38.荷物の中身
隣町の輪郭が遠くに見え始めた頃、私はふと、背負っていた木箱の重みを確かめるように担ぎ直した。
「なあ、この荷物についてなんだがなんだと思う?」
「え? 荷物は割れ物だよね。依頼書にもそう書いてあったし」
ユノが振り返り、不思議そうに首を傾げる。
「表向きはそうなっている。だが、いくつか引っかかる点がある」
私は歩みを止めないまま、頭の中の違和感を言葉にしていった。
「依頼人は薬師だ。陶器を扱うにしては、封の仕方が異常に厳重だった。蝋で三重に固められている上、紐の結び方まで統一されている。ただの割れ物対策なら、ここまでする必要はない」
「言われてみれば……確かに、厳重すぎる気はしましたけど」
「報酬も、この手の護衛依頼にしては明らかに高い。加えて――」
私は木箱を軽く揺すってみせた。ことり、と鈍い音が一度だけ響く。
「重さが合わない。陶器なら、この大きさでもっと重量があるはずだ。中身は、箱の容積に対してかなり軽い」
「……それに、配達先」
ユノが小さく呟いた。
「普通の商店じゃなくて、個人宅の名前でしたよね」
「そういうことだ」
私は頷いた。
「この荷物は、通常の商品じゃない」
「じゃあ、開けて確かめてみます? 中身、気になりません?」
ユノが軽い調子で提案してくるが、私は首を横に振った。
「知りたくて開けるわけじゃない。開けなくても、推測できる範囲のことだ」
「……そういうところ、なんか探偵っぽいですね。ラピスさんでしたっけ、探偵の知り合いがいるって言ってましたけど、似てきてます?」
軽口を受け流しながら、私は思考を進めた。
「じゃあ、中身は何だと思う?」
ユノの問いに、私は箱の重さと封の厳重さを頭の中で重ね合わせる。
「薬師からの発送で、封が過剰なほど厳重。かつ軽い。届け先は個人。……おそらく、少量で強い効果を持つ薬か、あるいは素材だ。粉末か液体、それも劣化や漏出を極端に嫌う類のもの。それでいて、市場を通さず個人宛に直接届ける必要がある――つまり、表立って扱えない代物だと考える方が自然だ」
「……普通そこまで分かります?」
「まあ勝手な妄想に過ぎないことを祈るよ」
ユノが呆れたように笑ったが、その声にはどこか感心したような響きも混じっていた。
その時だった。
街道の先、木立の陰から数人の人影が現れ、進路を塞ぐように広がった。
粗末な武具を纏い、値踏みするような目でこちらを見据えている。
誰が見ても、堅気の連中ではない。
「積み荷を置いて、大人しく道を空けな」
先頭に立つ男が、下卑た笑みとともに凄んでみせる。
私は背負った木箱へ、もう一度視線を落とした。
「いやな予想は当たったか……」
呟きながら、私はゆっくりと前へ足を踏み出した。
得物に手をかけるより先に、まずは言葉で状況を動かせるかどうか――その糸口を探るように、男たちの顔を一人ずつ見渡していく。




