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9.新たな出会い

石畳の道を歩きながら、小さく息を吐いた。


集会所での目算が外れた以上、生きた情報を集めるなら酒場や食事処に足を運ぶのが常道だろう。

とはいえ、適当な席で耳をそばだてたところで、雑多な会話の中から確度の高い情報だけを拾い上げられる保証はどこにもない。


考えを巡らせながら歩を進めているうち、ふと先ほどの受付嬢の言葉が脳裏をかすめた。


『歴史をお知りになりたい場合は図書館へ。』


――歴史。


この世界における国家の成り立ちと、これまで積み重なってきた出来事の流れ。

新たな土台を築くにあたって、過去の記録は間違いなく武器になる。


コートのポケットから小冊子を取り出し、市街図のページを開く。

現在地の集会所から図書館までは、それほど距離がなかった。

数区画先、広場に面した一角にあるらしい。


乾いた風を受けながら、示された道筋をたどっていく。


やがて視界に入ってきたのは、周囲のレンガ造りとは明らかに趣の異なる、大理石造りの威風堂々とした建物だった。

首都の名を冠するにふさわしく、その佇まいは現実世界の国立図書館にも劣らない。


高いアーチを描く重い木扉をゆっくり押し開けると、外の喧騒が瞬時に断ち切られた。


代わりに漂ってくるのは、古びたインクと羊皮紙の匂い。


足を踏み入れた先には、想像を超える広さの空間が広がっていた。

ドーム状の高い天井から柔らかな光が降り注ぎ、両端には見上げるほど巨大な書架が幾重にも連なっている。

中央には長机と椅子が整然と並んでいるが、人の姿はまばらだった。


ページをめくる微かな音と、時折響く硬質な足音以外には、何一つ音がしない。


「……とはいえ、ここから有益な情報を探すのは骨が折れるな」


理想とする国家――誰もが安心して挑戦できる土台を築くためには、まずこの世界の歴史と情勢を知る必要がある。

そう考えてここまで来たものの、あまりに広大な情報の海を前に、思わず立ち尽くしてしまった。


検索用の目録があるのか、それとも司書に尋ねるべきか。


そんなことを考えていた、ちょうどそのときだった。


「あら。迷える子羊というには、少しばかり図体が大きすぎますわね」


背後から、涼やかでどこか芝居がかった声が響いた。


振り向くと、そこに一人の少女が立っていた。


微風になびく銀色の長い髪。

深紅の瞳が、理知的な光を宿してこちらを真っ直ぐに捉えている。


小柄な体を包むのは、このファンタジー世界でもひときわ目を引く、黒を基調とした豪奢なゴシックロリータの装いだった。


「この大図書館で立ち尽くしているということは、探し物の見つけ方がお分かりにならないの?」


「……ああ。恥ずかしながら、その通りだ」


冷静に頷き、少女の視線を正面から受け止める。


「この世界の歴史や、現在の情勢について知りたいのだが、どこから手をつければいいのか分からなくてね」


「なるほど、歴史と情勢、初めから図書館を狙うだなんて、上を目指している人ね」


少女は深紅の瞳を細め、値踏みするように私を上から下まで眺め回した。


「初めから上を目指していることが、なぜわかった…?」


「真新しい白のロングコートに、その特徴的なユニンの姿。そして、ただの冒険者や商人にはない、何かを企むようなその目……。少し観察すれば、今日この街に降り立ったばかりの野心家だということはすぐに分かりますわ。真実は隠せても、痕跡までは消せませんわ」


皮肉めいた口調とは裏腹に、その観察眼と読み解く力には確かなものがあった。


図星を突かれ、思わず口の端が上がる。


「恐れ入る。私は、マグナ・インペラトル・ヴィオレ。君は?」


「わたくしはラピス・ケイン・シークレットよ、ラピスと呼んでくれていいわ」


ラピスと名乗った少女は、スカートの裾を軽くつまみ、優雅な一礼を見せた。


「そうそう、歴史の概略であれば、右側の第三書庫、Bの棚へ向かいなさいな。そこなら、この世界の成り立ちについて記された『初期年代記』がありますわ」


「助かる。有益な情報だ」


「ふふ、お礼は結構ですわ。ただ……」


踵を返しかけたラピスが、ふと足を止めて振り返った。

銀色の髪が空中で滑らかな弧を描く。


「過去の記録データではなく、今動いている『生きた情報』が欲しくなったら、裏通りの三番街を訪ねていらっしゃい。わたくし、そこで()()()()()を営んでおりますの。あなたとは、いずれ良い取引ができそうですから」


それだけを告げると、彼女は足音も立てずに書架の奥へと姿を消していった。


「探偵事務所、か……」


彼女が消えた先の暗がりを見つめながら、静かに呟く。


国家という巨大な土台を築くには、表向きの法整備だけでなく、水面下でうごめく情報を的確に拾い上げる目と耳が欠かせない。そのための道具――いや、頼もしい協力者になり得るかもしれない。


「面白い出会いがあるものだ」


コートの裾をひるがえし、教えられた第三書庫を目指して、静寂に満ちた図書館の中を歩き出した。

本当はいつも通り10時投稿したかったのですが、設定が間違っていたみたいなので、早めに公開してます!

メインヒロインの登場回なので、それはそれでいいかなっとw

そのため、いつもの10時投稿分はありません!!!

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