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異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―  作者: 橘靖竜
第十六章 再起動する門編

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第二百三十五話 reの補助線

第235話 reの補助線



【現実世界・帰還した学園/仮設通信室・午前】


サキのスマホ画面に、四つの点が浮かんでいた。


オルタリンクタワー。

オルタ・スパイア。

石造建物。

イルダ医療棟。


その四つを結ぶ白い線は、まっすぐではない。


途中で何度も曲がっている。

遠回りしている。

時には、わざと避けるように大きく回り込んでいる。


ハレルは画面を見つめた。


「これ、本当に道なのか」


ノノの声がすぐに返る。


『道じゃない』

『少なくとも、今すぐ通れる道じゃない』


リオが眉を寄せる。


「じゃあ何なんだ」


少しの沈黙の後、日下部が答えた。


『補助線です』

『地図に直接道を引くのではなく、危険な場所を避けるための目印に近い』


サキは、reの光を見た。


reは白い線の先端で小さく揺れている。

自分で線を引いているというより、

見えない危険を探しながら、そこを避けているようだった。


「reは、Cの針が見えてるんだよね」


『うん』

ノノが答える。

『だから、Cの針が濃いところを避けてる』

『でも、それだけじゃない』


「それだけじゃない?」


『後悔の入口も避けてる』

『リオが引っ張られそうな場所』

『ユナさんの記憶が勝手に入口にされそうな場所』

『そういうところを、線が曲がって避けてる』


リオは息を止めた。

「俺のせいで、曲がってるってことか」


サキがすぐに言う。

「違うと思う」


リオがサキを見る。


サキはスマホを握ったまま、少しだけ迷ってから続けた。


「リオくんが悪いから曲がってるんじゃなくて」

「リオくんがちゃんとユナさんを助けられるように、危ないところを避けてるんだと思う」


リオは何も言わなかった。


けれど、伏せられたスマホへ伸びかけていた視線が、少しだけ戻った。


ハレルはサキのスマホを覗き込む。


reの補助線は、イルダ医療棟へ向かっている。


だが、最後のところでまっすぐ入らない。

医療棟の手前で一度横へ曲がり、青い点の周囲をゆっくり回っている。


日下部が言った。


『今の段階では、人を通せません』

『でも、信号だけなら通せるかもしれません』


その時、仮設通信室の別端末が警告音を鳴らした。


城ヶ峰からの緊急回線だった。


『市内各所で、クロスワールドゲート起動端末による消失報告が増えている』

『現時点で確認済み八件』

『未確認の通報を含めれば、さらに増える可能性が高い』


部屋の空気が、一気に冷えた。


「八件……」


サキが小さく呟く。


リオは拳を握った。


「まだ、消えてるのか」


『ああ』

城ヶ峰の声は硬い。

『避難所、自宅、駅周辺、病院の待合室』

『場所はばらばらだ』

『共通しているのは、クロスワールドゲートの黒い画面が開き、

 本人にとって強い名前や記憶地点が表示されたこと』

『その後、本人だけが消え、端末だけが残っている』


ハレルは息を呑んだ。


以前起きた一件は、始まりにすぎなかった。


日下部が画面を確認しながら言う。


『白峰律の門の残骸が、一般端末にまで広がっています』

『ただし、ただのアプリ再起動ではありません』

『オルガ・セフィロが読み出したような“記憶地点”の扱い』

『ヴァルド・レイグに近い“入口だった意味の書き換え”』

『そしてCの自律的な再利用』

『三つが混ざっています』


ノノの声も、通信越しに重くなる。


『白峰律が作った土台』

『オルガが読める道』

『ヴァルドが消せる入口』

『そこにCが乗ってる』


