なんか、私がいた時よりも笑顔が多いな(ルファ)
転移魔法。それがスーテラさんの技能の正体だった。
何か手がかりが掴めればと思って勝負を受けたけど、思った以上の収穫だ。
こちらも光魔法のうち、結構な大技である偽装を使わざるを得なかったものの、まだとっておきはあるから大丈夫。
今回の結果に内心喜んでいると、スーテラさんは高圧的な態度で話しかけてきた。
「約束どおり孤児院に戻ってきて貰うわよ」
はぁ。負けたから仕方ないけど、今更あそこに戻るのは気が重い。
もうあの門はくぐらないと思っていたんだけどな。
全く余計なお世話をしてくれる。
私は些細な抵抗として呼びかけを無視し、孤児院へと歩みを進めた。
最初は何か言いたそうだったスーテラさんも、孤児院の方角へ進んでいるとわかると何も言わなかった。って、なんでこの人まで一緒にいるの?
「なんでついてくるんですか?」
「あんたがいない間、誰が子ども達のお世話をしていたと思ってるの? 私も教会に帰るのよ」
「それはどうも。もう私の代わりに院長引き継いでくれませんかね?」
「今の院長さんは到底返せないような借金奴隷になるから、それもいいかもね」
「強がりも大概にした方がいいですよ。奥の手は使ったのでしょう?」
私が探りをいれても、スーテラさんはすました顔をしている。
いつかこの顔を歪ませてやりたい。
「さてね。仮に使ってたとしても、それくらいで負けるつもりはないわ」
「さっきは負けかけたくせに?」
「負けてないじゃない」
あれは初見だから対応できなかっただけだ。種が割れていればどうってことない。
本人もそれはわかっているはずなのに、なんでこんなに余裕そうなんだろう。
「そうですね。あそこで切り札を使った理由は知りませんけど、本番があるのに本気を出すなんて馬鹿のやることですよ」
「馬鹿で結構。自分の中で大事だと思ったことを優先したまでよ」
あの試合でスーテラさんが勝っても得はないはずだ。
まさか、この人本当に私を孤児院に帰すためだけに切り札を使ったの?
本当に馬鹿なんじゃなかろうか。
「出会ったばかりの子ども達を悲しませないことがそんなに大事ですか?」
私がそう言うと、スーテラさんは大げさにため息をついた。
「本当はあなたの仕事なんだけどね」
「知りませんよ。勝手に期待しないでください」
そう言い捨てた私を睨むスーテラさん。
「やっぱり、私あなたの事嫌いだわ」
「私も嫌いですよ」
それっきり、どちらも無言になる。
私が嫌いならなんで連れ戻すような真似をしたんだ。嫌いな奴なんて放っておけばいいのに。
その疑問は、すぐに解消されることになった。
孤児院に戻ると、子ども達が集まってくる。
私の姿を見た彼らは、責めるでもなく泣き出した。
「お姉ちゃん! よかったぁ、帰ってきてくれたんだね」
「寂しかったよぉぉ」
「もう帰ってこないかと思った!」
「ありがとう、スーちゃん。ありがとう、お姉ちゃんを連れて帰ってきてくれて……」
もっと罵倒の言葉をぶつけられると思っていた私は、困惑するしかない。
てっきり突っぱねられるかと思っていたのに。こんなに心配されていたなんて。
スーテラさんは、きっと毎日のようにいつ私が帰ってくるのかと問われ続けてきたのだろう。
それなら私を連れて帰りたがったのもわかるかもしれない。
喜ぶ子供たちに対し、私の口から出たのは意味が籠っているか分からない謝罪の言葉だった。
「ごめんね……」
私達の間に、どことなくしんみりとした空気が漂う。
その静寂を、すっかり孤児院に馴染んだようなスーテラさんが雲散させた。
「さて、お姉ちゃんも帰ってきた事だし皆でお昼を作りましょうか。お腹空いているでしょう?」
その呼びかけに元気よく返事をして厨房に向かう子ども達。
その光景が意外で、私は思わずスーテラさんに聞いた。
「あの子達も料理するんですか?」
「なんでも抱えていた誰かさんが出て行ったからね。私はろくに作れないし、皆にも手伝って貰っていたのよ」
「そうですか」
嫌味を無視し、子ども達の後を追って厨房に入る。
私がご飯をこしらえていた時よりも、賑やかな状態で調理が始まった。
動きはまだぎこちないけど、皆楽しそうだ。
危ないし時間効率が落ちるから今まで手伝わせてこなかったけど、それは子ども達の自主性を奪うことでもあったのだろう。
確かに手際は悪かったけど、皆自分が作った料理に満足気だった。
今まで出来なかったことができるようになって嬉しいのかもしれない。
その証拠に、食事の際は自分がこれを作ったのだと自慢気な子達が多かったからだ。
それを私に食べて食べてとせがんでくる。
おかげですぐにお腹いっぱいになった。
味付けも凄くよく出来ているとは言えないけど、悪くなかった気がする。
おいしいよと言うたびに皆喜んでいた。
なんか、私がいた時よりも笑顔が多いな。




