私と勝負しない?(スーテラ)
それから二週間。
私は慣れない料理だけじゃなく、まだ幼い子ども達の遊び相手をしたり、少し年長の子には勉強を教えたりと、てんやわんやな日々を過ごしていた。
趣味の追放遊戯観戦はこれっぽっちもできていない。
単純に忙しすぎるし、子ども達から離れることが憚られたからだ。
慣れもあるんだろうけど、ルファはよく毎日これをやっていたなと思う。
これだけやって感謝されてないと思ったら投げ出したくなる気持ちも分からないでもないけど、それとこれとは話が別だ。
途中で人に押し付けるのは無責任にも程がある。
束の間の休息で私が横たわっていると、今いる子達の中で最年長の子が話しかけてきた。
「スーテラさん、たまにはお休みしてはいかがですか?」
名前は確かメアといったか。歳の頃は十五だった気がする。十八だったルファが最年長で、それ以上の者は前院長がなくなる前に巣立っているらしい。
私には連絡の取りようがないから、助けも求められないのだけど。
日々の仕事も慣れてきて、やっと役に立てている感じがするのだ。休んでいる暇などない。
「大丈夫よ。心配しないで?」
私がそういっても、メアは引き下がらなかった。
「心配もしますよ。スーテラさん、まるで昔のルファ姉みたいなんですもの」
ルファみたいと言われて、顔の筋肉が引き攣った気がした。
今あいつと比べられるのは色々我慢ならなかったからだ。
「どこが似てるって?」
「なんでも自分で背負い込もうとするところとか、ですかね。それが嫌になって出て行かれたかと思うと、スーテラさんにも適度に息抜きして欲しいと思うんです。子ども達の面倒は今日一日くらい私が面倒みますから」
なるほど。この子は私が根をあげて出ていかないかが心配なわけだ。
まぁ、たまには休んでもいいかな。
あの馬鹿も追放遊戯に勝つつもりでいるから、賭場に顔を出しているかもしれないし。
私自身もそろそろ勝負に身を置かないと、勘が鈍って負ける可能性がある。
お言葉に甘えて、休みを貰うとしますか。
「それじゃあ、今日一日任せてもいい? 少し出かけてくるわ」
「勿論です。いってらっしゃい」
子ども達に見送られて、孤児院を後にする私。
初めの頃は外に出るのに子ども達がついて回ってきたけど、ルファが出ていったトラウマは少しずつ払拭されたのか、今では見送りができるようになっている。
それでも泣く子はいるけれど、私はあいつとは違う。
見捨てて出ていくつもりなんてない。
ただ心配なのは、そろそろ本職の通達が入りそうな頃という事。
そうしたらしばらくここを離れなければならなくなる。
勿論勝負の日までには戻って来るつもりではいるけど、何日か空けなければならない。
子ども達の反応が怖くて、まだ伝えられていないのが申し訳なかった。
今日帰ったら伝えるとしよう。
まずは子ども達へのお土産を見繕おうかな。
そうして雑貨屋を巡っていると、路傍に行列が出来ているのを見かけた。
それは近くの公園へと続いている。何か催し物でもあるのかしら?