サキはスマホの中のreを見た。


reは、白い補助線の先で小さく震えている。


ハレルは低く言った。


「ユナさんのところへ行くためだけじゃない」

「この門を止めないと、消える人が増える」


リオも、伏せたスマホを見ないまま頷いた。


「姉さんを助けるためにも」

「他の人を消させないためにも」

「Cの門は使えない」


日下部が続ける。


『だからこそ、人を通す前に試験が必要です』

『今から送るのは、確認信号だけです』

『一般端末のように、人の名前や記憶を入口にはしません』


リオが顔を上げた。


「信号?」


『はい』

『声でも映像でもなく、確認用の小さな反応です』

『人を動かさず、門にもせず、医療棟へ届くかだけを見る』


ノノが続ける。


『まずは、人を通さない試験接続』

『これでCに横取りされるなら、まだ救出には使えない』

『でも通せれば、ユナさんのいる場所まで安全線を伸ばせる』


ハレルは頷いた。


「やろう」


リオもすぐに言った。


「俺もやる」


ノノの声が少し強くなる。


『リオは、まだ直接触らない』

『後悔の入口を狙われてるから』


リオは拳を握った。


反論しそうになった。

けれど、飲み込む。


「……分かった」


その一言に、サキのスマホでreが小さく光った。


◆ ◆ ◆


【現実世界・オルタリンクタワー/南東サービス導線跡・午前】


日下部は、隔離端末の前で準備を進めていた。


画面には、サキのスマホから送られてきたreの補助線が表示されている。


ただし、その線は保存できなかった。


記録しようとすると、少しずれる。

コピーしようとすると、白い線が薄くなる。

数値化しようとすると、途中の曲がり角が消える。


日下部は唇を噛んだ。


「固定できません」


木崎が横から聞く。

「データじゃねえのか」


「データではあります」

日下部は答えた。

「でも、保存するための線じゃない」

「その場で見て、判断するための線です」


木崎は顔をしかめた。

「地図じゃなくて、案内人か」


「近いです」


城ヶ峰が言う。

「つまり、reが見ている間だけ使える」


「はい」

日下部は頷いた。

「reの補助線をこちらの端末へ移すのではなく、

 reが見ている線にこちらが合わせる必要があります」


木崎は低く笑った。


「ずいぶん頼りないな」


「だから、Cに読み切られにくい」


その言葉に、木崎は少しだけ黙った。


日下部は隔離端末に、試験用の小さな反応を作った。


人の名前ではない。

場所の記憶でもない。

後悔でもない。


ただの確認信号。


開かない。

誘わない。

呼ばない。


届いたかどうかだけを見るための、白い点。


「これを、補助線に乗せます」


城ヶ峰が短く言う。

「通すな。送るだけだ」


「分かっています」

日下部は、画面に指を置いた。


◆ ◆ ◆


【異世界・王都イルダ/分析室・午前】


ノノも、水晶板の前で同じ準備をしていた。


セラが隣で、医療棟側の結界を確認している。


「医療棟の周囲に、受け取り用の結界を置きます」


ノノが頷く。

「受け取るだけ」

「引っ張らない」

「返事もしない」

「ユナさんの名前も使わない」


「はい」


セラは、静かに術式を整える。

「ここはイルダ医療棟」

「治療中の者を守る場所」

「信号は受ける」

「人は通さない」

「記憶は開かない」


その言葉に合わせて、水晶板の医療棟の点が青く安定した。


ノノは、reの補助線を見る。


白い線は、医療棟へまっすぐ入らない。

青い点の手前で一度止まり、そこから薄く曲がって、治癒結界の外側へ触れている。


「すごい……」

ノノは小さく呟いた。

「医療棟の中じゃなくて、結界の外側に当てようとしてる」

「直接ユナさんへ行かないようにしてるんだ」


セラが静かに言う。

「慎重な線ですね」


「うん」

ノノは頷く。

「reは、道を作ってるんじゃない」

「触れていい場所を選んでる」


