ep.4 眼差し
カノープスの過去についても書きたいですね。
子供が横町の影から見つめていた。
遊び道具は持っていなかった。何か子供の興味をひきそうな物も。
カノープスの襟のボタンが、午後の日の光をはね返した。
その返した、眩しい光を子供は目で追った。
7歳程だろうか?追う目には、僕がどんな存在なのか、敵という影はまだ定着していなかった。
もっとも、彼が興味を持っているのは、軍服の美しさと、高い革靴、そして通りが自然と空く、といったことだった。
不意に、母親だろうか、若い女性が後ろから肩を掴み、子の顔を壁の方へと向けた。向く前に一瞬、子供の口から小さな言葉が発せられた。兵士、ポーランド語でそう近いような言葉に聞こえて、その言葉に心が掻き乱されそうになった。
止まりかけた靴先を、意図して元に戻した。
微笑みはしなかった。軍服を着た僕が一体、大人たちに何をしているのか。どうして、大人たちが僕に従うのか。微笑んでしまったら、僕は優しく見えるだろうな。生憎、子供向けの顔を足したくはなかった。
目も合わせはしなかった。合わせてしまったら、その子供はあの将校を見た子だと認識されるだろう。まるで、ポラリスと同じように。
僕は将校で居続けなければならない。彼らは物じゃないとも、分かっているはずなのに。
夜、話には出さなかった。言うと、ポラリスは通りを歩きづらくなるだろうから。
軍服の襟を整えて、軍帽を正しい位置に戻すと、鏡の中の男は、あの子供に見られた男だった。
保つことが、僕の義務なのだ。僕は、ここに居る限り、あの男で居なければならない。