気になって行列を辿ってみると、その先には無償回復と書かれた看板を立てて、金髪ロングヘアの少女が回復魔法を使っていた。
私はその顔に見覚えがある。ずっと一発殴ってやりたいと思っていた顔だ。
私はそいつに近づいて、患者が入れ替わるタイミングで思いっきりビンタをかましてやった。
勢いをつけすぎたのか、そいつは座っていた椅子ごと地面に倒れ込む。
が、まるで何事もなかったかのように自分に回復魔法を使ったかと思うと、椅子に座り直して次の患者に回復魔法を唱え始めた。
完全無視。
私はカチンときて、歪な笑顔で接客しているルファに声をかけた。
「こんなところで何してんのよ」
「見てわかりませんか? 無償回復のボランティアです。あなたこそ何してくれてるんですか? 一回分の回復魔法が無駄になったんですけど」
「認可なしの回復行為は認められてないはずよ?」
「お金を取ったらそうなりますね。でもこれは無償ですから」
「子ども達を見捨ててやる事が回復のボランティア? 身内よりもその他大勢を取るって訳?」
「メリットがあるからやっているだけです。回復して欲しいなら列に並んでください。そうでないなら帰ってください」
「帰って来るのはあなたの方でしょ。今ならまだ許してあげるから、戻ってきなさいよ。子ども達が心配しているわよ」
「なんで貴方に許されないといけないんですか。それに、あの子達が心配なのは私じゃなくて自分自身でしょう?」
「あんたねぇ! あの子達の気持ちも知らないでよくそんなことが言えるわね!」
私が憤慨すると、ルファは気分を害したのか椅子から立ち上がってこう言った。
「邪魔が入ったので今日はこれで終わりです。また明日来てください」
途端、並んでいた者達から非難の声。
当然私が責められるも、私がやめたわけじゃない。
責められるいわれはないので、反論してやった。
「金払ってない癖に声だけデカいのね! 貧しい奴は心も貧しいのかしら!」
一瞬しんとなって、先ほどよりも更にうるさくなった。もはや何を言ってるかわからない。
私達が言い争いをしていると、ルファは荷物をまとめて立ち去っていくところだった。
私は慌てて彼女の後を追いかける。
それに気がついたルファは歩幅を広めるも、私の方が身体能力は上なのですぐに追いついた。
「なんでついてくるんですか」
「なんでついてこないと思ったの?」
その問いには返答がなく、ルファは無言で歩を進めていった。
私をいないものとして扱うらしい。
それならそれでついていくだけだ。
せいぜい嫌がらせしてやる。
しばらくして辿り着いたのは賭博場。
私を無視して追放遊戯へ参加しようとするルファの前に立ちはだかって、一言口にした。
「私と勝負しない?」
すると、ルファの眉間がぴくりと動いた。
「私になんの得があるんですか?」
「あなたが勝ったらもう付き纏わない」
「私が負けたら?」
「孤児院に戻ってもらう」
この二週間で実感した。
私じゃ代わりにならない。せいぜい一時的な気休めだ。
悔しいけど、こいつがいた時と活発さが全然違う。
ルファは大きくため息をついて、渋々承諾した。
「わかりました。毎日営業妨害されたら堪らないですからね。ルールはどうしますか?」
「所属しているチームが勝った方を勝者にしましょうか。例え自分が死んでいたとしても、所属しているチームが勝てばそれでいい」
「二人とも同じチームだった場合は?」
「先に死んだ方の負け」
「それだと自分がパーティー陣営だったら、先に相手を殺しにかかれば勝ちじゃないですか?」
「そんな野暮なことするつもり? 人様のゲームに相乗りするんだから、利敵行為は禁止ね」
「なら二人とも同じチームで生き残り、勝った場合などは?」
「一目でわかる決着がつかない時は、貢献度の高い方が勝ちよ」
「言いましたね? 貢献度で回復職に勝てると思わないでくださいよ?」
「要は回復させなければいいんでしょ? 指示出しを舐めるんじゃないわよ。あんたの仕事なんて全部奪ってやるから」
「そうですか。せいぜい楽しみにしておきますよ。それじゃあ、二人分空いている卓に同席させて貰いますか」
そう言うとルファは、受付で参加できる卓を探し始めた。
ほどなくして、八人部屋に同席することが出来た。
軽い挨拶をしながら、仮想ダンジョンへ意識を転送してくれる設備に腰を下ろす。
追放遊戯は久しぶりだから気を引き締めないとね。
初心者とはいえ、こいつもただ遊んでいたわけじゃないだろうし。警戒はしておくべきか。
私はそんなことを考えながら、襲いくる眠気に身を委ねた。