セラは、しばらくreの補助線を見つめていた。


その目は、いつものように静かだった。

けれど、どこか遠いものを見ているようでもあった。


ノノは気づく。

「セラ?」


セラは少しだけ間を置いてから答えた。

「reを見ていると、少しだけ……近いものを感じます」


「近い?」

ノノが聞き返す。


セラは、水晶板の上を進む白い補助線を指先でなぞる。

「存在として、同じという意味ではありません」

「けれど、立場が近いのです」


「立場?」


「案内人です」


ノノは黙った。


セラは続ける。

「reは、道そのものではありません」

「けれど、危ない道を避け、触れていい場所を示している」

「私も、かつてはそういう役目に近い場所にいました」


その言葉に、ノノは一瞬だけ息を止めた。


オルガ・セフィロ。

ヴァルド・レイグ。


その二つの名前を聞いてから、セラはずっと揺れている。


ノノは聞きたかった。


セラが何を知っているのか。

オルガとヴァルドと、どう関わっていたのか。


けれど、セラは先に首を横に振った。


「今は、まだ話せません」

「話せば、余計な記憶が開くかもしれません」


ノノは唇を噛み、それから頷いた。

「分かった」

「今は聞かない」


セラは静かに言った。

「ありがとうございます」

「ただ、reの補助線は信じすぎても、疑いすぎてもいけません」

「案内人は、道を決める者ではありません」

「進む者が、最後に選ぶ必要があります」


ノノは、その言葉をすぐに記録した。


名前。

器。

場所。

選択。

そして、案内人。


reは道ではない。

けれど、道を選ぶための印。


その考えは、匠の手順にもう一つの意味を加えていた。


そこへ、イデールの通信が入る。


『こちら医療棟』

『ユナは安定してる』

『黒い線は残ってるけど、さっきより薄い』


ノノは答える。


『今から、確認信号だけ送る』

『ユナさんに届かせないで』

『医療棟の結界で受け止めて』


『分かった』


ノノは水晶板に手を置いた。


『現実側、準備できてる?』


日下部の声が返る。


『できます』

『人は通しません』

『名前も記憶も使いません』

『確認信号のみ送ります』


ノノは深く息を吸った。


『送って』


◆ ◆ ◆


【現実世界・帰還した学園/仮設通信室・午前】


サキのスマホで、reが一瞬だけ強く光った。


白い補助線の上を、小さな光点が進む。


それはとても遅かった。


歩くよりも遅い。

息をするように、少し進んでは止まり、また少し進む。


黒い点の近くへ来るたび、reの線はふっと曲がった。


リオは、画面を食い入るように見ていた。

「これ、遠回りしすぎじゃないか」


ハレルが言う。

「遠回りしてるから、安全なんだろ」


「分かってる」

リオは短く答えた。


けれど、焦りは消えていない。


ユナのいる医療棟へ、線が向かっている。

それを見ているだけで、胸の奥が痛む。


すぐに行きたい。

すぐに助けたい。


その気持ちは、まだある。


リオは自分で拳を握り、机の上の伏せたスマホを見ないようにした。


「俺は、待つって選んだ」


小さな声だった。


誰に言ったのでもない。

自分に言ったのだ。


サキのスマホで、reがもう一度光った。


まるで、その言葉を確認したように。


◆ ◆ ◆


【異世界・オルタ・スパイア入口前・午前】


アデルの左手首で、副鍵が震えた。


弱い。

だが、はっきりとした震えだった。


「来たな」


ヴェルニが周囲を見回す。

「何が」


「補助線だ」


オルタ・スパイアの扉の表面に、白い細い線が一瞬だけ映った。


だが、その線は扉へ入らなかった。


扉の縁をなぞり、黒い針の濃い場所を避け、外側を回っていく。


ヴェルニが眉を上げた。

「入らないのか」


「入らない方がいい」

アデルは扉を見つめながら言った。

「この扉は、今もCに見られている」

