明らかに致命傷だ(ルファ)
スーテラさんは本当に関係なかったのか……。
失敗したな。無駄にヘイトを買った上に、切り札が一つなくなった。
状況は悪いけど、次に役立たず陣営がアクションを起こしたら、必ず尻尾を掴んでやる。
そう意気込んで行軍を開始したものの、何も起きずに二階層のボスを突破。
流石にここで動くと不利と見たのかな?
三階層の初めには分岐路があるしね。動くとしたらたぶんそこなのかな。
まぁ、何も起きなかったのは仕方ない。
さっきの議論の延長だと思って頑張ろう。
頭を切り替えていると、ジェスが積極的に声を上げた。
「さて。ご覧の通り役立たず陣営は何もしてこなかった訳じゃが」
「役立たず陣営も慎重になっているのでしょうね。事が起こるとしたら三階層の分岐路が可能性は高いですが……もしかしたら何も起こらないかもしれません」
メリナさんが意見を出すと、ジェスが問い返す。
「というと? そう思う根拠はあるのだろう?」
「このまま五階層まで踏破すれば役立たず陣営の勝ちだからです。こちらで牛歩戦術を取って時間をかけるのもよろしいですが、タイムアップでも私達パーティー陣営の負けですから。階層を進むごとに時間が増えるとは言え、迅速に役立たず陣営を見つけねばならないでしょう」
「とは言えな。今の状態だと厳しかろう? 手がかりがあると言えばルファの首輪だが、本人が役立たず陣営じゃないとは限らぬ」
今のところ有力な情報原は、キルスさんが脱力して死んだことと、正直者の首輪だけだ。
それにしても、首輪ねえ。
本物のはずなんだけど、一番怪しかったスーテラさんに使ったらあてが外れたしなぁ。
でも一応、スーテラさんが首輪をつけた時の言葉を思い返しておくか。
『私は役立たずじゃないし、薬も転移させてない』だったかな。的外れなことをしてしまったのがショックすぎて、ちょっとうろ覚えだ。細かな言い違いもあるかもしれない。
私が考え込んでいると、サシャさんが大胆な提案をしてきた。
「ならばこの辺で一人追放してみるか? 幸いパーティーメンバーの数にはまだ余裕がある。一人減っても問題はなかろう」
すると、当然の疑問がガンツさんからあがる。
「一体誰を追放するつもりなんだ? 一応言っておくが、あんたも疑われているんだぞ? 今その案を出すってことは、パーティーメンバーを減らしたいようにしか見えない」
ガンツさんの言葉を受けたサシャさんは、意外な事を言い出した。
「私を追放してくれても構わん。そのあと、疑わしいジェスかメリナを追放でもすれば良い」
「一見パーティーに貢献しているように見えて、メンバーを減らしたいようにしか思えないが」
「今メンバーを減らすのも、役立たず共に殺されるのも変わらないと思うがなあ。それなら、余裕があるうちに犠牲を出してでも安全策を取るべきだと思うが」
ふと、サシャさんの言い回しで気になるものがあった。
役立たず共?
そうだ。役立たずと役立たずの恋人はセットで考えがちだ。
サシャさんが役立たず共と言ったように、同一視してしまう。
でも実際は別の役職だ。
そう、スーテラさんは役立たずではない。これは真実だ。
でも――。
「あの。役立たずが誰かは分かりませんが、役立たずの恋人なら分かったかもしれません」
私が思いついたように声を上げると、皆の目線が一気にこちらへ向いた。
「本当か!? 一体誰だと思うんだ?」
ガンツさんの促しに、私は胸を張って答える。
「スーテラさんです。首輪をつけた時、彼女は、私は役立たずじゃないと言ったんです。そりゃ首輪も反応しないわけですよ。本当に役立たずじゃないんですから。でも、役立たず陣営でないとは言っていません」
私がそういうと、ガンツさんは思案顔だ。
彼は少し考えた後、口を開いた。
「すまない。そこまで細かな違いは覚えてない。だがスーテラは、薬を転移させてないことも否定したぞ? それはどう説明するんだ?」
う。それは考えてなかった。功を焦ったかな。
そう思った時、宮廷魔術師のメリナさんが助け舟を出してくれた。
「わたくしは覚えていますわよ。確か、弱体化の薬は転移させてない、とおっしゃっていましたわ。となると、あれは弱体化させるような薬ではなかったのでは?」
皆が沈黙に包まれる中、剣士のガンツさんがはっと思い付いたように声を上げた。
「そういえばキルスが死んだ後、ボスもやたら簡単に倒せたな。あの時は何も思わなかったが、もしかして転移させられたのは一撃入魂の魔法薬だったんじゃないか?」
一撃入魂の魔法薬。
たしか、次の攻撃が物凄く強くなる代わりに、しばらく動けなくなる薬だったかな?
