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14.失踪事件の謎

予想外に長くなりそうだと踏んでいた一件は、その見立てを裏切るように、あっけなく決着を迎えた。


大家らしき人物を見つけて事情を話すと、彼女の部屋の鍵を快く貸してもらえた。

その鍵で誰もいない部屋に足を踏み入れると、窓辺の小さな木机に、インク瓶で押さえられた一枚の羊皮紙が置かれているのが目に留まった。


震える筆跡で綴られていたのは、事件性とは無縁の、切実な理由だった。

夜中に故郷の村から使いが訪れ、母親が危篤との報せを受けたこと。

夜明けを待たずに飛び出さざるを得なかったこと。

黙って姿を消したことへの詫び。

そして、この部屋を訪れた誰かへ、仕立て屋の主人にこの事情を伝えてほしいという願い。


そのメモを手に、休業中の『銀の針』へと引き返す。


羊皮紙を受け取った主人は、安堵と寂しさの入り混じったような深いため息をつき、幾度も頭を下げながら礼を述べた。


「あの子が無事ならそれでいい」


その言葉と同時に、視界の隅で半透明のウィンドウが淡く光り、『クエスト完了』の通知が静かに浮かび上がった。


――そして現在。


首都ノヴァ・パトリアの中央広場に隣接する集会所のエントランスで、受付嬢から数枚の銀貨と小さなポーションを手渡されていた。


「クエストの完了報告、確かに承りました。マグナ様、初のお仕事お疲れ様でした」


「ああ、ありがとう」


事務的な笑みを浮かべる受付嬢に短く返し、集会所を後にする。


本来であれば、初のクエスト達成に胸を撫で下ろし、報酬の使い道に思いを巡らせる場面のはずだ。

だが足取りは重く、ポケットに突っ込んだ右手は、無意識に銀貨の硬い感触を弄んでいた。


「……腑に落ちないな」


石畳の端で足を止め、誰にともなく呟く。


確かに受けたのは最下級のランクEのクエストだ。

プレイヤーの初期状態を考えれば、戦闘も複雑な謎解きも発生せず、単なる「お使い」で完結するのはゲームの設計として自然だろう。

見習いの失踪理由が家庭の事情だったことも、物語の導入としては十分に筋が通っている。


問題は、そこではない。


『いなくなったのはあの子だけじゃないんだ』


『ここ一週間で、このアパートの住人が三人もふらりといなくなっちまった』


旧市街のアパートで出会った女性の言葉が、耳の奥に張りついたまま離れなかった。


見習いの少女が故郷へ帰ったのが事実だとしても、では他の住人たちはどこへ消えたのか。

隣の区画で囁かれているという「神隠し」の噂は、いったい何なのか。


クエストという枠組みの中では、見習いの件が片づいた時点ですべてが「一件落着」として処理されている。

だが、この世界が単なるプログラムの集積ではなく、生きた生態系と社会構造を伴う一つの「現実」として動いているのなら、あの不自然な連続失踪の噂だけが、手つかずのまま取り残されていることになる。


「このまま見過ごす…わけにはいかないよな…」


とはいえ、ギルドの依頼という名目が失われた今、一介の冒険者が旧市街を闇雲に歩き回ったところで、大した情報は得られないだろう。


ならば、専門家の手を借りるのが最も合理的だ。


専門家、と考えたところで脳裏に浮かんだのは、巨大な書架の陰で優雅に微笑んでいたあの少女の姿だった。


銀色の長い髪、深紅の瞳。豪奢なゴシックロリータの装いに身を包み、鋭い観察眼で私の素性を見抜いてみせた彼女。


『今動いている「生きた情報」が欲しくなったら、裏通りの三番街を訪ねていらっしゃい』


「……ふっ、ちょうどいい口実ができた」


口の端をわずかに持ち上げ、一人ごちる。


この不可解な現象の真相を探ると同時に、この世界の裏側で動く情勢についても、彼女から聞き出しておきたい。

あの知性的な探偵なら、きっと期待に応えるだけの情報を持っているはずだ。


真昼の陽射しを背に受けながら、彼女の待つ裏通りの三番街へと、迷いのない足取りで歩き出した。

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