29話 “饗宴乱闘〜壱〜”
覇竜饗宴の一大イベント饗宴乱闘。精鋭級以下の竜たちが戦うバトルロイヤル。
ルールは最後まで立っていた者の勝利。優勝者は階級を上げる試練を一部免除されるという豪華特典が授与される。
なお、メギドラはこの特典については知らない(ウガが教えなかったため)
「“逆鱗解放”“竜の血”」
(さて、俺には攻撃対象が集中するが・・・六か・・近距離が四体に遠距離が二体・・・この中で一番厄介なのは───)
メギドラは冷静に状況を整理し、然るべき対処を取る。
饗宴乱闘開始の合図から一目散に六体の竜がメギドラの方へと向かってきた。
ウガからの教えから、メギドラはその中で最も厄介な相手に目星をつけて相手をする。
「“赤竜血集”“赤星筋狂”」
先の人間との戦いにて得た新技、“赤竜血集”と“赤星筋狂”前回はシェルル・シューラの大地の手を砕くため、右腕に集中させたが、今回は両脚に血液を集中して送り出す。
瞬間的に力を向上させ、一瞬で距離を詰められる瞬発力を得る。
メギドラは近づく四体には目もくれず、ある一体を凝視し、距離を詰める。
「この中で一番厄介なのは───お前だ!“籠殻竜”ステカノス!!」
メギドラが目を付けたのは遠距離から狙っていた竜の内の一体、“籠殻竜”ステカノス。
体表に殻のような結晶が露出している少し特異な見た目をした苔色の地竜の男。
彼の胸を狙った剣での突きは彼の持つ錫杖によっていとも簡単に防がれた。
「不愉快だ、喋るな元人間・・・“逆鱗解放”───」
逆鱗解放の言葉と共に、ステカノスが大きく口を開く。
肺の底から絞り出すような咆哮と口腔から迸る光と熱、メギドラは直感的に「やばい」と感じ、身を捩らせる。
「“身を削る自然の理”!!」
閃光。世界が一瞬白に塗りつぶす一直線の光が射出される。
眩い光と瞬間的な高熱によって敵を倒す、いわゆるビームだ。
盾を貫き、武器を貫き、身体を貫く遠距離攻撃。
だからこそメギドラは彼に目星をつけて攻撃したのだ。
「・・・外した」
「当たってるよ」
(左手の小指と薬指に、左頬を掠めただけだけど)
メギドラの言葉を聞いて、ステカノスは苛立ちを隠そうともしない。
その怒りに呼応するように、殻のように露出している結晶が伸びていく。背中は顕著で、まるでカメの甲羅かのように大きい。
シュ〜と焼くような音が聞こえながら、結晶が育っていく。
苔色の結晶が光を反射し、闘技場の照明を受けて不気味な輝きを放つ。
「不愉快だぞ、お前がいなければ普段通りの素晴らしい覇竜饗宴だった。さっさと倒されてしまえ、皆お前が戦ってるのなんて見たくないんだよ」
「そんなに嫌ならお前がさっさと倒せばいい。甘いんじゃないか?最初から全力で撃ってこいよ」
メギドラはさっきのが全力かどうか見分けられてはいなかった。
だが敵を怒らせ冷静さを欠かせるにはそれが嘘でも十分だった。
恐らくメギドラの現在の武器術では、ステカノスに有効打を当てることはできない。元より剣は飾りみたいな想定であった。
メギドラ本来の戦い方は逆鱗による血の攻撃、そして徒手空拳。これしか通用しないだろう。
