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植物医フェイの診察録  作者: 春登あき
ノルドルン王国編

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005 初仕事へ


 気を取り直して、植物に関する依頼が貼られている一角を見てみる。


 大半が、魔法薬に使う魔草や薬草の採集依頼のようだ。手間はかかるが危険は少ないので、推定難易度は十か九が多く、報酬もあまり高くない。


(今日は登録料を払ったし、王都の宿はそれなりに値が張るだろうし、ほどよく稼げるものがいいな)


 内容の吟味は後回しにして、ひとまず報酬額だけをざっと確認していく。しばらくしてフェイは、一枚の依頼書に目を留めた。


「これにします」

夜光苔(ルアモス)の採集任務ですね。採集の中でも難易度が高めで、なかなか請け手がいなかったんです。助かります」


 微笑んだアイナは、依頼内容が書かれたノーリャの葉を取る。


「そろそろ組合員証もできているでしょうし、あちらで受託の手続きをしましょう」


 窓口に戻ると、早速、完成した組合員証を手渡された。しっかりとした金属製で、名前と年齢、職業区分と階級、登録日、複雑な紋章が刻印されている。

 紐を通すためか、小さめの穴も開けられていた。


「こちらがフェイさんの組合員証です。受託と完了の手続きの際には必ず使いますし、身分証にもなるので、なくさないよう常に大事に持っていてくださいね。首にかけることをおすすめしています」

「わかりました」


 受け取ってよく見てみると、何かしらの魔法で保護されているのか、不思議なきらめきがあった。フェイが少し目を細めて観察していると、アイナはくすっと笑う。


「やっぱり、腕の良い魔法使いの方はすぐ気づかれるんですね。改竄(かいざん)を防ぐ、特殊な加工が施されているんです。だからこそ、他国でも組合員証は役立つんですよ」


 ただの保護魔法ではなく、素材の金属自体も特殊な感じがする。フェイでも、どんな素材でどんな魔法が使われているのか、すぐにはわからない。かなりの高度な技術だ。

 これを大銀貨一枚で発行してもらえるのは破格と言ってもいい。


「ちなみに、門戸を広げるために登録時は大銀貨一枚を皆さんにご負担していただいているんですが……本来もっとするものなので、なくしてしまった場合には結構大変なことになります」

「……大変」


 漠然としていて、だからこそなんだか不穏な言葉が気になり、フェイは小さく復唱する。

 アイナは重々しく頷いた。


「はい。近場の時は探知魔法で探したり……それで見つかればいいのですが、回収不能な場合には再発行と、場合によっては元の組合員証の無効化処理をしたり……最低でも大銀貨五枚、高いと金貨が必要です。紛失にはお気をつけくださいね」


 金貨と聞いて、フェイの背筋がピャッと伸びた。

 森の家で暮らしていた時は、塩漬け肉や小麦粉を買うくらいで半ば自給自足だったので、銀貨が五、六枚もあればひと月余裕で生活できた。


 金貨は、一年以上暮らせるほどの大金だ。


「あの……丈夫な革紐を売ってるお店を教えてもらえますか?」

「もちろんです」


 うっかりどこかに置き忘れたりしないよう、このあとすぐにでも紐を用意して首にかけようと思ったフェイであった。


「それでは、受託の手続きを始めますね」


 そう言ったアイナは、組合員証を魔道具に当てたり、羊皮紙に何やら書き込んだりと、てきぱき作業を始める。


「依頼完了までにかかる日数は、何日くらいで申請しますか?」

「……採取場所までの往復日数分で十分だと思います」

「その場合……馬車で一時間くらいなので今日中になってしまいますが、少し余裕を持たせることをおすすめします」


 どうしてだろうと思いフェイが少し首をかしげると、すかさずアイナが補足してくれた。


 難易度にもよるが、申請した日数よりも遅くなると、不測の事態が発生した可能性ありとして、組合職員や冒険者たちが安否確認や現地調査に行くことになるらしい。

 遅れが生じただけで問題なく依頼をこなせていたとしても、確認・調査にかかった人件費を差し引かれての報酬支払いになるそうだ。


「なるほど……それなら、念のため三日でお願いします」

「はい、かしこまりました。では、こちらに受託の証として、親指か人差し指で(しるし)をつけてください」


 差し出されたのは、青みがかった銀色に鈍く光る、不思議なインクだ。


(魔導具の類だってことはわかるけど、組合員証と同じで材質も込められている魔法もすぐにはわからないな)


 フェイはインクに人差し指でそっと触れた。液体でなく、ぷにっとした不思議な感触だ。


「このあたりに押してください」


 アイナに示されたあたりに、指を押し付ける。羊皮紙についたインクからは青みが消えており、少し輝きを増した銀色になっていた。


 続いて、アイナも同じように印をつける。彼女がつけた印は落ち着きのある紺色になった。


(……どういう理屈だろう。人によって、固有の色になるんだろうなってことはわかるけど)


 興味をそそられるけれど、これから森に向かうので、ここであまり時間を使っていられない。解明はまた今度だ。


「これで手続きは完了です。最後に……今回の必要道具をお渡しします。まずは、採集用の木箱。それから、現地までの地図と、森の中の簡単な図です」


 木箱は底面がフェイの両手のひらを並べたくらいで、高さは林檎一つ分といったところだろうか。小脇に抱えられる大きさなので、採集の邪魔にはならなそうだ。


「ありがとうございます。では、また」

「お気をつけて。無事のお帰りを!」



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