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植物医フェイの診察録  作者: 春登あき
ノルドルン王国編

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007 副業と聞き込み


 初仕事を終えたフェイは、組合を出て次の目的地へと向かった。目指すは、先ほど職員に教えてもらった薬屋だ。


 一軒目。

 大通りに面したとても大きな店で、珍しい魔法薬の取り扱いもあった。


 フェイが暮らしていた森付近の村では、魔法薬なんて滅多に見なかったのでなかなか面白かったけれど、調薬工房はまた別の場所にあるらしい。ここでは薬草の買い取りは難しそうだと判断し、フェイは早々に撤退して次の店へと向かった。


 二軒目は、大通りから少し入ったところにある薬屋だ。

 窓から少し覗いてみたところ、こちらは店内で調薬をしているようだったので、とりあえず入ってみる。


 キィ……と扉が軋み、その音で店主が顔を上げる。白髪が目立つ、五十代くらいの男性だ。


「いらっしゃい。悪いが、今手が離せないんだ。少し待っててくれ」

「はい」


 店内に他に客はおらず、薬研(やげん)を引くゴリゴリという音だけが響いている。


 フェイはゆっくりと店内を見回した。内装にはどっしりとした木が使われていて、重厚感がある。相当な年月、丁寧に使い込まれていることが窺える、独特な深みと艶が美しい。


 店の奥には、様々な植物の鉢植えが並んでいる。蜜を練り薬に使う花、簡単な止血剤となる葉、そして苔やシダ、きのこや低木も何種類か。


 よく見てみると、低木の葉っぱの影で、小さな花の精霊がうたた寝をしていた。

 なんとも落ち着く、居心地の良い店だ。


「すまない、待たせたね」


 調薬が一段落ついたのか、店主が奥から出てくる。


「オルドの薬屋へようこそ。どんな薬をご所望かな」

「……ええと」


 薬草を買い取ってもらうのが一番の目的だったけれど、出発早々に足を痛めて傷薬や痛め止めを結構使ってしまったので、補充するのもいいかもしれない。

 それに、いきなりやって来て買い取りだけしてもらうというのもいささか図々しいだろう。


「傷薬を、小瓶で一つお願いします。それから……薬草の買い取りはしてもらえますか?」

「ものによるが、してるとも。何か持ってきたのかい?」


 頷いたフェイは、今日森で採ってきたばかりの薬草を背嚢からどんどんと取り出していく。


「おうおう、いっぱい持ってきたなぁ。とりあえず全部並べてくれ。種類と品質を確認する」


 店主は驚きつつ、早速虫眼鏡や秤を準備した。一束、二束、そして三束と確認したあたりで、片眉を上げてフェイを見つめる。


「……お前さん、薬師(くすし)かい?」

「いえ。私は植物医です」


 彼は怪訝な顔になった。


「薬草を使って人を治すってことなら薬師か医者だろうよ」

「いえ、私は“植物を”治す医者です」


 訂正するも、さらに怪訝な顔をされてしまった。


「なんだい、そりゃ」

「……植物の専門家と思ってもらえれば」

「はぁ、なるほどねぇ。そういうことなら納得だ」


 店主は薬草を種類ごとにまとめて改めて吟味しつつ、買い取りについて簡単に教えてくれる。


「冒険者が適当に(むし)ってきたやつならせいぜい一石(いっせき)で大銅貨一枚、よくて二枚ってとこだが……こうも薬効の高い部分だけ綺麗に集めてくれたんなら四枚——種類によっちゃあ五枚出してもよさそうだな」


 店主は、秤に基準石を1つ乗せる。これはノルドルン王国で使われている重さの規格で、商業組合などで均一な重さのものが売られているそうだ。

 商いをする人は絶対に持っているもので、調薬などのために、フェイとキーランが暮らしていた森の家にも秤と基準石があった。


「……こいつはたまげた。一束ちょうど一石ちょっとってとこだな。こっちは結構珍しいしよく使う薬草だから、一石あたり大銅貨五枚。残りは四枚だが、問題ないかい?」

「はい」

「それじゃあ、取引成立だ。ええと、全部で……」


 軽快に算盤を弾いた店主は、「6,500リクス。銀貨六枚と大銅貨五枚だな」と告げる。そこから傷薬の一番小さい小瓶分が引かれ、銀貨と銅貨五枚ずつがフェイの手取りとなった。


「植物専門家さんとやら。名前は?」

「フェイです」

「フェイか、よろしくな。俺はオルドだ」


 店主の名前は、店名の通りオルドだったようだ。覚えやすくて助かる。


「王都には最近来たのかい?」

「はい、今日来たばかりです」

「来て早々こんだけの量を集めるとはすごいなぁ。また頼むよ」

「はい」


 フェイは頷いてから店を出ようとしたが、大事なことをまだ聞いていなかったと思い至り、足を止める。


「……あの、一つ聞きたいことがあるんですが」

「ん?」

「エルフの男性がこのお店に来たことはありませんか?」


 フェイに植物に関する膨大な知識を授けてくれたのは、師匠であるキーランだ。

 彼がのんびり歩いて旅をし、王都に立ち寄ったならば、フェイと同様薬草を卸して路銀を稼いだ可能性はかなり高いのではないだろうか。


 そう期待しての質問だったが、オルドは「いや」と首を振った。


「来てたら忘れはしないはずだが、あいにく覚えがない」

「……そう、ですか」

「探し人かい? 見つかるといいな」

「はい……ありがとうございます」


 ノルドルンの王都は広い。

 今日ようやく到着したばかりだし、すぐに手がかりが見つからないのは当然だ。


 そうわかってはいても、ちょっぴり落胆してしまうのは人の(さが)


 店を出たフェイは少しだけ肩を落とし、夕暮れが近づく王都を一人歩き始めた。



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