ステカノスの結晶殻がさらに膨張し、苔色の光が脈動する。次の光線がいつ放たれてもおかしくない。
(誘うか・・・)
地を蹴った瞬間、両脚に集中させた血液が爆ぜる。空気が破裂するような衝撃と共に、メギドラの体が跳ね上がる。
ガス状に変化させた血液を足裏から噴射することによって跳躍ではなく、身体を射出することを実現する。
本来の地竜の身体能力ならそれを追うことができるはず、だがステカノスは───
(結晶が重いだろ)
重りを身に纏ったステカノスでは、そこまでの跳躍力を出すことができない。
故に、攻撃方法は地上からの光線攻撃のみに限られる。
だがこのままではわざわざ狙いやすい空中にに飛んだだけである。
よって噴射した血液を“竜血霧”によって霧の幕を張り、視界を塞ぐ。
「生意気だな───“地還咆”!!」
轟音が地面の奥底から突き上げるように響き、ステカノスの足元から波紋のように大地が震えた。
先ほどの攻撃と同じ光線の攻撃。光線の光と熱が血の霧の幕を押し退けて進んでゆく。
霧の中に浮かぶ僅かな影を狙って。
「───本当に、面白いくらい引っかかってくれるな」
“地還咆”を放った瞬間、ステカノスの後方から声が届く。空中で撃ち抜いたはずの憎き相手の声。
「“竜拳殴牙”」
瞬間、背後からの強い衝撃。ステカノスの体は地面を離れた。
殴られた衝撃が一点から全身へと奔る。重い結晶では衝撃を逃すことはできず、そのまま質量ごと後方へと弾き飛ばされる。
(・・・痛ってぇ)
メギドラがやったことはトーヴァと戦ったときの戦法と同じだ。
“竜血霧”で視界を塞ぎ、見える位置に血で作ったダミーを置いておく。相手がそれへの攻撃に夢中になっている間に死角から近づいて攻撃。
そこまではよかった。問題はステカノスの殻が想像以上に硬かったこと。
(巨像や大地の手を砕いてきた俺の拳が出血するほどの硬度、砕くどころかヒビすら入らなかった。結晶の防御を破って倒そうとするのは得策じゃない)
メギドラは読み違いをしている。
ステカノスの結晶は常にこのレベルの硬度を持っているわけではない。
ステカノスの逆鱗“身を削る自然の理”は『自然エネルギーをその身に溜め込み、放出する能力』
光線攻撃は自然エネルギーを最もシンプルな形で放出しているに過ぎない。
だが彼は逆鱗の扱いがまだまだ未熟な状態。見た目以上にピーキーなこの能力をまだ使いこなせていない。
彼の体表に露出している殻のような結晶は、過剰に溜め込んだ自然エネルギーを制御できず、体外に溢れ出したものを結晶化させて無理矢理保っているだけに過ぎない。
未熟な逆鱗の性質による偶然の産物。ステカノスはこの現象を“結晶鉱姿”と呼んでいる。
結晶は自然エネルギーが最も溢れ出そうとするときに硬度を上げて肥大化する。つまりエネルギーを吸収し、光線を放った瞬間に最高硬度になり、そこから緩やかに硬度が下がっていく。
つまりメギドラが攻撃した瞬間は運の悪いことに最も硬度が高い瞬間であったということ。
メギドラは拳に滲んだ血を軽く振り払いながら戦況を見渡す。
ステカノスに集中しすぎると他の者の攻撃を喰らってしまうだろう。
“竜血霧”の探知と視覚の二つを使って周辺の情報を得る。
(・・・うん?)
