41.ユノの評価
狼型の魔物は、まだ二体残っていた。
群れの奥から新たな個体が姿を現すのを横目に、私は先ほどの戦闘の一部始終を、頭の中で改めて再生していた。
ユノの動き自体は悪くない。
反応速度も、得物の扱いも、素人のそれではなかった。
だが、一つだけ気になる癖がある。
「次は少し試してみたい」
「え、何をです?」
「君は、攻撃を急ぎすぎる癖がある」
私は端的に告げた。
「敵が隙を見せる前に、自分から踏み込もうとする。さっきの一撃も、指示を出さなければ、恐らく先に仕掛けていたはずだ」
「……あ」
図星を突かれたように、ユノの肩が小さく跳ねた。
「逆に、君は防御からの反撃は精度が高い。躱した直後の一手は、こちらが指示するまでもなく的確だった。なら、無理に攻めを急ぐ必要はない。むしろ、あえて敵の初撃を誘った方がいい」
「誘う、って言われても……」
「大丈夫だ。誘導はこちらでやる」
言い終えると同時に、狼の一体が地を蹴って飛び掛かってきた。
「動くな。そのまま、引きつけろ」
一瞬、ユノの体が強張るのが分かった。
だが、彼女はそれを堪え、得物を構えたままその場に留まる。
牙が眼前に迫った、まさにその刹那。
「――躱して、返せ」
体を斜めに滑らせながら攻撃をいなし、返す刃が狼の胴を薙いだ。
綺麗な一撃だった。先ほどまでの、勢い任せの踏み込みとは明らかに質が違う。
崩れ落ちる魔物を見下ろしながら、ユノは自分の得物をまじまじと見つめていた。
「……なんか、今の、すごくしっくりきました」
「向いている型が違うだけだ。攻めより、受けてからの方が力を発揮する。それだけのことだ」
もう一体を同じ要領で片付けたあと、私は改めてユノへと視線を向けた。
「君は才能があるな」
短い一言だった。
それ以上でもそれ以下でもない、ただの所感に過ぎない。
だが、ユノはその場で固まったように、しばらく何も言わなかった。
「……才能、ですか。私が?」
「攻めの巧さで評価される場面は少なかったかもしれないが、受けと切り返しの正確さは、間違いなく君の武器だ」
「……」
ユノは俯き、それから小さく笑った。
だが、それはいつもの人懐こい笑みとは、どこか違って見えた。
「これまで、私って……『強い』か『弱い』か、それくらいでしか言われたことなかったんです。パーティー組んでも、大体そのどっちかで判断されて終わり、みたいな」
彼女は得物を鞘に収めながら、独り言のように続けた。
「でも、ヴィオレさんは違うんですね。何が得意で、何が苦手か。ちゃんと私自身のことを見て、言ってくれる」
顔を上げたユノの表情には、先ほどまでの高揚とは違う、もっと静かな熱のようなものが灯っていた。
「……なんか、ヴィオレさんって、私のこと、私自身より分かってるんじゃないかって、たまに思います」
「買い被りすぎだ。今のは、ただ観察しただけの結果に過ぎない」
「その『ただ観察しただけ』が、私には全然できないから、すごいって言ってるんですよ」
軽い口調でそう返されて、私は小さく肩をすくめるに留めた。
森を抜ける風が、二人の間を静かに通り過ぎていく。
言葉にはしなかったが、この時のユノの中に何かが根付いたことだけは、その横顔から確かに伝わってきた。