「補助線は、それを避けた」


ヴェルニは少しだけ感心したように息を吐く。


「reってやつ、臆病なのか賢いのか分かんねえな」


「両方だ」


「褒めてるのか?」


「生き残るには必要な性質だ」


ヴェルニは笑いかけて、すぐに表情を引き締めた。


扉の奥で、黒い針が動いたのだ。


補助線が通らなかったことに、反応した。


アデルは左手首の副鍵へ力を込める。


「ここは、今通る門ではない」

「通った記憶を残す場所」

「補助線は、ここを通らない」


扉の黒い針が、一度だけ震えた。


だが、追っては来なかった。


ヴェルニが低く言う。

「今の、向こうにバレたな」


「ああ」


アデルは頷く。


「だが、線は通った」


◆ ◆ ◆


【異世界・旧石造建物跡/地上部・午前】


石造建物の壁にも、白い補助線が近づいた。


ミレイは水晶板を見ながら息を呑む。


「補助線、こちらへ接近」


ダミエは壁の前に立っていた。


白い階段の輪郭は、まだ残っている。

だが、今は開いていない。


補助線は、その階段の輪郭に触れなかった。


少し離れた場所で曲がり、壁の横を通り抜ける。


王都軍の隊長が驚いたように言う。


「使わないのか」


ミレイは水晶板を見て答える。


「はい」

「ここは試験に使った場所ですが、本接続には使わないようです」

「入口だった記憶が強すぎる」

「Cに利用される可能性があります」


ダミエが短く言った。


「正解」


ミレイが彼を見る。


ダミエは壁を見たまま続けた。


「ここは、覚えておく場所」

「通る場所じゃない」


その言葉に、白い階段の輪郭が少しだけ落ち着いた。


補助線は、石壁を避けて、さらに先へ進む。


ミレイは急いで記録した。


「補助線、石造建物を経由せず」

「入口記憶を迂回」

「C反応、追尾できず」


ダミエは、ほんの少しだけ頷いた。


「re、賢い」


◆ ◆ ◆


【異世界・王都イルダ/医療棟・午前】


医療棟の治癒結界の外側に、小さな白い点が届いた。


イデールは息を止める。


「来た……」


ユナは眠っている。


呼吸は安定している。

指先も、今は動いていない。


寝台の下に残っていた黒い線が、白い点に反応して揺れた。


だが、白い点はユナへ直接向かわなかった。


治癒結界の外側に触れ、そこで止まる。


イデールは、ノノから教わった通りに言った。

「ここはイルダ医療棟」

「治療中の者を守る場所」

「信号は受ける」

「人は通さない」

「記憶は開かない」


白い点が、青い光に包まれる。


そして、一瞬だけ、医療棟の空気が現実側へ伝わった。


薬草の匂い。

治癒光の青。

ユナの安定した呼吸。


映像ではない。

音でもない。


ただ、「そこにいる」という反応だけ。


イデールは水晶板を見る。


「受信成功」

「ユナには触れていない」

「医療棟結界で止まっている」


ノノの声が震えた。


『成功……』

『補助線、医療棟まで届いた』


◆ ◆ ◆


【現実世界・帰還した学園/仮設通信室・午前】


隔離端末に、小さな反応が返ってきた。


青い点。


日下部が息を止める。


『医療棟結界からの反応です』

『人員通過なし』

『名前使用なし』

『記憶展開なし』

『Cの針、未接続』


ノノの声が重なる。


『成功』

『試験接続、成功!』


サキは、思わずスマホを抱きしめた。

「re、届いたよ」


reは、画面の中で小さく光った。


リオは動かなかった。


ただ、青い点を見ていた。


「姉さんのところまで……」


その時、城ヶ峰から新しい報告が入った。


『追加報告だ』

『消失者は確認済み十一名』

『未確認通報は二十件を超えた』

『各所で、クロスワールドゲートの黒い画面が開いている』


サキは息を呑む。

「そんなに……」


城ヶ峰は続ける。

『全員が同じ場所へ消えたとは限らない』

『名前に反応した者』

『記憶地点に反応した者』

