アラビアンな絨毯
「大変なことに気が付きました」
メイが黒歴史を刻んだ少しあと、メイたっての希望で今回のグリーンウルフ戦で亡くなられた護衛の人たちを埋葬することとなり、そのための穴を掘っている途中、メイがそんなことを言い出した。
「大変なこと?」
黒歴史は消せないという事実を理解したのか?
「はい、実は――」
メイは神妙な面持ちでとても大切なことを今更ながらに口にした。
「護衛用の馬車がありません」
「……もっと早く気づけよ」
「すっすみません!」
「はぁ、いや、謝る必要はないけどさ」
馬車がない、そんなことは初めからわかっていた。
俺が駆け付けた時、木に絡みつかれていたのはメイが乗る白い馬車だけ。
あの馬車では、乗れたとしても精々四、五人が限度だろう。
俺とアイルが乗るスペースがない。
まあ俺たちの場合馬車に乗るより走った方が早いんだがな。
護衛だから早さは合わせるけどさ。
「そっそれと!」
「まだ何かあるのか」
「馬と御者が…………」
「……あ」
曰く、馬は早々に狼の胃袋の中に入り、御者はいつの間にかいなくなっていたという。
「あは、あはははは」
「はは、ははははは」
「……」
「……」
さて、
「どうすんだよ!? 護衛とか以前に移動手段がないじゃん!」
「どうしましょう?」
「どうしましょう、って、どうしてお前ここだけ冷静なんだよ」
「なんででしょうね?」
「知るか」
歩くしかないか? でも歩くとしたら確実に移動速度が落ちる。
できれば今日中に王都についておきたかったが仕方ないか。
となると今日は野宿か。
また昨日みたいに家を創って――――――って、ダメじゃん!
せっかく《創造主》見せないように戦ったってのに――
「扇様」
そんなことを考えていると、アイルが俺の名前を呼んだ。
「どうした?」
「扇様はどうして《創造主》をお使いになられないのですか?」
「そりゃあ、使ったら――――――あれ? なんでだっけ……」
そういえば、あの時は『むやみに見せていいのかわからない』なんて理由で使わなかったが、アイルがこう言ってるってことは見せていいってことだよな?
だとしたら自嘲する必要もなくないか?
というか、俺がもらったものをどう使おうが俺の勝手なのでは?
「アイル、確認だ。《創造主》って普通に人前でも使っていいんだよな?」
「はい、問題ありません」
「なんだ、余裕だな」
俺はそうつぶやくとこれからどうするか悩んでいるメイに声をかけた。
「メイ、もう考えなくていいぞ」
「? どうしてですか?」
「移動手段なら――これから創るから」
「え?」
「まあ見てろ」
メイはなにを言ってるのかわからない、といった表情をしていた。
無理もないか。いきなり移動手段を創るとか言われても理解できるわけがない。
と言っても、見たからと言って理解できるとは限らないが。
さて、始めるか!
「《創造主》」
俺は目をつぶり《創造主》を発動させイメージする。
それは絨毯だ。ここにいる全員が無理なく入れる大きさの絨毯。材質はできるだけ柔らかい素材で長時間の間乗っていても大丈夫なもの。これくらいかな?
「なっなんですか、これ!?」
どうやら成功したらしいな。
「絨毯だな」
「それは見ればわかりますけど、いったいどこから?」
「いっただろ? 移動手段を創るって」
「移動手段……これが?」
まあ、そういいたい気持ちもわかる。ぱっと見只の絨毯だからな。正真正銘只の絨毯だが。
「ま、細かいことは気にするな。とりあえず全員乗り込め」
メイとメイド、そして死体を埋葬し終えた護衛のおじさんたちはわけがわからないといった様子だった。
が、おとなしく指示に従い乗り込んだ。
絨毯に乗り込むって日本語的にあってるのかはわからないが気にしない。
だってここ異世界ですから。
というか、今更だがこの世界でも日本語って通じるんだな。
文字はどうなのかわからないが、おいおい確かめていけばいいか。
「よし、全員乗り込んだな。それじゃあ――」
「まっ待ってください! どうやるのかは知りませんがこの絨毯で移動するんですよね? それだと馬車は持ち帰れないのでは?」
「あ~すまん忘れてた」
俺は白い馬車に近づいて手で触れた。そして”能力”を発動した。
「【サイズ】」
そう呟くと馬車は一瞬にして大きさを変え、2センチ四方にまで小さくなっていた。
【サイズ】とは、その名の通り物の大きさを自由に変えられるというものだ。
直接手で触れなければいけないという難点はあるが使い勝手のいい”能力”である。
ちなみに、大きさを変える熊を殺したときに吸収したものだ。
いきなり熊が消えたり、と思ったらデカくなったりと中々めんどくさかったことを覚えてる。
そんなことを考えながら、俺は小さくなった馬車を拾い、驚いている様子のメイたちのところに戻る。
「あれ!? 馬車はどこに行ったんですか!?」
「ああ、それはだな」
そう言いながら俺は2センチ四方の馬車を手渡した。
「ち、小さいですね。何をしたんですか?」
「ん? ああ、【サイズ】って”能力”があってな、それを使って馬車の大きさを小さくしたんだよ。さすがにそのままの大きさで載せるのはきついからな」
「【サイズ】……ですか。オーギ様、いったいいくつの”能力”を持っているんですか?」
「それは秘密だ」
「もっもう! 今度は焦らしプレ――――――いえ、何でもありません」
おっ、思いとどまったか。半分以上アウトな気がしないこともないがそこは触れないでおこう。
「それじゃあ出発かな」
俺は絨毯を操作して浮遊させた。
これは《創造主》で創造したモノは自由自在に動かすことができる、という特性を利用したものだ。
簡単に説明するなら、アラビアンなナイトに登場した絨毯を再現したモノだと考えてくれればいい。
その大きさは比べるべくもないが。
そうして、木々の上まで浮遊させたところで進行方向を向き移動させた。
意外と布でも行けるもんなんだな。
前に同じことやった時は鉄でできたサーフボードだったからな。
少し不安な部分もあったんだが、杞憂だったみたいだな。
「なんですか、これ! すごいです!」
メイが辺りを見渡しながらはしゃぐ子供のような声を上げていた。
他の面々も口には出していないものの目がとても輝いていた。
さてと、これから王都到着まで少し時間があるな。
まあ、各々自分の好きなように開放的な空の旅を堪能してくれればいいさ。
あっ、でも一応落ちないように注意しとかないとな。
「お~い、メイ。はしゃぎ過ぎて下に落ちないようにな?」
「は~い、わかってますよ~」
これはわかってないな。でもまあ、俺的には美幼女の年相応にはしゃいだ顔が見れただけで十分得した気分だ。
やっぱり女の子は笑顔が一番だよな。
アイルにもいずれは――
俺はメイの笑顔を見て、少し前に立てた目標を絶対に達成させよう、と心に強く誓った。




