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3.キャラメイク

宙に浮かび上がった無数の淡い光のウィンドウには、それぞれ複数のスライダーバーが並んでいた。

一見しただけでは何のための計器か判断がつかなかったが、バーの横に「目」「眉毛」「耳」といった身体のパーツを示す文字が添えられているのを見て、すぐに合点がいった。

いわゆるキャラメイクの画面だ。


だが、最も上部に配置された「種族」という項目のプルダウンを開くと、十種類もの見慣れない単語が羅列されていた。


「シエル。この種族というのは、それぞれどういった違いがあるんだ?」


私が尋ねると、小さな妖精は空中でくるりと一回転し、得意げに胸を張った。


「はい! この世界には十の種族が存在していて、それぞれ見た目だけじゃなく、得意な行動や成長の傾向が変わってくるんです。たとえば、標準的な人型の『ヒューマン』はどの分野もバランスよく成長します。獣のような毛皮を持つ『アニヴェク』は身体能力が高く前衛職向きで、機械の体を持つ『アイット』や木製の『パペット』は物理的な耐久力や特殊な耐性に優れているんですよ」


シエルは指折り数えながら、テンポよく解説を続ける。


「魔法や支援なら、天使のような『エンジェ』や、体が透けて浮遊している『クリアースト』が有利です。機動力を活かすなら、羽と尻尾がある『テイルゴン』や、小柄な『ドワーエル』ですね。あとは、夜目が利いて感覚が鋭い『ヴァザー』なんかもあります!」

「なるほど。能力の初期値や、スキルの適性に影響を与えるというわけか。……では、この『ユニン』というのは?」

「『ユニン』は、身長がとても高くて額に角が生えているのが特徴です。体力も高いですが、何よりその威風堂々とした立ち姿から、NPCとの交渉ごとで相手に無言の威圧感やカリスマ性を与えやすいという隠れた特徴があるんですよ!」


その説明を聞き、私は迷わずプルダウンから「ユニン」を選択した。


「それなら、ユニンにしよう。私の目的に照らし合わせれば、これが最も統治者として相応しそうだ」


決定ボタンを押した瞬間、目の前の空間に光が収束し、等身大の男性の立体モデルが現れた。

身長は百九十センチ近くあり、額には滑らかな曲線を描く一本の角が生えている。試しに目の前のスライダーを指先で動かしてみると、モデルの鼻筋がすっと高くなり、目の形が鋭く変化した。

どうやら、目の前のモデルを直接見ながら微調整を繰り返すシステムのようだ。


私は現実の自分とは異なる、しかし理想の「土台」を築く者に相応しい姿を構築していく。

髪は漆黒の短髪に。

瞳は、冷徹な論理と静かな熱意を両立させるような青灰色に。

体格は無駄な装飾を削ぎ落とした細身ながらも、隙のないシルエットに整える。

しばらく微調整を繰り返し、納得のいく威厳を備えたアバターが完成した。


「これで頼む」

「わかりました! それじゃあ、最初の町へ転移しますね!」


シエルが手にした小さな杖を振るうと、純白だった空間がぐにゃりと歪み始めた。

視界の端から徐々に墨を流したように暗転していき、一時的に完全な暗闇に包まれる。

だが、それと反比例するように、失われていた「感覚」が急速に私の中へと流れ込んできた。


足の裏が、硬く冷たい石畳を踏みしめる感触。

鼻腔をくすぐる、土埃と香辛料が入り混じったような乾いた風の匂い。

そして――鼓膜を震わせる、人々の雑多な喧騒。


恐る恐る目を開くと、そこには現実世界の中世ヨーロッパを思わせる、石造りの街並みが広がっていた。

赤茶色のレンガ屋根が連なり、活気にあふれた大通りには馬車が行き交っている。


「ようこそ、永久中立国ユーラシア王国の首都、<ノヴァ・パトリア>へ! ここから物語は始まるんですよ!」


視界の端で羽ばたきながら、シエルが明るい声を響かせた。

その言葉と同時に、視界の中央に『ノヴァ・パトリア - ユーラシア王国』という豪奢なフォントの文字がふわりと浮かび上がり、光の粒子となって溶けるように消えていく。


「そうか……。ようやく、この世界に立つことができたというわけか」


私は自らの両手を握り、そして開いた。

指先の関節が動く感覚、皮膚の張り、すべてが現実と何ら遜色がない。

胸の奥底から、理屈では抑えきれない静かな高揚感が込み上げてくる。

周囲を見渡せば、行き交うNPCたちに混じって、私と同じように傍らに小さな妖精を連れた者たちの姿がちらほらと見受けられた。

おそらく、始めた時間的に先ほど同じ部屋にいたプレイヤーたちなのだろう。


「あの、マグナ・インペラトル・ヴィオレさん。少しお名前が長いので、ヴィオレさん、とお呼びしてもいいですか?」


シエルが申し訳なさそうに小首を傾げて尋ねてくる。


「構わない。呼びやすいように呼んでくれ。……で、これからどうするんだ?」


私は白を基調とした初期装備のロングコートの裾を軽く翻し、群衆の波から少しだけ距離を置いてシエルに向き直った。


「はい! さっそくではございますが、チュートリアル妖精の名に懸けて、この世界での生き方のチュートリアルを始めさせていただきますね!」


シエルは元気よく片手を挙げ、私を新たな世界のシステムへと導く準備を整えた。

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