“竜血霧”の霧に妙な動きがある。
風や音などの空気の動きや、生物が動いたときに現れる動きでもない。
パチリッ。
空気が裂けるような音と共に、霧が妙な動きをする。霧が引かれる。糸で引かれるように、否、吸い寄せられるように。
本来メギドラの意思がなければ無秩序に漂うはずの赤が、一本の流れへと収束されていく。
その先に見えるのは、霧の先を照らすような黄色の男の姿。
「・・・ライデン?」
髪が逆立ち、蒼白い稲光をその身に纏い、身の丈以上の大剣を軽々片手で持ち上げている男の姿。
蒼白い稲光は闘技場の空気を震えさせる。あの将軍級の緑色の天竜が落とした雷のときと同じ感覚。
メギドラは思わず息を呑む。昼前に見た、あの頼りなげな青年の影はない。
ライデンの後ろには竜が五体倒れている。
いずれも最初からメギドラを狙っていた竜たちだ。
(暴走?いや、これは───)
「・・・アハっ」
彼は笑った。無邪気な少年のように笑った。戦いを楽しむように、蹂躙を楽しむように、不気味な笑いだ。
瞬間──ライデンの姿が消えた。
瞬きするより早く、世界が揺れた。
「────ッ!!」
気がついたときには、メギドラの身体は横へと弾き飛ばされていた。
衝撃そのものは一瞬、だがその一瞬の中に、斬撃の軌跡と雷光の残滓が確かにあった。
(今・・・何が──)
遅れて痛みが走る。
左肩から胸にかけて、深く斬られた感覚。
だが血は流れない。代わりにあるのは普通以上の痛みと熱さ、そして僅かに感じる電気による痺れ。
傷口が高熱によって溶け、血管が焼き切られて凝固している。故に血は流れない。
「“IMPULSE”」
遅れて後方から技の名が聞こえる。そこに立つのはライデン。
メギドラは予想外の状況にも焦らず、冷静に分析する。
「・・・なるほど、それがお前の逆鱗か。電気か雷を操る能力。身体を制御している電気信号を逆鱗で桁違いに強化しての高速移動。そして雷を纏う剣で斬りつけることで焼灼を起こして血管を塞ぐ。もちろんそれだけじゃないんだろうが・・・相手を殺すことなく痛めつけるならいい能力だな」
斬られた痛みは問題ない。身体を何回もナイフで刺されたような激痛だが、戦う分には我慢すれば問題ない。
今の問題は目の前のライデンだ。
メギドラは呼吸を整えながら、じり、と足を引きずるように後退する。
(問題は、俺がライデンの動きについていけないこと。俺がどれだけ血液を操作して肉体を強化しても電気を操るライデンには追いつけない)
「・・・さぁ、どうするか」
そう呟き、メギドラは笑った。
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(早速ライデン様が五名撃破、交戦中のメギドラとステカノス様に割って入るようで・・・三つ巴で戦うのでしょうか。削りあって頂けるとありがたいですね)
遠くから戦況を見極めるヴォロコーブが心の中でそう呟く。
(俺が狙うべきはライデン様以外の精鋭級ですね。こういう戦いで狙うべきは強い方々です───と、なんだかんだ言っている内に見つけました)
ヴォロコーブの目の前に立つのは赤い瞳に白虎の光を宿している白色の地竜の女。
“白虎竜”ウラモキだ。
「ウラモキ様。お相手願います」
不意打ちなんてしない。ヴォロコーブは挨拶をしてから勝負を仕掛ける。
「いいよー、お手柔らかにお願いね」
ウラモキは軽くそう答えて構える。答え方は飄々と聞こえるが、その目は獲物を見る虎の目だ。
「“逆鱗解放”“氷雪白弾”」
「“逆鱗解放”“伯都壱式・白虎憑依”」
ヴォロコーブの逆鱗は“氷雪白弾”
能力は単純明快『雪や氷を操る能力』 二つ名の“氷仕竜”はこの能力故に来ている。
