第42話 天井裏には人がいる
日曜日。
夕方。
真昼は、珍しくベランダへ出ていた。
洗濯物を取り込むためだった。
曇った空。
湿った風。
遠くで子供の声がする。
住宅街は静かだった。
真昼はシャツを取り込みながら、
ぼんやり周囲を見る。
普通の景色。
普通の生活。
でも。
最近、
自分だけが少し違う場所へ沈んでいる感覚がある。
真昼はそこで止まる。
ふいに。
もし今、
隣人がこちらを見たらどう思うんだろう。
普通の一人暮らしの部屋。
でも。
天井裏には人がいる。
真昼はゆっくり視線を落とした。
その異常さを、
最近はあまり考えなくなっていた。
部屋へ戻る。
カーテン。
加湿器。
味噌汁の匂い。
ミシ。
小さい音。
真昼はそこで、
ほとんど反射みたいに肩の力を抜いた。
「……取り込んできました」
言ってから止まる。
また報告している。
でも。
上は静かだった。
少しして。
「……風、強かったので」
低い声。
真昼は小さく笑う。
「……最近、そればっかですね」
ミシ。
小さい音。
真昼は洗濯物を抱えたまま、
ソファへ座り込む。
静かな部屋。
暖かい空気。
生活音。
その全部が、
もう身体へ馴染みすぎている。
その時。
スマホが震えた。
上司。
『明日、一旦方向だけ決めよう』
真昼は画面を見つめたまま動かなかった。
一旦。
方向だけ。
それだけなのに。
胸の奥が少し重くなる。
東京へ戻る。
普通へ戻る。
そう決めればいいだけだ。
でも。
真昼はぼんやり天井を見る。
点検口。
見えない気配。
小さい生活音。
その瞬間。
上で、小さく床板が鳴った。
ミシ。
真昼はゆっくり目を閉じた。
最近。
何かを決めようとするたび。
この音だけが、
思考を静かに止めてしまう。
それが、
どうしようもなく心地よかった。




