ep.7 規制
設定作りの際に舞台をクラクフかルブリンにするかで、かなり迷いました。
ルブリンも古くからの街並みが残る良いところです。
せめてもの抵抗だろうか。
ルブリンの裏通りにはレンガ造りの壁がある。そこには、よくポーランド語で言葉が書き留められている。まさに、民衆の声にならない声、といったところだろうか。
ポラリスは通りかかる度に、その文字を読んだ。通訳しなくてよい言葉というのは、なんと身軽だろう。
しかし、一体いつ、誰が書き直しているのだろうか?
昨日の夜にここを通ったときには、また別の言葉が書かれていたというのに。夜の間に外出しているところを兵士に見られては、ただでは済まないだろう。
もしくは、私のように目にした者たちが、通りすがりに書き込んでいるのかもしれない。
たまたま、カノープスはその朝、倉庫の回り道で同じ通りを通った。
今まで使ったことは無かったが、興味本位で入り込んでみたくなった。
通りの中程までくると、レンガの白い跡に目がいく。どうやら文字か何かが書かれていたらしい。もう既に消されていたので、読み取れなかったが、恐らくポーランド語だろう。
控室でカノープスがふと、思い出したかのように話した。
「貴方の家の近くに、裏通りがあるよね。そこは、よく使ってる?」
「⋯ああ。あの裏通りの壁の文字はよく変わるんだ。」
「僕が通った時には、消えてしまっていてね。なんと?」
「君たちには言えないようなことに決まってる。
その話を口に出さないほうがいい。」
夜、ポラリスはその壁の前でもう一度止まった。カノープスと過ごした、どんな時間よりも短かった。目で消された跡を辿って、筆跡をよく思い出した。そうやって、確認して、また角を曲がった。次の朝には、また誰かが直しているかもしれない。
カノープスは翌日、その回り道は使わなかった。目を背けたわけではない。彼らの思いを誰にも口にせず、ただ見覚えるだけ、それがせめてもの、贖いだった。




