王都到着
空飛ぶ絨毯に振られて数時間。
ついに目的地が見えてきた。
「オーギ様! 王都が見えてきましたよ!」
「ん、そうだな。あれが王都か」
そう言いながら、城壁に囲まれた王都の街並みを眺める。
「はいっ! あれがユグリハ王国の王都です!」
「なんだろうな。転生してまだ二日目なのにものすごく長い時間森の中にいた気がする」
「オーギ様? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それよりもそろそろ降りるから、準備してくれ」
「かしこまりました」
「確かに、この絨毯で乗り付けたら騒ぎになりそうですもんね」
王都から少し離れたところで絨毯の高度を下げ地面に降ろす。
さすがにこのまま近づいたらメイの言う通り騒ぎになるかもしれないからな。
変なことで時間を使いたくないし、王都の中に入れてもらえなくなったら困る。
最悪、俺の”能力”の一つである【催眠】を使えば何とかなるだろうが、それは本当に困った時だけの最終手段だな。
もしもそんな”能力”を持っているなんて知られたら俺の社会的な地位が危ないからな。
あと、だれも俺を信用できなくなる。
さすがにそれはまずいのでできれば使いたくない。
そんなことを考えていると、門の前に到着した。そこでぱぱっと入場手続きを済ませる。
――そのつもりだったんだが、
「アイル、俺は大変なことに気が付いてしまった」
「大変なこと、ですか?」
俺は真剣な顔でアイルを見ながら気が付いたことを口にした。
「俺たちって、お金になる魔石なら大量に持ってるけど現金は一円たりとも持ってないよな?」
「はい、持ち合わせておりません」
「だよな。じゃあさ、俺たちってどうやって門の中に入るの? もっと正確に言うなら、入場料ってどうしたらいい?」
「……思わぬところに伏兵がいたものですね」
「……まったくだな」
いくら異世界転生と美少女で浮かれていたとはいえ、こんな凡ミスをするとは。
アニメや漫画で、街に入るときにお金がいるパターンはさんざん見てきたというのに、肝心な時に忘れているとは。不覚だ。
……仕方ない。
できるだけやりたくはなかったが、あれをやるとしよう。
【催眠】は最終手段だからとっておくとして…………創るか。
俺は《創造主》を発動させ、この国のお金をイメージした。
「……なんで……なんで日本円なんだよ!?」
出来上がったお金には諭吉さんが描かれていた。
日本最高額のお札だ。
だが、それはあくまでも日本では、ということであり異世界においては話が別だ。
価値などあるはずもない。
でもまあ、一応ごくわずかな可能性に懸けてみるか。
「なあ、メイ。この紙に見覚えはあるか?」
「いいえ、なんですか?それ」
「ですよね」
うん、わかってた。異世界で日本のお金が使えるわけがないよね。
ちょっと聞いてみただけだよ。
もしかしたら日本円がこの世界での共通のお金って可能性に懸けたくなったんだよ。
ていうか、《創造主》って確か『自分の知識にないものでも~』とか説明に書いてなかったか?
詐欺じゃん! 創造できてないじゃん! 説明分に問題がある件について!
「あのー、オーギ様? 少しよろしいですか?」
俺が本格的に【催眠】を使うべきかと悩んでいると、さっきからずっと俺のことを見ていたメイが声をかけてきた。
「どうした?」
「いえ、その……お金がないのですか?」
メイは俺に気を使ってか、俺にしか聞こえないくらいの声でそう聞いてきた。
「……はい」
嘘をついてもしょうがないので素直にないと答える。
「その、よろしければ私が入場料をお支払いしましょうか? 私これでも貴族ですし、それくらいならどうということはないですよ?」
マジで? なんでかな、今メイがすごく神々しく見える。
「俺としては大変助かるが……いいのか?」
「もちろんですよ。オーギ様には窮地を救っていただき、王都まで送ってもらったという恩がありますからね。これくらいはさせてください」
「メイ……ありがとな」
「いっいえ! 気にしないでください! それじゃあ早速手続きを済ませちゃいましょう!」
俺がお礼を言うと、メイは顔を真っ赤にして門まで走って行ってしまった。
何も照れることはないだろうに。
かわいい奴だな。
そうして、無事手続きを済ませることができた俺たちはようやく王都の中に入ることができた。
◆◆◆
王都の町並みは全体的に石造りの建物が多かった。
そして王都というだけあってどこもかしこも人であふれている。
活気があるという言い方もできるな。
人と言っても、普通の人間だけではなかった。
動物の耳としっぽの生えた人間。
つまり獣人だ。この世界でも獣人というのかはわからないが、とりあえず今はそういうことにしておこう。
あとはエルフと思われる人間もいた。
いいよねエルフ。嫌いじゃないよ。
ケモミミっ娘も捨てがたいな。モフりたい。
俺がケモミミっ娘やエルフを眺めていると、メイが声をかけてきた。
「オーギ様、私はいったん家に戻り、無事帰還したことをお父様に報告してきます。今日は助けてくださり本当にありがとうございました」
「気にするな。門を通るとき俺たちの分までお金払ってもらったからな。お互い様だ」
俺がそう言うとメイは優しく微笑み、小さくつぶやいた。
「本当にオーギ様はお優しいですね」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ、何でもありません。あっ、そうですオーギ様、アイル様! 今日宿泊する宿はまだお決めになっていませんよね?」
「まあな。まだ来たばっかりだし」
というか、その前に魔石売ってお金をどうにかしないとだよな。
まずはそこからだ。ちなみに魔石含めてもろもろの荷物はアイルの”能力”の【収納】に収めている。
結構便利な”能力”だし俺も《創造主》で創ろうかな。
俺がこの後のことを考えていると、メイがとても魅力的な提案をしてきた。
「それでしたら、もしよければ私の家へお越しください! 部屋はたくさん余っているので、何日でも泊って行っていいですよっ!」
「おぉ、それはありがたいな。アイルもいいか?」
「はい、扇様」
アイルは二つ返事でOKしてくれた。無表情で、だが。
もしかしたら、反対するかも、と思っていたが杞憂だったようだ。
「決まりだな。それじゃあ今日はお世話になるよ」
「決まりですね! 今から一緒に行きますか? それとも何か用事が?」
「あ~そうだな、王都を観光しようと思ってたけど、まあ明日ゆっくりするか」
「わかりました! ではご案内しますね!」
なんだかメイがはしゃぎ過ぎてて後ろの護衛とメイドがすごく困ったような顔をしている気がするが、まあいいや。
メイドさんはともかく、おっさんの苦労と美幼女の楽しみ、どちらが大切かなんて言うまでもないしな。
と言うわけで、メイのお宅にお邪魔することとなった。