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植物医フェイの診察録  作者: 春登あき
ノルドルン王国編

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004 冒険者登録


 渡り廊下で繋がっている別棟に向かいながら、アイナは階級査定について説明してくれた。


 冒険者組合では、一定の基準に沿って、組合員を一から十までに階級付けしているそうだ。

 登録の際は、聞き取り調査や簡単な実技試験の結果によって階級が決められる。

 ただしあくまで簡易的な査定のため、一つ下の階級での登録となり、その後の実績によって階級が上がっていくらしい。


「二級以上は、一人で超大型の魔獣を倒せるような……言ってしまえば超人です。当然、そんな実力を建物の中で見せていただくわけにはいかないので、登録時は三級査定で四級登録が最高位ですね。初心者の方は九から十級での登録になることが多いですが、フェイさんの場合は六……いえ、五級以上になりそうですね。火魔牛の群れに難なく対処できるくらいですし」


 別棟に到着すると、使える魔法の種類や威力、回数などについて細々と質問を受けた。


 フェイは日常生活や狩りなどで魔法を使っているだけなので、広範囲に影響を与える特大の攻撃魔法がどれくらいできるのか、自分でもよくわからない。とりあえず、明確にわかる範囲で答えていく。


 続いて、魔法使いの階級査定に携わっているという職員が二人が立ち会いで加わり、実技試験が始まった。


 フェイが使う魔法は特殊なので、そのあたりに突っ込まれると面倒臭い。フェイは彼らに背を向けて口元を見られないようにし、様々な攻撃魔法を的へと飛ばす。

 最後に防御魔法も試されて、査定は終了となった。


 窓口に戻ったところで、結果が言い渡される。


「お疲れ様でした。フェイさんは攻守ともに多彩な魔法が扱えますし、発動速度も強度も十分なので、登録査定で最高の三級相当ですね! 登録時は一つ下の階級になるので、四級魔法使いとして組合員証を発行します」


 こうやって客観的に力量を分析されるのは初めての経験だったので、なんだか新鮮だ。


(師匠には『一人前』って認められたけど、ここでも同じように判断されてよかった)


 魔法()、キーランに教えてもらった大事な知識であり力だ。評価が得られるのは素直に嬉しい。

 フェイが内心で喜んでいると、アイナは少し言いづらそうに次の話題を切り出した。


「最後に、登録料ですが……組合員証の発行もあるので、大銀貨一枚をいただいています」


 組合員証は、他国でも身分証として使えるものだ。大銀貨一枚は決して安くはないが、便利さを考えるとお得なくらいだろう。


(……レオーネさんが多めに持たせてくれた分を、ここで使わせてもらおう)


 頷いたフェイは、財布から大銀貨を一枚を取り出し、彼女に渡した。


「ありがとうございます。早速組合員証を制作しますね。できるまでの間に、お仕事の請け方についてご案内します」


 アイナが向かったのは、窓口横の壁際だ。そこには、たくさんの黄緑色の葉が画鋲で留められていた。


「……組合の前にあるノーリャの葉ですか?」

「よくわかりましたね!」


 近づいて見てみると、葉っぱには依頼内容や報酬、推定される難易度などが細かく書かれている。


「依頼書として使っているんですね」

「そうなんです。依頼書は一定期間保管したあと破棄するので、紙を使うのはもったいなくて」


 羊皮紙は高級品だ。植物の繊維を()いて作る紙も、羊皮紙ほどではないがそれなりに高い。半ば使い捨ての依頼書に使うのは、確かに躊躇われる。


「ノーリャの葉ならタダでたくさん取れますし、何より筆記に向いているので、うちでは紙の代わりに重宝しているんですよ。……それに、爽やかないい匂いが仄かにして、色も綺麗でいいですよね」


 アイナは柔らかく目を細めて、たくさんの依頼書が留められている壁を見つめる。


 あのノーリャは、依頼書になる葉を通して、職員や冒険者たちに広く親しまれているのだろう。枝の上に寝転んで組合を眺めていた精霊の姿を思い出し、フェイも少し目元を緩めた。


 「こうして壁に掲示されているのは、無指名の依頼です。依頼の内容と、引き受けるにあたって組合側が推奨している階級、成功報酬などが書かれています」


 冒険者組合が扱う仕事の大半は、こういった、相応の実力がある冒険者であれば誰が請けても構わない無指名の依頼だそうだ。ただ、稀に、この人にお願いしたいと指名付きで依頼が来ることもあるという。


