ここで切り札の一つを使うか(ルファ)
スーテラさんはやっぱり転移魔法を隠したみたいだ。
でもこの勝負が始まるまで時間はたっぷりあったから、敵に回った場合の対策はしてある。
それに、私はこの勝負のため入念に準備していたのだ。
一回きりのものが多いから、大事な場面で使わないと。
今はまだ動く時じゃない。
自己紹介が終わった後は、準備の時間となった。
私が皆の武器に加護をかけている間に、ジェスから薬が配られる。ちなみに先にジェスが鑑定し、後からサシャさんが同じ効能か確かめるというダブルチェックだ。
薬に何か仕込まれていたら堪らないからね。
この二人が役立たず陣営という不運な組み合わせの場合もあるけどさ。
それはそれとして。
配られたのは、回復薬と魔力増強薬だ。
魔力増強薬は自前で持って来ちゃったからなぁ。
こんなことなら別の物にしとけば良かった。
まぁ、あいつに貰ったものなんて使いたくないからいいけどさ。
けれどそう思っていたのは私だけのようで、バーサーカーのキルスさんが行軍前にこんなことを言い出した。
「あの、ルファさん。私は回復いりませんので」
「なぜですか?」
「さっき自己紹介した通り、私は体力が低いほど能力が上がるんです。なので、自分でタイミングを見計らって飲める回復薬の方が具合いいんですよ」
そういうことか。
となると、回復に割く魔力はわりと減らせるかな。
こっちも自由度があがるし悪くない。
「わかりました。じゃあ余裕があれば攻撃に回ります」
各自の準備も終わり、行軍開始。
コマンダーのマーキスさんの指示バフは相当なもので、皆のレベルに合わせてモンスターもかなり強いと言うのに、雑魚モンスターを倒すかのようにばったばたと敵が死ぬ。
他の人も高レベルだから、火力が高くて本当に回復がいらない。
これだと貢献度が稼げないなあ。
あの二人もパーティー陣営だったらちょっと困る。
とはいえ、ほとんど何もできてないのは私と勝負している二人も一緒だ。
スーテラさんは十八番の指示出しを奪われたし、ジェスに至っては薬を配ったきり槍でちくちくしては下がるだけだ。あれじゃ真の意味で役立たずじゃないか。
でもそれも仕方ないかも。
バーサーカーのキルスさんと宮廷魔術士のメリナさんの火力に、臨時回避盾ができるガンツさん、敵を弱らせるデバッファーのサシャさんと指示で味方が強化されるマーキスさんのコンビで、私達は本当にすることがない。
いてもいなくても一緒な私達三人組だったけど、当然そのままで終わるはずもなく。
事が起きたのは一階ボス戦の時だった。
体力を減らしたキルスさんが回復薬を飲んでボスへ攻撃した瞬間、彼女は突然へたり込んだ。
当然、体力が少ない彼女に向かっていたボスの攻撃は致命傷。
キルスさんはあっさりと死亡した。
思っていたよりも体力が減っていたボスを難なく倒した私達は、休憩所で追放会議を始める。
いの一番に口を開いたのは剣士のガンツさんだった。
「俺はキルスが回復薬を飲んだ瞬間におかしくなったのを見たぞ。そうなるとジェスのおっさんが怪しくないか?」
ジェスに連れてこられたのにその辺はちゃんと言うんだ。この人はパーティー陣営っぽいな。
そう思っていると、宮廷魔術師のメリナさんが口を出した。
「ですが、皆へ渡る前にお二人で鑑定していますよね? 力の抜けたような状態になっていたのも気になりますし、弱体化の呪術が使えるサシャ様も怪しいと言えるのではないですか?」
メリナさんがそう言うけど、そんなに単純な話だろうか?
それにしてはやり口が大胆すぎる。
なんて考えていたら、ガンツさんが捕捉した。
「二人とも役立たず陣営という可能性もあるけどな」
けれど、当然ジェスは反論する。
「初心者じゃあるまいし、そんな分かりやすい殺し方なぞする訳なかろう。第一、怪しいのは本当にワシらだけなのか?」
うーん。私の中ではメリナさんも怪しい気がするな。
彼女は宮廷魔術師だから、脱力させる魔法が使えてもおかしくないし。
それこそサシャさんに罪をなすりつけているんじゃ?
