第22話 6月15日 いない
月曜日。
朝。
真昼は、違和感で目を覚ました。
静かだった。
目を開ける。
白い天井。
薄暗い部屋。
雨は止んでいる。
でも。
何かが足りない。
真昼は布団の中で数秒止まり、ゆっくり気づく。
音だ。
ミシ、という床板の軋み。
小さい咳。
気配。
それがない。
真昼はゆっくり起き上がる。
キッチンへ向かう。
静か。
味噌汁の匂いもしない。
小鍋もない。
流しも、そのまま。
真昼はそこで止まった。
部屋が、
昔の状態へ戻っている。
何もない。
独り暮らしの部屋。
真昼は小さく息を吐いた。
「……いない」
少しだけ。
本当に少しだけ、
肩の力が抜ける。
普通なら、
これでいい。
そのはずなのに。
真昼はそのまま、しばらくキッチンで動けなかった。
静かすぎる。
会社。
午前。
真昼はずっと集中できなかった。
メールを開く。
閉じる。
資料を見る。
頭へ入らない。
気づけば、
昨日まで当たり前だった音を思い出している。
咳。
ミシ。
味噌汁の匂い。
真昼はそこで強く目を閉じた。
駄目だ。
本当に。
帰宅。
夕方。
アパートの階段を上がる。
二〇三号室。
鍵。
ドア。
静か。
暖かくもない。
味噌汁の匂いもない。
真昼は部屋へ入ったまま動かなかった。
冷たい。
空っぽ。
静か。
昔はこれが普通だったはずなのに。
真昼はゆっくり靴を脱ぐ。
その時。
無意識に口が開いた。
「……ただいま」
沈黙。
返事はない。
真昼はそこで止まる。
数秒。
長い静寂。
それから。
何も鳴らない。
真昼はゆっくり視線を落とした。
部屋が静かだった。
加湿器も切れている。
メモだけが、テーブル端へ残っている。
真昼はソファへ座り込む。
その時。
ふいに、上を見た。
点検口。
静か。
気配もない。
真昼はしばらくそれを見つめる。
そして。
「……います?」
掠れた声。
返事はなかった。