『戻りたい場所を選んだ者』

『表示内容が違う』


日下部が画面を見ながら言った。

『白峰律の門は、単一の入口ではありません』

『その人ごとに入口の形を変えています』

『そこに、オルガ・セフィロの分析的な読み取りと、ヴァルド・レイグの入口操作の思想が残っている』

『そして現在は、Cがそれを自分の観測用に組み替えている』


ハレルは、奥歯を噛んだ。


白峰律。

オルガ・セフィロ。

ヴァルド・レイグ。


三人が作ったものが、今も現実を削っている。


そして、その残骸をCが使っている。


リオは、青い点を見つめたまま言った。

「じゃあ、俺たちが作ってる線は、ユナを助けるためだけじゃない」


ノノが答える。

『うん』

『Cの門を閉じるためにも必要』

『人を消す黒い入口じゃなくて、人を戻すための安全な確認線』

『それを作らないと、一般の人たちも取り戻せない』


サキのスマホで、reが小さく震えた。


まるで、分かっていると言うように。


ハレルは静かに言った。

「まずはユナさん」

「でも、その先に消えた人たちもいる」


リオは頷いた。

「姉さんを戻す道が作れたら」

「他の人を戻す手がかりにもなる」


その言葉に、白い補助線がほんの少しだけ強くなった。


ハレルが言う。

「まだ、ユナさん本人じゃない」

「医療棟の結界までだ」


「分かってる」

リオは静かに答えた。

「でも、近づいた」


その声には、焦りではなく、確かな実感があった。


日下部が続ける。

『ただし、この線は固定できません』

『同じ形では、次にCに読まれます』

『毎回、reの補助線で避け方を変える必要があります』


ノノも言う。

『それと、まだ人は通せない』

『人を通すには、ユナさん側の選択反応がもっと必要』

『リオ側の後悔も、門にされないように固定しなきゃいけない』


リオは頷いた。


「俺は待つ」

「姉さんを本当に戻すために」


その言葉に、白い補助線が少しだけ太くなった。


ほんの一瞬だけ。


だが、全員が見た。


リオの選択が、線を強くした。


◆ ◆ ◆


【どこでもない層/深層】


Cは、補助線が医療棟へ届くのを見ていた。


人は通っていない。

名前も使っていない。

記憶も開いていない。


ただ、医療棟の結界へ確認信号だけが届いた。


Cは静かに言った。


「小さい成功です」


ジャバが舌打ちする。

「潰せなかったのか」


「潰す対象がありませんでした」


「は?」


「道ではなく、確認でした」

Cは答える。

「入口ではなく、触れて戻るだけの点です」


ジャバは顔をしかめた。

「面倒くせえな」


奥で、カシウスが言った。

「だから潰すなと言った」


ジャバが振り向く。


カシウスは、reの補助線ではなく、その周囲の影を見ていた。


「reは道を開かない」

「危ない場所を避けて、触れていい場所だけを示す」

「なら、狙うべきはreではない」


Cの黒い線が静かに揺れる。


「リオですか」


「違う」

カシウスは短く言った。


「ユナだ」


Cは、医療棟の青い点を見る。


「本人の選択反応」


「ああ」

カシウスは頷いた。

「今は弱い」

「だが、戻る時には必ず必要になる」

「なら、そこに影を置く」


ジャバが笑う。


「助けるって選ばせる瞬間を狙うのか」


「そうだ」


カシウスは、薄く笑った。


「戻りたいと選ぶこと」

「それ自体は本物だ」

「本物だからこそ、利用できる」


Cは、医療棟の青い光のそばに、黒い影を沈めた。


針ではない。

門でもない。


まだ誰にも見えない、小さな後悔の影。


Cは静かに言った。


「次は、選択に混ざります」


深層の暗がりで、青い点が一度だけ揺れた。


reの補助線は届いた。


だが、ユナを戻す瞬間に必要な「選択」の近くへ、黒い影もまた近づいていた。



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