第34話 同じ生活
土曜日。
真昼はスーパーから戻ると、そのまま二〇三号室のドアを開けた。
暖かい空気。
味噌汁の匂い。
ミシ。
小さい音。
真昼はそこで、小さく息を吐く。
「……ただいま」
数秒。
ミシ。
返事。
真昼は買い物袋をキッチンへ置いた。
卵。
豆腐。
ネギ。
それから。
小さいプリン。
真昼は袋からそれを取り出した瞬間、少し止まる。
前なら、
こういうものは自分のためだけに買っていた。
でも今。
気づけば。
「……甘いもの、食べます?」
言ってから、
真昼は固まった。
部屋が静かになる。
冷蔵庫。
加湿器。
外の車。
その全部の中で。
自分が今、
何を聞いたのかを理解する。
上は静かだった。
数秒。
長い沈黙。
それから。
「……食べないです」
低い声。
真昼は顔を覆った。
「……そうですよね」
本当に。
何をやってるんだろう。
でも。
上で、小さく床板が鳴る。
ミシ。
少しだけ。
困ったみたいな音だった。
真昼はそのままキッチンへ背中を預け、小さく笑ってしまう。
最近。
三浦の感情を、
音で考えるようになっている。
静かな時。
咳の強さ。
ミシの間。
それだけで。
真昼はプリンを冷蔵庫へ入れる。
二つ。
並べて。
その瞬間。
また止まる。
癖みたいに、
二つ買っている。
真昼はゆっくり冷蔵庫を閉めた。
その時。
上から、低い声。
「……今日、人少なかったので」
真昼は天井を見る。
「……スーパーですか」
「……はい」
真昼は何も言えなかった。
また見られていた。
でも。
その事実へ、
もう恐怖が追いつかない。
むしろ。
“同じ生活圏にいる”
感覚の方が強い。
真昼はソファへ座り込み、ぼんやり天井を見る。
外はもう暗くなり始めていた。
休日の終わり。
静かな部屋。
味噌汁。
加湿器。
ミシ。
その全部の中で。
真昼はふと気づく。
最近。
“独り言”
が減っている。
代わりに。
全部、
天井へ向かって話していた。




