ここであの子達を見捨てるくらいなら、清々しいほどの馬鹿でありたかった(スーテラ)
役立たずの恋人だったのかパーティーメンバーだったのかは分からないが、これでどさくさに紛れて死人が出ることはないだろう。
事実行軍は遅くなったものの、二階層ボスは何も起こることなく突破。
問題があるとすれば、付与魔法がなくなってシドの動きが鈍くなったことだろうか。
武器への付与は残ったままなので、重すぎるらしい。
少々行軍速度を落としながらも、私達は三階層目にある分岐路に到達した。
さて、ここが問題ね。
「組分けどうする?」
私が尋ねると、シドが口火を切った。
「俺とルファは分けた方がいいだろうな。この状況で盾と回復を一緒にするのは贅沢すぎる」
それは私も賛成。万が一シドが殺されると一気に崩壊しかねないし。
ルファはさっきの事があるからまだ疑っている。
そう思っていると、ルファの方から提案があった。
「盾がいないなら、私はフーガさんとミラさんが欲しいです」
「一応聞くけど、理由は?」
「モンスターと戦う時、フーガさんの攻撃を消音しないと敵が寄って来るのでこの二人はセットにしたくて。それから、シドさんにはゲインさんがついていた方がいいと思うのです」
「氷魔法で敵の足止めができるから、シドが攻撃食らいにくくなるってことね。確かに回復がいなくなる事を考えると良い案だと思うわ。私がオマケ扱いなのがちょっと気に食わないけど」
「仕方ないじゃないですか。少人数だと伝令術は"役立たず"なんですから」
役立たずと言う時に胸の前でピースサインを折り曲げた仕草を取るルファ。
こいつ、もしかして私のこと疑ってる?
わざわざ私が役立たずであるかのような印象付けまでして、ご丁寧にどうも。
まぁ、ここで言い争っても仕方がない。
私たちは二手に分かれて探索を再開した。
ゲインがほとんど議論に参加してこないから、一応警戒しておくか。
事を起こすならここが可能性高いだろうしね。
幾度かのモンスターとの交戦の末、扉の前にたどり着いた。
脇にあるボタンを押してからしばらくして、扉が開く。
どうやら向こうもボタンを押せたらしい。
何か起こるんじゃないかと警戒はしていたけど、特に何も起こらなかった。
が、それはこちらのグループの話。
もう片方のグループを待っていると、ミラが焦ったようにこちらへ走ってくる。
「た、助けてください! フーガさんがルファさんを殺しました! わ、私も殺されるぅ!」
その言葉を聞いた途端、私は一度しか使えない緊急会議権を使った。
――緊急会議を開始します。
これで会議中は戦闘行為が無効となる。
フーガが遅れてやって来て弾丸をこちらに放つも、システムの壁に阻まれて消失した。
私が緊急会議権を使ったのは、万が一役立たずとその恋人が生き残っていた場合、あと一人殺されたら同人数になってゲームが終わるからだ。
それにしても、ルファは役立たず陣営じゃなかったのね?
ルファが死んだなら勝負は私の勝ちになるわけだけど、ゲームそのものはまだ続いている。
せっかくなら完勝したい。
私は勝ちを取りに行くため、ミラに問うた。
「そっちで何があったか説明してもらってもいい?」
「モンスターとの戦闘中、フーガさんが突然ルファさんを撃ったんです! 私はそれを見て、慌てて逃げました」
「それはボタンを押す前の話? それとも後?」
「ま、前だったと思います」
うーん。前となると少し辻褄が合わないか?
走って逃げたならミラの方が私たちより早くボタンを押してもおかしくないはずだけど。
「具体的にはどれくらい前に襲われた?」
「お、覚えてないです」
ふむ。とりあえずフーガは役立たず陣営だと断定して良さそう。
問題はどのパターンかってことよね。
ひとつ、ミラとフーガが役立たず陣営。
ふたつ、フーガと、シドもしくはゲインのどちらかが役立たず陣営。
みっつ、フーガが役立たずで、シスナが役立たずの恋人だった。
考えられるのはこの三パターンかしら?
つまり三択のうち二択は役立たず陣営が二人残っていて、誰か殺されたら終わるってことね。
とりあえず三パターン目を潰すために、フーガ追放は決定事項かしら。
「特に反対がなければ、フーガを追放して様子見したいのだけど? 追放してゲームが終わるならそれでよし。終わらずに四人になっても、役立たず一人で状況を覆すのは難しいだろうし」
「そうだな。フーガ追放は確定でいいと思う」
シドが賛同した後、全員がステータス画面を操作し、投票を終えたらしい。
緊急会議時は、人数分票が集まれば規定時間前でも投票が終わる仕組みだ。
――投票時間が終了しました。フーガ:三票 スーテラ:二票
――エラー。プレイヤー:フーガは既に死亡しています。誰も追放されませんでした。
は?
聞いたことのないメッセージに呆けていると、偽フーガがこちらへ向かって弾丸を放った。
私は反射的に魔法を使い、その弾丸を偽フーガの方へそらす。
右手に命中したようで、銃を取りこぼしている。ざまぁみろ。
なんて思っていたら、突然爆音が鳴り響いて思わず耳を塞いでしまった。
我慢できなくて、その場にへたり込む。うずくまる私の背後に、誰かの気配。
振り返れば、偽フーガが光で構成された大剣を振り下ろそうとしていた。
「役立たずはあんただったのね、ルファ」
「気がついても遅いですよ。お疲れ様。私の勝ちです」
力の抜けた私に襲いくる光の大剣。
浮かぶのは、孤児院の子供たちの顔。
このまま諦めて切られたら、あの子達はどうなる?
私だっていつまでも面倒を見てあげられるわけではない。
子ども達の事を思うなら、なんとしてでも勝たなければ。
ただ、この状況をどうにかする手段はあるけれど、それは手の内を明かすことになる。
ここは保身に走るのが賢い選択だろう。
だけど。
それでも私は、ここであの子達を見捨てるくらいなら、清々しいほどの馬鹿でありたかった。
逡巡の結果、私は奥の手をルファに披露した。
「空間転移!」
少しの浮遊感と、解放感。私は地面ではなく、ルファの背後たる空中にいた。
私は荷物から爆裂矢を取り出し、弓につがえることなくルファの脳天に突き刺した。
瞬間、ぐりんとこちらを向くルファの顔。
「見ましたよ」
ぞくり、と寒気が走る声を残し、私の腕ごとルファの頭が爆発した。
その直後アナウンスが頭に響き、残るメンバーの身体が透けていく。
――役立たずが死亡した為、パーティー陣営の勝利となります。
――あなたの勝ちです。おめでとうございます。
なんとか、勝った。
子ども達のために掴んだ勝利だけど、私の胸中は敗北感でいっぱいだった。
こんなていたらくで、本番の勝負に勝てるの?
今まで転移魔法を駆使して連戦連勝だった私の自負心は、粉々に砕かれた。