「なるほど。それなら弱体化の薬ではないですわね。スーテラ様は本当のことしかおっしゃっていなかった。だから首輪も反応しなかったのですわ」
「なら、ルファにもう一度首輪を作って貰えばいいんじゃないか」
ここは大きなチャンスなのだけど……残念ながらそれはできない。
「ごめんなさい。私が未熟ゆえに、クールタイムが長くてまだ使えないんです。五階層にたどり着く頃には使えると思うんですけど……」
「待つという手もあるが、タイムアップが怖いからな。仕方ない。ここでスーテラを追放するか考えるか」
「私はやってないけどね。些細な言い回しで詰められると思ってなかったわ」
「どうする? 俺は追放してしまってもいいと思うが」
「本当に私じゃないわ。第一、私がそんな薬を持ち込んでいると思う? 自前の矢を持ち込むだけでアイテム欄はパンパンよ。なんなら、持ち込んだアイテムを全部開示しようか?」
「そうだな。そうして貰うと助かる」
言われたスーテラさんは、道具袋から持ち込んだものを全て取り出す。毒ナイフや毒薬はあったものの、それ以外は回復薬と数種類の矢だけだ。持ち込まれた種類を考えると、確かにこれ以外のものを所持することはできない。
毒薬も鑑定してもらったけど、脱力するような生やさしいものではなくて、もがき苦しんで死ぬようなものだ。これでは犯人とは断定できない。
皆で悩んでいると、マーキスさんがぱちんと一つ手を打った。
「答えが出ない問いは後回しにして、それぞれの怪しさも加味しながら三階層でのグループ分けを考えませんか? その過程で見えてくるものもあるかもしれませんし」
コマンダーのマーキスさんの提案に、ジェスが乗る。
「そうじゃな。いつまでも悩んでいたら時間が過ぎて不利になるだけだ。さっさと三階層のグループ分けを決めてしまおう。して、回復役のルファと、回復薬を作れるワシは分けるべきだ。マーキスとガンツは前衛だから、それぞれにつければいい」
「ならばわたくしがジェス様のところにお邪魔しても? ジェス様が回復できると言っても、本職に比べれば手薄です。私のメインは土魔法ですから擬似的な壁役をすることができますし」
宮廷魔術師のメリナさんが意見を述べると、呪術師であるサシャさんが続いた。
「ならばガンツはルファのところに回すか? メリナが擬似壁できるなら、マーキスも後ろで指示を出せてパーティーにバフがかかるだろうし」
その言葉に、スーテラさんが続く。
「それだと私もマーキスの方かしら? 彼のバフはサシャにあまり意味がないだろうし。私とサシャがガンツ達の方に行ってもいいけど」
スーテラさんが意見すると、サシャさんがいじわるを言った。
「あんたは追放という手もあることを忘れてないか?」
「私じゃないっていうのに。どうすれば信じて貰えるの?」
スーテラさんが嘆いていると、ジェスが横槍を入れた。
「そういうサシャも実は怪しいのだぞ? 喧嘩するふりをして、二人を一緒にしたらぶすっとやられかねん。だからガンツ達と二人を一緒に組ませるのは反対だ。万が一メンバーを五人にされると、合流した直後に一人殺されたら終いだからな。それよりも、ワシの方にサシャを、ガンツ達の方にスーテラを行かせた方がスムーズだろう。白二人に囲まれればスーテラも悪さはできまい。こっちは三人で見張ればいいしな」
ジェスはスーテラさんとサシャさんを怪しんでいるんだ。
そして私を白で見ている、と。なんだか癪だけど、彼はパーティー陣営なのかな?
