ep.2 再会2
句読点付けがちと友人に指摘されがち。
自分の頭の中で区切りを入れたくなるんですよね。
2人の関係性について深掘りする回でもあるかもしれません。
再会から時間が過ぎると、次第に同じ部屋、同じ仕事の反復になった。
いつも通りの業務のために、彼は決まった時間にやってくる。
部下の何人かは、そのポーランド人がほとんどのことに詳しいのを、いいように利用しているようだ。便利さにいつか足をすくわれる日もあるだろうに。
二人きりの時間があれば、お互いの話をし合った。彼はその時だけは肩の荷を下ろせるようで、ただ話をするだけだった。だが、僕はそれでも彼の役に立てているような気がして、それでよかった。
誰かが執務室の前を横切るたび、僕らはドイツ語に戻った。もっと声を落として、秘密を話すときはロシア語になった。誰にも気付かれないように、念には念を入れて。
ある深い夜に、控室を空けた。僕は書類を広げたまま、鍵も掛けずに、人を待った。それがかえって仕事のように見えたかもしれないが。勿論、表の理由も倉庫の確認という立派なものがある。
「少しだけだよ。10分。僕らの仕事時間よりもうんと短いけれど。」
「足りるか?」
「足りないよ。でも10分しか許されていないんだ。」
ふたりは外に出て、人目のつかない、月の光の下を共に歩いた。そう遠くまでは行かなかった。
石段を下りて、川のせせらぎが聞こえるほど近い通りをゆっくり進んだ。カノープスは軍服のまま、ポラリスはその半歩後ろで、まるで用を言いつけられたように、俯いて歩いている。
「ピアノはどうしたんだい。」
「辞めた。これも受け入れるべき変化だ。」
「そうか。」
沈黙。
理由を話してくれるのかと期待したが、彼は言うつもりはないらしい。
「でも音楽は愛している。君は、バイオリンは?」
「辞めてないよ。でも今は弾かない。それだけは残したいと思って。」
「ノープがまだ音楽を愛していて、よかった。」
彼のしなやかな指先が思い出される。黒鍵と白鍵を行き来して、暖かい午後の日差しが揺らぐ。ワルツの軽やかな音が聞こえる。あの穏やかな顔が、今はもう見れない過去の幻影でしかないことに、今更僕は後悔している。
「ピアノの、指はまだ覚えてる?」
「覚えてる。いつかまた、やり直したい。」
「貴方は以前よりずっと変わっているような、変わっていないような⋯僕はどちらも好きだがね。」
「でも君との思い出は変わらない。忘れるわけないじゃないか。」
その言葉を聞くと、立ち止まってカノープスはゆっくり振り向いた。少しポラリスの顔を見つめると、微笑んで、また前に歩みだした。
ポラリスはその影を追っていく。以前の私たちと同じように、友人として。今だけは。