今の時点で、私から見るとスーテラさん、ジェスがかなり濃いめの黒。メリナさんがやや黒め。ガンツさんはほぼ白。サシャさんは利用されている可能性が高そうだからグレーで、マーキスさんはまだ議論に参加してこないからどちらとも言えない。
まぁ、この辺でスーテラさんにヘイトをぶつけて置こうかな。彼女とは勝負しているし、仮にパーティー陣営だとしても落ちてくれれば私の勝ちが近づく。
そう思って、私はひとつめの持ち駒を切った。
「これは私視点の話なんですが、スーテラさんが怪しいと思っています。以前の卓のことを持ち出すのはマナーとしてよろしくないのですけど……人生がかかっているのでね。マナー違反をしてでも伝えたい情報は、彼女の魔法が転移魔法だということです」
私がそういうと、スーテラさんは顔を歪めた気がした。
ガンツさんは納得げに、私の言葉を捕捉する。
「なるほど。キルスが回復薬に頼ることを加味して、転移魔法で入れ替えたと言いたいんだな?」
「そういうことです。ですので、もう一人の役立たず陣営は、様々な薬を作れるだろう領主さんか、やたらとサシャさんにヘイトを向けるメリナさんが怪しいと思っています」
これだけだと落とせるかは怪しいけどね。
当然の如く、スーテラさんは反論してきた。
「転移魔法を使えるだけで疑われたら堪らないわね。そんなこと言い出したら、加護と偽って武器に細工する機会があったあなたも怪しいんじゃないの?」
なんか、無理矢理私にヘイト向けようとしてきて怪しいな。
ここで切り札の一つを使うか。
私は道具袋から、勝負の行方を決める首輪を取り出して言った。
「できませんよ、そんなこと。仮にも聖職者なんですから。それよりも、私は放った言葉が真実かどうか判断する魔法を使えるんです。それをこの首輪にかけて……はい、これを付けて自分の無実を証明してください。その前に、効果を鑑定して貰いましょうか」
お手製の首輪をサシャさんとジェスに渡してしばらくすると、二人の鑑定結果が出た。
「そうさな。嘘をつくと首が締まる、正直者の首輪というらしい。ただし効果は長続きしないようだ。使えて一回だろう」
「ワシも同じ結果が出た。しかし、何故効果が短時間なのだ? ずっと使えればゲームが決まるというのに」
「魔力を結構喰いますからね。持続時間は短めにしました。それで、どうです? この首輪が付けられないようなら、スーテラさんの怪しさが一気にあがりますけど」
スーテラさんは目を瞑って逡巡したかと思うと、手を差し出しながら強気に言った。
「わかったわ。そこまで言うなら首輪を貸して頂戴。これで首が締まらなければ、私はパーティー陣営ということよね?」
よし、これでこの後がだいぶ楽になりそうだ。
私は疑いもなく、首輪を彼女へ差し出した。
「わかりました。じゃあお願いします」
スーテラさんは首輪を嵌めると、堂々と宣言する。
「私は役立たずなんかじゃないし、弱体化する薬なんてキルスの持ち物へ転移させてない」
これで首輪が締まって役立たず陣営が一人死ぬだろう。
そう思ったけれど、暫く待っても何も起きなかった。
嘘。なんで!?
スーテラさんはやおら首輪を外して、私の胸元に押し付けて来た。
「これで満足? この通り、私は嘘なんてついていないわよ。わざわざマナー違反までしたのに、残念だったわね」
私がショックで動けないでいると、マーキスさんが声を上げた。
「こうなると誰が役立たず陣営か分からなくなってきますね。ガンツさん以外は様々な組み合わせで疑惑があがるのでは?」
「あちらが立てばこちらが立たずって場合が多いけどな。さて、どうしたものか」
ガンツさんの問いかけに誰も答えられずにいると、アナウンスが頭に響いて来た。
――残り三十秒。
「これは持ち越しですね。皆さん、スキップでいいですか?」
マーキスさんが問うと、ジェスが言葉を重ねた。
「緊急会議権はどうするのだ? 終わった後連続で使って炙り出すのか?」
「まだ一階層の段階でやるのは危険ではないですか? 人数分使えた方が有利とは言え、大事な時に使えないと言うのも困りますし」
「それもそうじゃな」
マーキスさんとジェスの言葉を聞きながら、私はステータス画面をいじる。
――残り十秒。
釈然としない気持ちを抱えながら、私はスキップに入れた。
――三
――二
――一
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――誰も追放されませんでした。