スーテラさんは訝しげな顔をしたものの、最後には同意していた。
「わかったわ。じゃあ、私はガンツにルファと組めばいいのね。反対の人はいない?」
誰も反対の声をあげなかったので、グループ分けが決まった。
一応、頭の中で整理しておこう。
Aグループ
ルファ――シスター、光魔法・回復魔法、杖、後衛
スーテラ――スカウト、転移魔法、弓、後衛、声を飛ばして指示を出せる
ガンツ――剣士、剣気・身体強化、剣、前衛、回避壁ができる
Bグループ
ジェス――大商人、薬剤生成、槍、中衛、道具の鑑定ができる
サシャ――呪術師、弱体化の呪術、杖、後衛、道具の鑑定ができる
マーキス――コマンダー、指示強化、剣、前・臨時前衛、指示を出すと味方が強化される
メリナ――宮廷魔道士、土魔法、杖、後衛、基礎魔法全般が使える
こうして見ると、 Bグループが事故りそうで不安だ。
うーん。本当に大丈夫かな。スーテラさんが犯人じゃなかったことといい、なにかが引っかかるんだけど。私が不安に思っていると、ジェスが口を開いた。
「グループは決まったが、薬の追加はいるか? だいぶ減って来ているはずだろう」
その言葉を受け、マーキスさんが率先して貰いに行った。
「そうですね。私達の方にはヒーラーがいませんから、少し多めにもらっておきましょう」
「わかった。好きなだけ持っていくといい」
私は彼の薬を使ってないから別にいらない。
スーテラさんも使うことがないからか、貰ってなかった。
私たち二人以外が薬を貰っていると、アナウンスが聞こえてきた。
――残り三十秒。
もう議論が終わる時間か。
スーテラさんを詰められそうだったんだけどな。
結局誰が怪しいのかうまく絞り込めなかった。
「もう時間か。スーテラを三人側に組み込んだし、今回の投票はスキップでいいか?」
ガンツさんの促しに、一同は賛同の声を上げる。
しぶしぶな感じの人もいるけどね。
それはサシャさんだ。何か思うところがあるのだろうな。
私も決め手の情報を見出したと思ったのに、空ぶったことが少しショックだった。
――残り十秒。
それにしても、本当にこのグループ分けで良かったのかな?
一抹の不安を覚えながら、私はスキップに入れた。
――三
――二
――一
――投票時間が終了しました。スキップ:七票
――誰も追放されませんでした。
状況が好転どころか悪化したような気がするけど、気を取り直して三階層の攻略を頑張ろう。
モンスターに殺されるのが一番ダサいしパーティーに迷惑かかるからね。
特に分岐路はそういう事故が起こりやすい。
私もそれで、何度辛酸を舐めさせられてきたか。
まぁ、過去のことはどうでもいい。
未来の全てがかかっているこの勝負に全力を捧げなきゃ。
気がそぞろでモンスターにやられたら堪らないし。
高レベルパーティー故か、分岐路でもモンスターは強いからね。
それから、スーテラさんも見張らなきゃだし。
向こうのグループは大丈夫かな。これで誰か死ぬとパーティー陣営が不利になるんだけど。
そんな風に違う場所へ意識を集中していたせいだろうか。
何者かの接近に気がつくのが遅れたのは。
痛っ……。
突然、腹部に激しい痛みが走った。
増えた足音に気がついたのは、既に攻撃を貰った後。
まずい。
明らかに致命傷だ。
「襲撃、ですっ!……ごほっ」
私は二人に向かって叫んだあと、すぐに魔力増加薬をあおった。
下手人の獲物が腹部を貫いたままだから、回復しても無意味。
だから、私はここで奥の手を使う。これが成功すれば窮地を脱せる。
私は奥の手の魔法を唱えながら、下手人の面を拝む。
それは明らかに人の顔だった。
モンスター、じゃない……? どうしてここにいるんだ。
薄れゆく意識の中、最後に見たのは、自害するガンツさんの姿だった。