(そしてウラモキ様は饗宴乱闘に参加している竜の中では肉弾戦最強の相手。正直言って、近距離での差し合いに持ち込まれては俺が勝つ手段はないでしょう)
ヴォロコーブは一歩、後ろへ滑るように退き、腰を低く落として構える。
その足元から白い霜が広がり、薄氷が音もなく地面を覆っていく。白い冷気が辺りを立ち込めた。
対してウラモキは柔道やレスリングの構えのように上体は前傾姿勢を保ち、今にも噛みつかんと飛び出しそうな姿をしていた。
白い冷気が地を這い、ウラモキの足元へと伸びる。だがウラモキはその霜を見ても眉一つ動かさず、虎視眈々と狙っていた。
「へぇ・・・随分と綺麗だね。じゃ、いくよ?」
次の瞬間、ウラモキの姿が跳ねた。跳躍ではない。
虎が獲物へ飛びかかる瞬間の、あの間合いの潰し方だ。
「ッ!───“雪倉”」
次の瞬間ヴォロコーブの足元から雪が一気に盛り上がり、半球状の氷雪の防壁が瞬時に形成される。
だが────
「甘い」
氷壁に触れた瞬間、ウラモキの掌が白虎の光を帯びて嚙みつくように食い込む。
傍から見れば氷が砕ける音にしか聞こえないが、ヴォロコーブの耳には獣が骨肉を嚙み砕くような、乾いた破砕音。
その轟音に気圧されるように、無意識に一歩下がる。
氷壁が砕け散り、ウラモキの掌がヴォロコーブの頭部を狙って突き抜ける。
白虎の光を纏った掌は、先程までヴォロコーブの頭部があった位置を貫き、一歩下がったその位置の寸前で止まった。
(ッ!!近づきすぎた。危なかった、一発でやられることはなくとも大ダメージは必至でしょう。しかもウラモキ様にとってはこの攻撃すらただの掌底に過ぎないという・・・恐ろしい攻撃です)
そうこう考えているうちにウラモキは“雪倉”をこじ開け、「こんなもの障壁にすらならない」とでも言いたげなように氷雪の欠片を握りつぶした。
「いいね、雪遊びで身体が温まってきたよ」
ウラモキは握り潰した氷片をぱらぱらと落としながら、肩を軽く回す。
その仕草はまるで準備運動。
「・・・それはよかったですね。すぐに冷やしてあげますよ」
「へぇ、口が回る。強がりだねぇ・・・そういうのは嫌いじゃないよ」
ウラモキは笑った。
獣が獲物の反応を楽しむような、底の見えない笑み。
白虎の光がさらに濃くなり、ウラモキの指先が眩い光を放つ。
「“伯都弐式・斬穿虎爪”」
白虎の光が指先に収束し、鉤爪のような鋭い爪が伸びていく。それは今までと同じ竜の爪ではなく、荒々しい猛虎の爪。
空気が裂け、ヴォロコーブの肌が粟立つ。
氷の冷気を獣の殺気が押し退け辺りを支配する。
ウラモキの指先に宿る光は、もはや光ではない。獣の本能そのものが形を持ったような、鋭い殺意の塊のようなもの。
(ウラモキ様の逆鱗は時間が経つに連れて深度を増す逆鱗・・・伯都弐式でこのプレッシャー、凄まじいですね。そしてこの距離、この間合いにこの殺気、判断を一瞬でも誤れば狩られますね)
そう考えながらも、氷の冷気は勢いを増し、獣の殺気に逆襲するように、支配域を押し返していく。
二つの力が拮抗し、闘技場全体が震えた。
轟音。
雷鳴。
結晶の砕ける音。
そして───血の匂い。
遠くで、メギドラとライデンが激突した衝撃が響く。ステカノスの光線が空を裂き、観客席を照らす。
ウラモキがちらりと視線をそちらへ向け、虎のように笑った。
「いいねぇ、みんな楽しそうじゃん・・・さ、続きをしよっか、逃がす気はないからね、“氷仕竜”ヴォロコーブ」
白虎の光が軌跡を描き、爪が振り下ろされる。
同時刻───メギドラは雷光を纏うライデンを正面に捉え、血を拭いながら笑う。
ステカノスの結晶が背後で脈動し、再び光線の予兆を放つ。
雷。
血。
結晶。
三つの力が交差し、饗宴乱闘はさらに激化していく。
【闘技者残り:十三名】




