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植物医フェイの診察録  作者: 春登あき
ノルドルン王国編

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006 夜光苔


 冒険者ギルドを出たフェイは、アイナに教わったお店で丈夫な革紐を入手すると、早速夜光苔(ルアモス)の採集へ向かった。


 夜光苔は、その名の通り夜になるとぼんやりと光るのでとてもわかりやすい植物だ。しかし日中は判別に少しコツと慣れが必要なので、植物にあまり詳しくない普通の冒険者には難しいと思われる。

 依頼主としても、冒険者たちが夜に採集をすることを想定しているのだろう。夜の森に入る危険手当か、他の採集系の任務に比べると、報酬が高く設定されていた。


 だが、フェイなら日中でも問題なく判別できるので特に危険はない。加えて、森でその他の薬草も採集して薬屋に卸せば、追加の収入を得ることもできる。二重にお得な依頼だ。


(これから王都でしばらく生活することになるし、物価もよくわからないから、稼げるときに稼いでおかないと)


 フェイは地図に書き添えられている内容に従い、郊外へと向かう馬車に乗り込んだ。乗合馬車に一時間ほど揺られると、 目的地の森近くの村に到着する。


 森に入ったフェイは、小川からほど近い半日陰を歩いて回った。


 苔も種類によって好む環境が異なるが、夜光苔は程よい湿り気と日当たりがある場所を好む。常に川の飛沫(しぶき)がかかるところや、鬱蒼とした暗いところよりも、川から十歩ほど離れており、木漏れ日が当たる半日陰程度のところを探す方が見つけやすい。


「あった」


 森を歩き始めてすぐに、お目当てのものは見つかった。


 夜光苔は葉の裏が少し白っぽく、株の広がり方や新芽の形にも特徴がある。フェイにとって見分けるのはそう難しいことではない。


「用途は魔法薬のはずだから......新芽の部分がいいかな。薬効が高いっていうし」


 薬草採集はお手の物だ。


 フェイは、やや色が淡い新芽の部分をどんどん摘み取っていった。暑さが和らいだ今の時期は、夜光苔の生育が旺盛な季節だ。一週間も経てば元通りになるだろう。


 一時間も経たないうちに夜光苔を集め終わったので、木箱を木陰に置いて、他の薬草も集める。

 王都にはたくさんの人が住んでいるし、王城には騎士団が、城下には冒険者がいる。傷薬や痛み止め、胃腸薬の材料になる薬草の需要は高いはずだ。


 レオーネの薬屋によく卸していた数種類の薬草をたっぷり集めつつ、フェイは秋なりの野苺をつまんで空腹を少しごまかし、昼下がりのうちに森を出た。


 再び一時間ほど馬車に揺られ、王都の冒険者組合へと戻る。

 窓口へ向かうと、男性職員が対応のために来てくれた。


「依頼の完了確認をお願いします。これが依頼書です。あ、それから、預かった地図も」

「ありがとうございます。箱を拝見しますね」


 依頼書の内容を確認したあと、彼は木箱の蓋を開ける。そして、目を瞠った。


「受託日は……今日、ですよね。日中にこれだけの夜光苔を……?」

「はい。特徴さえ押さえれば、見分けるのは難しくないので」

「……確認させていただきます」


 彼は確認用の手引書と照らし合わせ、苔の葉の形や表裏の色味などを丁寧に確かめていく。それからしばらくして、「間違いなく夜光苔ですね」と頷いた。


「量も規定通りで問題ありません。報酬をお渡しするので、少々お待ちください」


 木箱と地図を手に一度下がった彼は、しばらくして羊皮紙と巾着を持って戻ってくる。


「報酬の大銀貨一枚です。受領の署名をこちらにお願いします」

「はい」


 大銀貨を財布にしまったフェイは、渡されたペンで羊皮紙に署名をした。

 詳細が書かれているノーリャの葉とは異なり、こちらには『夜光苔採集 報酬・大銀一』といった感じで、ごく簡素に書かれている。後々振り返る必要が生じた時のための、保存用資料なのだろう。


「これで依頼完了です。初のお仕事、お疲れ様でした」

「ありがとうございました」


 馬車の往復料金で銀貨を一枚使っているのでその分はまだ赤字だが、冒険者登録にかかった費用を早くもほぼ回収することができた。

 あとは、残りの薬草がいくらになるかと、宿代がどれくらいかが問題だ。


「フェイさんは、旅の途中で当組合に登録してくださったと登録担当者より聞いています。宿はもうお決まりですか?」

「いえ。どうしようかと思っていたところでした」

「でしたら、おすすめをいくつかお伝えしますね」


 彼はフェイが求める条件についていくつか確認し、『灯火(ともしび)』『風車(かざぐるま)』『角亭(かどてい)』という三つの宿屋を提案してくれた。


 王都の冒険者組合にとって、フェイのように国内外からやってくる新参者は珍しくないのだろう。まるで王都のなんでも案内所のように、彼はおすすめの飲食店や薬屋なども淀みなく紹介してくれたのだった。


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