一世一代の大博打(ルファ)
それから約一週間。
メアとの仲は少しぎこちなくなったけど、それ以外はつつがなく過ごせている日々。
勝負の前日となった今日も、いつもと同様に過ごしている。はずだった。
夜ご飯の時間になってもメアの姿が見当たらない。
なんだか前にもこんなことがあったなとは思うけれど、あれは小さな子が私にかまってほしくてかくれんぼをしただけだ。もう幼くないメアはこんな事をしない。
孤児院を隈無く探しても見つかるわけがなく、外へ足を伸ばそうかと考えているさなか、ポストに手紙が入っているのを見つけた。
メアからの置き手紙だろうか。
そう思って中を読むと、そこにはメアを誘拐した旨が綴られていた。
場所と時刻が指定されており、来なければメアを殺す、と。
その時刻は、明日の大勝負の開始時間と同じだった。
わざわざ勝負に被せているのだから、犯人は絞れてくる。
スーテラさんはこんなことしないだろうし、する意味がない。
恐らく大商人ジェスの仕業だろう。ここまでして私を奴隷に貶めたいか。
単なる脅しという線もあるが、実際にメアの姿が見当たらないのは確かだ。
誘拐されているなら、迂闊な事はできない。
今殴り込みに行くことも考えたが、万が一メアがいなかった時の事を考えるとそれは悪手だ。
決行するなら、指定時刻の前あたりがいい。
力づくで奪い返して勝負にも参加する。
方針は決まったので、とりあえず今日は大人しくしている方が吉だろう。
とはいえ、気持ちと理性は別々で。
心がざわついて、寝付くまでにかなりの時間を要した。
翌朝。
気持ちが落ち着かないのか、いつもより早く目が覚めた。
出来うる限りの装備を準備し、子ども達に大事な外出があるから今日は遅くなると告げる。
もしかしたら、これが最後の挨拶になるかもしれない。
子ども達に背を向けて門をくぐると、なぜか涙が込み上げてきた。
弱気になっていちゃダメだ。
これからメアを助けて、勝負にも勝つんだから。
指定より一時間ほど早く目的の場所に着くと、そこには二人の男と縛られた状態で転がされているメアがいた。
男達がこちらを見ながら不思議そうにする。
「なんだあ? まだ時間じゃないはずだが、もしかしてお前が件のシスターか?」
「格好みりゃ分かるだろ。こいつ、時間を無視しやがった」
「そうか。なら罰を与えないとな」
男達は二人で話していたかと思うと、壁に立てかけてあった剣をメアの身体に突き刺した。
「メア!」
まさか話す暇も与えず人質を傷つけるなんて。私の考えが甘かった。
私は回復用の魔力が残るように調整しつつ、男達に向かって光魔法を放った。
途端、光の鎖に拘束されてメアと同じような格好になる男達。
これでしばらくは動けないはず。
聞きたい事は山ほどあるけど、こいつらは後だ。
今はメアが優先。
私がメアの元にかけよると、彼女はかなり苦しそうだった。
それもそのはず。肩口から胸のほうにかけて剣が突き刺さっているからだ。
恐らく心臓に達している。私は慌てて剣を抜き、回復魔法をかけた。
だけど、メアの容体は一向に良くならない。
彼女はか細い声で、息も絶え絶えに言葉を絞り出した。
「ルファね……ごめ……」
「喋っちゃダメ!」
私の静止を無視し、メアは続けた。
「たぶ……さいご……から。きてく……ぇて、ありが、と……すき、だよ、ルファ、ね……」
それ以上続く言葉はなく、メアは目を閉じた。
こんなに突然、守りたかったものが手からこぼれ落ちるなんて。
怒りがおさまらない私は、下手人に対してある魔法を使ってから、質問をした。
「誰の指図でこんなことをしたんですか?」
「俺たちが自主的にやったことだよ。誰も関わっちゃいねえ」
私が使った魔法は、彼の言葉が嘘だということを示している。
私は続けて質問を重ねた。
「もしかして領主から指示を受けたのではないですか?」
「自主的にやったことだって言ってるだろ」
しかし、それも嘘。
どうやら主犯は領主らしい。
許さない……。
とりあえず、コイツらは用済みだ。
私はメアから抜いた剣の腹で、鬱憤を晴らすように男達の頭を何度も打ち付けた。
悲鳴が聞こえなくなってしんとした空間には、私の息遣いしか聞こえない。
私はそっとメアに近づいて、彼女の手を握った。
血の気の感じられない、冷たい手。
現実を受け入れられなかった私は、ひとつの賭けに出た。
今から使う魔法は、一世一代の大博打。
失敗すれば、私は何もかも失う。
それでも、このまま腐るよりはマシだ。
私は、躊躇う事なくメアに魔法を使う。
遠のいていく意識の中、メアの口が動いたのが見えたような気がした。




