(14)
混乱した。扉が開いて、手首をつかまれ乱暴に床へと投げ出されて、次に顔を見上げれば、そこには金の瞳があったからだ。
私はこのときになってようやく、己の勘違いと失態を悟った。
「にいさん」と私の、ごく個人的なエピソードを知るのは、たったふたりだけだと勘違いしていた。
そして、辺鄙な土地に建つ一軒家……。「にいさん」の性格を考えれば、特におかしいところはないと考えてしまった。
けれども、私は「にいさん」との話を、唯一――タイグにだけは少しだけ伝えていた。
「お兄さんじゃなくてごめんね? でも、お姉さんが悪いんだよ。お姉さんをおびき出すには、お兄さんのフリをするのが確実だったから……」
そう、私のSNSのアカウントにDMを送ってきたのは、目の前でこちらを見下ろすタイグだったのだ。
「どうして」
「『どうして』? 素直に俺の名前を出しても、お姉さんは会ってくれなかったでしょう」
「どうして……私に、会いたかったの」
「そんなの、決まってる」
タイグが金の瞳を細める。
「俺の願いを叶えて欲しいから」
――『お姉さんの願いを叶えるんだから、次は俺の願いも叶えてね』。
前世の、最後のさいごに聞こえた言葉が耳によみがえる。
「ここから出たい?」
「出たいなら、俺を殺すしかないね」
「仮に逃げたとしても、俺の願いを叶えるまでどこまでも追いかけるから」
タイグが膝をついて、私と目線を合わせる。
金の瞳が、じっと私を見ている。
それから、タイグの大きな男性の手が私の首元へと伸びる。
節くれ立った指の、その先にあるやわらかな腹が、私の首に触れた。
血液が流れる音、鼓動、呼吸音。
私がかつて説いた、「愛される資格」。
「俺はお姉さんを殺して、死んだんだよ。俺はお姉さんの願いを叶えてあげたんだから――今度はお姉さんが、俺の願いを叶えてね」
その後(蛇足):
テルノと病み(闇)タイグのほのぼの不穏日常生活がスタートする……かもしれない。
その場合はなんだかんだハッピーエンドになるのかもしれない。




