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22.大門・アウローラ

「で、さっそくやってほしいことなのですけれど、それは引き続き『聞き込み』ですわ」


薄暗い失踪現場の一室で、ラピスは事もなげにそう言い放った。


思わず眉をひそめ、深紅の瞳を見返す。


「……聞き込み?」


「ええ。顔に書いてありますわよ。これ以上何を聞き込むんだという疑問や、なんであなたにしかできないと言われているのかについての不満などね」


杖を優雅に持ち直し、コチ、と石突きで床を鳴らす。


「もちろん理由はお話ししますわ。一点目は、わたくし、少々事情があって表立って世間に顔を晒すわけにはいきませんの。その点、誰もまだ顔を知らない新参者のあなたが適任でしてよ。そして二点目。聞き込みといっても、単純にそこらへんの通行人に聞くわけではありませんの。そんなことをしても、せいぜい『アニヴェクの姿を見た』という程度の、予想通りの情報しか手に入りませんからね」


「では、誰に何を聞けというんだ」


「聞き込みの場所は『東の大門・アウローラ』――つまるところ、この首都から外へと繋がる門の周辺に限定してお聞きしてくださる?」


「アウローラ?」


頭の中で小冊子の地図を思い浮かべる。

中央広場から東へ真っ直ぐ伸びた大通りの突き当たり。

王国の外、他国の支配地域へと続く巨大な関所だ。


「そう。おそらく、そこが重要になってきますの。そして聞き出すのはアニヴェクの姿ではなく、『大型の銃を装備した人物が通らなかったか?』を聞いてほしいんですのよ」


「なぜそこで大型の銃なんだ?」


獣の種族であるアニヴェクの痕跡を追っていたはずが、唐突に無機質な重火器の話が出てきた。

思考の繋がりが見えず問い返すが、ラピスは意味深な笑みを浮かべるだけだった。


「いずれ分かりますわ。その間、わたくしはわたくしで別ルートから情報を集めますので……そうですわね、明日の十二時くらいに事務所に来てくださるかしら? そこで集めた情報をすり合わせましょう。では、また明日」


言うが早いか、黒いゴシックロリータのスカートを翻し、返事をする間も与えずに部屋を出て行ってしまう。


カツカツというヒールの音が階段を下り、やがて完全に遠ざかった。


「……嵐のような奴だな」


急に手持ち無沙汰になった空間で、小さく息を吐く。


彼女の頭の中には、既に事件の全容へ繋がる何らかの仮説が組み上がっているのだろう。

情報の非対称性に多少のもどかしさは覚えるが、探偵がワトソンに足で稼ぐよう指示を出したのだ。

将来の右腕候補の実力を測る意味でも、ここは彼女の采配に乗るのが筋というものだろう。


「ひとまずは、彼女の言う通りアウローラへ向かうとするか」


ロングコートの襟を直し、夕闇の迫る旧市街の路地へと足を踏み出した。


首都ノヴァ・パトリアの東端に位置する大門・アウローラ。

そこは、街の中心部とはまるで異なる空気に包まれていた。


巨大な白い石材で組まれたアーチ状の門は見上げるほどの高さがあり、ユーラシア王国の国章が深々と刻まれている。

門の周辺には長旅の支度をする商人たちの馬車や、荷運び用の巨大な騎獣がひしめき、獣の体臭と乾いた土の匂いが立ち込めていた。

街という安全圏を離れる都合上、完全武装したプレイヤーのパーティーの姿も目立つ。


「さて、大型の銃を持った人物、か……」


行き交う人の流れを観察しながら思考を巡らせる。


通りすがりの冒険者や商人に声をかけたところで、有益な情報が得られる確率は低いだろう。

人の出入りが激しいこの場所を定点観測していて、なおかつ奇抜な武装をした人間を記憶に留めていそうな相手――。


視線は、門の脇で検問にあたるNPCの衛兵たち、そしてそのすぐ近くで串焼きの屋台を営む初老のヒューマンの男に行き着いた。

衛兵は職務中であり、正規の権限がなければ口を割らない可能性がある。

ならば、商売柄、周囲の客層や人の流れを常に観察している屋台の主人こそ適任だ。


屋台に近づき、香ばしく焼けた肉の串を三本、銀貨とともに差し出す。


「それもらうよ。ついでに、少し人探しにつき合ってくれないか」


「おお、毎度あり! 旦那、見ない顔だが、人探しってぇと?」


主人は愛想よく笑い、肉を油紙に包んで手渡してきた。


「この門を通った者の中で、『大型の銃』を背負った人物を見かけなかったか? 目立つ武装だから、もし通っていれば記憶に残っているかと思ってね」


長身から見下ろす形にはなったが、できる限り穏やかな声色を作り、世間話の延長を装って尋ねる。


主人はタオルで額の汗を拭いながら、しばし空を仰いで記憶を探った。


「大型の銃ねぇ……。魔法使いの杖や剣なら腐るほど見るが、銃ってのは珍しいな。あー、いや、待てよ。そういえば二日前の夕暮れ時だ。妙な連中が通っていったな」


「妙な連中?」


「ああ。五、六人の集団だったんだが、全員が目深にフードを被っててな。そのうちの一人が、布でぐるぐる巻きにした大筒みてぇなもんを背負ってたんだ。布で隠されていたもんで、重火器ったぁ判断できんが、大きさ的にはおまえさんの質問通りの武器なんじゃないか」


内心で小さくガッツポーズを握る。

ラピスの読みは完全に的中していた。


「その集団に、アニヴェク――獣の姿をした者はいなかったか?」


「さあ、みんな外套で全身を隠してたから種族までは分からねぇよ。ただ……」


主人は声を潜め、顔を近づけてくる。


「あいつら、門の衛兵の検問を避けるように、わざわざ人の多い時間帯に紛れ込んでコソコソと外へ出て行ったんだ。向かった先は東。たしかあの方向は、『名誉ミーム連邦』の支配地域に繋がる街道だったはずだぜ」


「名誉ミーム連邦……」


ラピスの探偵事務所で聞いた九大国家の一つ。

そして、アニヴェクオンリーのギルド『ムー』が所属しているという謎多き大国の名だ。


点と点が、音を立てて一本の線に繋がっていく感覚があった。


「有益な情報だった。礼を言う」


「おう、気をつけてな旦那。門の外は、この街みてぇに安全たぁいかねぇからな」


主人の忠告を背に受けながら、屋台を後にする。


夜風が冷たさを増し、街灯の魔導具が次々と橙色の光を灯し始めていた。


アニヴェクの痕跡。

大型の銃。

名誉ミーム連邦への逃走ルート。


これらが意味するものは、単なるプレイヤーの連続失踪事件という枠を大きく超えている。

国家レベルの陰謀か、あるいは組織的な拉致か。


「あの探偵の言う通り、随分と面倒な事件に巻き込まれたらしい」


だが、足取りは不思議と軽かった。

情報を得たことで、明日の十二時にラピスの事務所へ向かうのが、いつの間にか楽しみになっている自分がいる。


冷えた串焼きにかぶりつきながら、歩き慣れてきた石畳の道を、宿屋へ向けて歩き出した。

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