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自分勝手因果応報自業自得  作者: やなぎ怜


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(4)

 私が「またね」だなんて、次を約束するようなセリフを口にしたからなのか、はたまたそんなことはまったく関係ないのか、タイグとの三度目の出会いが訪れるのはそう遅い話でもなかった。


 それはタイグにとっても変わらないようで、こちらで一週間が経過していれば、タイグのいるところでも一週間が経過していた。


「おねえさんはやっぱり、この木の精霊とかなの?」

「いや、人間だけど……」

「じゃあ、魔法使いとか?」

「いや、普通の人間だよ。……たぶんね」

「ふつうの人間は、急に現れたり消えたりしないよ」


 タイグはどこかがっかりとした様子でそう言った。「魔法使い」と口にしたとき、一瞬だけ見せた金の瞳のきらめきを鑑みるに、もし私が魔法なんてものが使えたのだとしたら、タイグにはなにか叶えて欲しい願いでもあったのかもしれない。


 しかし私は魔法使いでもなんでもない、ただの未成年の人間なので、タイグの願いは叶えられそうもない。


 だが、「普通の人間は急に現れたり消えたりしない」というタイグの言葉は真理だった。


「たとえば、この木になにか力があるのかも?」

「てきとうなこと言ってるでしょ」

「はは、バレたか」


 木のうろの出入り口近くに私が腰掛けて、その近くの地面から露出した太い根っこにタイグが座り込む。


 三度目の出会いともなると、その体勢もなんとなく板について来ているように感じた。


「でもさ、これだけ大きな木だし、なにか不思議な力があったり、それこそタイグが言ったみたいに、いたずら好きな妖精や精霊が住んでいてもおかしくないかも」

「おねえさんは、なにか心当たりとかないの?」

「心当たり……。うーん」


 確信に至れるような、心当たりはなかった。


 けれども今回で三度目の出来事だ。うすらぼんやりとした推論のようなものが、おぼろげな輪郭を持って浮かび上がってくる。


 私は、その推論を口にすることを少し躊躇した。


 けれどもタイグとほんのわずかな時間だけやり取りして、彼が鈍感な子供じゃないこともわかっていたから、私は言葉を濁しつつも、あえてその推論を口に出した。


「……嫌な気持ちでいっぱいになって、消えたくなっちゃったときに、ここに来れるのかも」


 タイグの眉間に、少しだけしわが寄ったのがわかった。


 きっと、「消えたくなった」――だなんて、言葉を濁しても、タイグには伝わってしまったのだろう。


 この巨大な木のうろ、タイグのいるところに来てしまうのは、いつだって気分が最悪のときだ。


 体が鉛のように重くなって、気分は地の底に落ちて最悪で、どうしようもなく――死にたい気持ちでいっぱいになったとき。


 そういうときは眠れば少しはましになるのに、そういうときは決まって少しも眠れない。


 ベッドに横たわる死体になれたらいいのにと願いながら、まぶたをきつく閉じて、裏側に広がる闇を見ているとき。


 そういうときに、タイグのいるところへ来てしまう……。


 私の頭に浮かんだ、おぼろげな形を持つ推論がそれだった。


「……そうなんだ」

「うん。……ごめん。私がおかしいこと言ってるのはわかってる」


 口に出したあとで、後悔する。


 痩せた体をしたタイグの正確な年齢を推し量るのは難しいが、彼はどう見たって私よりも年下の子供だ。こんなことを言うべきではなかった。


 けれどもタイグは私を見ずに、しかしゆるく首を左右に振る。その仕草は、私にはどこか柔らかく、優しく見えた。


「おねえさんにもそういう気持ちがあるんだって、ちょっと安心した……ヘンなことかもしれないけど」


 タイグの横顔を見る。幼い子供特有の丸みを帯びた頬はしかし、同年代の子供よりもどこか薄く見える。そのせいか、恐らく実年齢よりも大人びているように感じられた。


 比べるようなことではないとはわかっていたが、私の生活はきっと、タイグのものよりも恵まれているだろう。私は食べるものや身につけるものに困ったりしたことはないのだから。


 同時に、意識的に避けていた事実へ、どうしても焦点が合ってしまう。


 ――今目の前にいるタイグは……私の知る物語の中の彼と、同一人物なのだろうか?


 彼は不遇な少年時代を送り、愛を知らずに育ち、多くの人に手を掛けて、壮絶な最期を遂げた。


 目の前にいるタイグという男の子は、そんな未来をこれから歩むのだろうか。


 わからない。私は神様ではないから、わからない。


 ……けれども、もしそうであれば、なんだかたまらない気持ちになった。


 二次元のフィクションをもとにした、三次元の現実に迷い込む仕組みはどう考えたってわからない。私が見ている夢か、妄想だと言われたほうが納得できる。


 死にたい気持ちが高まることで生死の境目や、現実と非現実の境界が曖昧にでもなると言うのだろうか? もしそうであれば、世界中に異世界転移経験者が溢れ返るに違いない。


 いずれにせよ、私の目の前にいるタイグは自我があって、呼吸をしていて、生きている。


 そして私と同じ気持ちを持っている。


「そうなんだ」


 タイグの返事を聞いて、私は先ほど彼が口にしたのとそっくり同じ言葉を発していた。


 それは安堵のため息にも、悲嘆のため息にも似ていた。

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