第27話 静かに、堕ちる 6月20日
土曜日。
昼過ぎまで、真昼は部屋から出なかった。
雨は止んでいた。
でも空は曇っている。
薄暗い光が、カーテンの隙間から床へ落ちていた。
真昼はソファへ座ったまま、ぼんやりスマホを見ている。
異動。
返事。
上司。
通知は開いていない。
考えたくなかった。
その時。
上で、小さく床板が鳴る。
ミシ。
真昼は無意識に天井を見る。
「……起きてるんですね」
少し間。
「……はい」
低い声。
静かな返事。
真昼は小さく息を吐いた。
そのやり取りだけで、
少し落ち着いてしまう。
最近。
その感覚を否定しきれなくなっている。
真昼はスマホを伏せ、ソファへ身体を預けた。
「……なんか」
掠れた声。
「……最近、部屋静かだと落ち着かないです」
言った瞬間。
真昼は目を閉じた。
何を言ってるんだ。
本当に。
上は静かだった。
数秒。
長い沈黙。
それから。
ミシ。
小さい音。
返事みたいだった。
真昼は顔を覆ったまま、小さく笑ってしまう。
もう駄目だ。
本当に。
その時。
ふいに、上から低い声。
「……佐伯さん」
「……何ですか」
少し間。
「……前より、帰ってくるの早いので」
真昼はぼんやり天井を見る。
「……そうですかね」
「……はい」
静かな返事。
真昼は何も言わなかった。
自分でも分かっている。
最近。
寄り道が減った。
無駄に外を歩かなくなった。
仕事が終わると、
自然に二〇三号室へ戻ってきている。
その時。
スマホが震える。
上司からだった。
『返事急がなくていいけど、そろそろ方向だけ教えて』
真昼は画面を見つめたまま止まる。
方向。
東京へ戻るか。
残るか。
普通なら、
もう答えは決まっているはずなのに。
真昼はゆっくりスマホを伏せた。
返事は打たない。
その瞬間。
上で、小さく床板が鳴る。
ミシ。
真昼は静かに天井を見る。
その音だけで、
少しだけ胸の奥が落ち着く。
怖い。
でも。
今はもう、
その安心の方が少し強かった。
加湿器の白い蒸気が、
静かに部屋へ広がっている。




