違うのは、「ふざけんなー!」という怒声の他に、「よくやった!」という声が聞こえることだ。恐らく大穴の私に賭けていた人だろう。
なんだか認められた気持ちになって嬉しくなった。
興奮で身体が震えている。頭がちかちかして、今なら何でもできてしまいそうな気分だ。
まぁ私、勝たせてもらったようなものだけどさ。
私はスーテラさんに近づいて、この試合のお礼を述べた。
「ありがとうございます。あなたのおかげで勝てました」
「そうね。ほとんど私一人でやったようなものだけど、あなたも意図は汲んでくれたし、足を引っ張らなかったから思っていたよりも楽だったわ。最後に目線を投げてきたのは減点だけど」
「それは……ごめんなさい。本当にあの状況で目眩しなんてしていいのか自信がなかったので。下手したら追放されちゃいますから」
「後一人殺せば終わりだったんだから、躊躇する必要なかったでしょ。それくらい考えてよ」
その言葉にむっと来たので、私はささやかな反抗をした。
「ちゃんと考えた場面はありますよ? 私は攻撃魔法使えないって言ったのに、敵を引き寄せてなんて指示を出してくるんですから。あそこで確認せずに実行したの偉くないですか?」
「はいはい、えらいえらい」
「もー、私はもっとちゃんと褒めて欲しいって言ってるんです」
「真面目な話、技能の過少申告は初心者として上出来だったと思うわよ? あいつら光魔法の事は度外視していたみたいだから、不意をついて目眩しできたしね」
上級者の人に褒められると嬉しいな。
でもそれよりも、この人の技能について聞かなきゃ。
結局あれはなんだったんだろう。
「技能の過少申告といえば、スーテラさんの技能、伝令術じゃないですよね? 本当の技能はなんだったんですか?」
「教える訳ないでしょ? 一回手の内がバレたら、今度対戦する時に苦労するんだから。種が割れていたら、新しい技能を覚えない限り相当不利なのよ。その為に現実の研鑽を怠らない人もいるくらいなんだから。わざわざ苦労する馬鹿なんていないでしょ」
「それはそうですけど……やっぱり気になるじゃないですか」
「だったら私がゲームに参加する時は伝えてあげるから、観戦室で画面に齧り付くことね。そうしたらわかるかもよ?」
「なるほど、わかりました。今はどうあっても教えてくれないってことが」
「わかればよろしい。聞き分けのいい子は好きよ。これから相手するであろう馬鹿と違ってね」
スーテラさんがそう言うと、先ほどの試合で散々利用されたあげくヘイトを向けられて追放されたリドルさんが、私たちの会話に口を挟んだ。
「それはちょっと聞き捨てなりませんね。誰が馬鹿ですって?」
「誰とは言ってなかったのに、こんな感じで反応してくる奴かな。聞き分けなさそうなのはイカサマ三人組だけだと思っていたけど、まさかあなたもなの?」
「えぇ、そりゃあ納得いきませんとも。五人勝たせられると豪語した人が、まさか敵だったなんて。こんなの詐欺ですよ」
「五人勝たせるのは、私がパーティー陣営に配属されたらの話ね。現に私は勝ってるじゃない。恨むなら私を役立たずに配属したシステムを恨んでよ」
スーテラさんがそう返すと、リドルさんは私の方を見ながらぐちぐち言った。
「できるなら私がその相方になりたかったですよ。一人で全部やっちゃって、相方は何もしなくてよかったみたいですし。これじゃあどっちが役立たずなんだか」
おっと。スーテラさんには敵わないとみてか、こっちに矛先が向いたみたいだ。
とはいえ、それは私も思っていたからなぁ。別になんとも思わない。
「私じゃなくてもスーテラさんが勝っていたのは事実でしょうけど、勝ち鞍に乗ったのはあなたではなく私です。負けたあなたに喧嘩を売る権利なんてなく、あるのは勝者の私達に対する支払いの義務のみです」
私が理路整然と正論をたたみかけると、リドルさんは歯噛みして私の言葉に噛み付いてきた。
「がめついシスター。こんなのがシスターだなんて、あなたが祀る神もさぞふしだらな神なんでしょうね?」
ちょっとでも怒らせるために挑発しているんだろうけど、信ずる神について貶されても、私には意味がない。なぜなら私は神など信じていないからだ。
「残念ながら、私は教会が運営する孤児院の味方であって、敬虔な信徒ではありません。教会を借金まみれにして孤児を苦しめるような神が本当にいるならば、くたばってしまえばいいと私は思っていますから。あるいはもうくたばっているから自分を祀る教会の孤児すら守れないのかもしれませんね?」
私が憎々しげにそう言うと、つっかかってきたリドルさんの語気がすぼんでいった。
「随分と剛胆なシスターなんですね。でも神のご加護はあったんじゃないですか? ちゃんと勝ち鞍に乗れているんですから」
「私の運がよかっただけです。本当に神がいるのなら、ありもしないだろう借金が教会に降りかかることなんてありえません」
私が頑なに突っぱねると、ついにリドルさんは黙った。
言い負かして少しいい気分だ。
私がささいな勝利を喜んでいると、スーテラさんが尋ねてきた。
「あなたが追放遊戯に参加したのは、その借金を返す為なのよね? ありもしないなら、払う義務なんてないんじゃないかしら?」
「理屈が通る相手ならそうですね。でも相手は、この辺り一帯を治める領主である大商人です。その領主曰く、私の教会には亡くなった先代がこさえた借金があるそうで、近日中に完済できなければ教会を取り壊すのだと」
「領主である大商人ね……でもこの勝ちでその借金は返せるんでしょ?」
「そうですね。やる必要がないなら、こんなゲーム二度とやりません」
「そこまで言うくらいこのゲームが嫌いなのに返済手段に選んだの? 変なやつ」
「どちらかと言えば、このゲームを好んでいる冒険者が嫌いなだけですね。どうしても冒険者と関わらなきゃいけなくなりますし」
私がそう言うと、スーテラさんは興味なさげに別の方を向きながら答えた。
「そう。まぁあなたが何を嫌いだろうが別にいいけど、私も冒険者はいい加減なやつが多いと思っているからね。特に出禁覚悟で賭け金を踏み倒そうとするやつとか、ね!」
スーテラさんがそう言った途端、少し遠くで男の野太い悲鳴が聞こえた。
あたりを見回すと、私にふっかけてきた三人組の姿がない。
悲鳴のした方を見れば、その三人がうずくまっていた。
スーテラさんがなにかしたのかな?
この距離で何かできるとは思えないけど。
不思議に思いながらも、三人の元へ行くスーテラさんの後を追う。
私が辿り着いた時には、スーテラさんが座り込むコレドの首根っこを掴んでいた。
「ここで素直に賭け金を払うなら大事にはしないであげる。でも逃げるようなら、有る事無い事警察に伝えて、豚箱にぶち込むからね。どうせまだ露見してない前科とかあるんでしょ? それは嫌よね?」
「わかった! もう逃げようとしない! だから離してくれ! 首が絞まる!」
その言葉を聞いたスーテラさんは手を離す。
スーテラさんの脅しが効いたのか、その後はつつがなく賭け金の精算が終わった。
かのように思われたが、この世はそう上手くはいかないらしい。




