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第48話

 土曜日。


 昼過ぎまで、真昼はソファからほとんど動かなかった。


 テレビはついている。


 でも。


 音だけ流れている。


 内容は頭へ入ってこない。


 加湿器。


 冷蔵庫。


 時々鳴る床板。


 ミシ。


 その方が、

もうずっと身体へ馴染んでいる。


 真昼はぼんやり天井を見る。


 最近。


 休日になると、

時間が止まる。


 外へ出ない。


 誰とも会わない。


 でも。


 退屈じゃなかった。


 その時。


 スマホが震える。


 上司。


『月曜には本当に決めよう』


 短い文章。


 真昼は画面を見つめたまま動かなかった。


 月曜。


 もう先延ばしにできない。


 東京へ戻るか。


 ここへ残るか。


 でも。


 真昼はその文章を見ているうちに、

少しずつ思考が遠くなる。


 決める。


 戻る。


 普通。


 その全部が、

最近は妙に現実感を持たない。


 真昼はゆっくりスマホを伏せた。


 その瞬間。


 上で、小さく床板が鳴る。


 ミシ。


 真昼はそこで、

ほとんど反射みたいに肩の力を抜いた。


 最近。


 この音だけで、

思考が止まる。


 安心してしまう。


 それが怖い。


 その時。


 ふいに、上から低い声。


「……今日は、かなり静かなので」


 真昼はぼんやり天井を見る。


「……休みですからね」


「……はい」


 短い返事。


 静かな部屋。


 味噌汁の匂い。


 加湿器。


 暖かい空気。


 その全部が、

ゆっくり真昼の身体へ沈んでいく。


 真昼はソファへ深く身体を預けた。


 外では、

誰かの子供の声がする。


 車のドア。


 遠くの犬。


 生活音。


 でも。


 その全部が、

薄い壁の向こう側の出来事みたいだった。


 二〇三号室だけが、

妙に静かで。


 暖かくて。


 閉じている。


 真昼はゆっくり目を閉じた。


 その時。


 上で、小さく咳が鳴る。


 ゴホ。


 真昼は反射的に顔を上げた。


「……また咳してますよ」


 少し間。


「……大丈夫なので」


 低い声。


 真昼は小さく息を吐いた。


 最近。


 こういう会話が、

本当に自然になっている。


 心配して。


 返事があって。


 生活が続く。


 その瞬間。


 真昼はふと気づく。


 もう。


 “誰かが天井裏にいる”


じゃない。


 この部屋では最初から、

こういう生活だったみたいに感じ始めている。


 真昼はそこで、

ゆっくり目を閉じた。


 それが。


 今までで一番、

怖かった。

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