「先ほどのお話からして……フェイさんは基本的に、お一人で依頼をこなすご予定ですよね?」

「はい」

「では、基本的に単独で引き受けられる依頼は、ご自身の階級と同じ難易度のものまでとお考えください。……一つ上のものまでは請けられるのですが、同行者が必要なんです」

「なるほど、わかりました」


 その場合、フェイはずっと四級のままになるだろう。

 だが、二級以上は超人という話だったので、四級でもかなり幅広い依頼を請けられるはずだ。今のところ、特に問題はない。


「何か気になる依頼はありますか?」


 フェイは早速、壁に貼られている依頼書に目を走らせた。

 ノーリャの葉は淡い黄緑色なので、インクの色を邪魔せず文字が読みやすい。とりあえず依頼の件名だけをざっと確認してみるが……。


(魔獣の討伐依頼が多いな)


 あまり気になるものはなく、フェイは少しだけ肩を落とした。アイナはその様子に気づいたらしい。


「魔法使いの方におすすめの手頃な魔獣でしたら――」


 案内してもらえるのはありがたいことなのだが、求めている方向性とは全く違うので、フェイは慌てて首を横に振った。


「いえ、そういうのには興味ないです」

「えっ?」


 咄嗟のことだったので、あまりにも直球な言葉が出てしまった。彼女が気を悪くしていないかそっと窺うが、ただ困惑しているだけのようで、フェイは内心胸を撫で下ろす。


「あの……植物に関する依頼はどこですか?」


 今度は慎重に、言葉を選びながら尋ねてみると、アイナはもっと困惑した表情になった。


「え……ええと、植物、ですか? あちらですが……」


 窓口付近から、建物の奥の方へ向かってアイナはどんどん歩いていく。


 冒険者たちが数人集まっている一角を通り過ぎつつ、「植物関係の依頼は、こういった魔獣討伐に比べるとどうしても報酬は安くなりますよ」と念を押された。

 路銀をほどほどに稼げればいいので、フェイとしては問題ない。


「このあたりです。採集系の依頼が多くて……駆け出しの冒険者さんが請けるお仕事が中心です。フェイさんのような魔法使いの方には物足りないかと……」

「いえ、問題ありません。私は基本的に、植物関係の依頼しかしないつもりでここに来たので」


 アイナはいよいよ理解不能になったようで、パチパチと瞬きを繰り返したあと、「なんで……?」と首をかしげたまま固まってしまった。


「なんで、って……私、本業は植物医なので」

「植物、い……?」

「植物専門の医者みたいなものです。なので、木の調子が悪いとか、よくわからない症状が出ているとか……そういう依頼もあれば引き受けます」

「はぁ……、なるほど……」


 困惑はしつつも、植物医がなんなのかはおおよそ理解してもらえたらしい。それなりに上手く説明できた気がして、ちょっぴり満足していた時だった。


「おいおい嬢ちゃん、それなら、来るとこを間違えてるぜ」


 低く太い声が響く。声をかけてきたのは、魔獣討伐の依頼を見ていた冒険者のうちの一人だった。


 戦士、あるいは剣士だろうか。大剣を背中に担いでいて、背は見上げるくらいに高い。筋肉ではち切れそうな上腕は、フェイの太腿くらいの太さがある。

 ここまで筋骨隆々な人は、これまでの人生で見たことがない。


(流石は王都の冒険者組合。すごい人がいるなぁ)


 フェイが呑気に考えていると、彼はフッと小さく笑った。


「草いじりがしたいなら、冒険者じゃなくて庭師協会にでも入りな」 

「え……?」


 フェイは目を瞬いた。


「あるんですか? 庭師協会。それなら行きますけど……」


 冒険者のような形態で仕事を請けられるなら、庭師協会こそ最適な登録先である。少しばかりフェイが前のめりになると、彼は逆に、「へっ?」と困惑した様子で半歩下がった。


 さらに、「もう、グランツさん!」と、アイナが間に割って入る。


「なんだよ、アイナ」

「せっかく新規登録してくださった魔法使いさんにちょっかいを出さないでください」


 グランツと呼ばれた冒険者は、「ハァ……これくらい挨拶だろうが」と面倒そうにため息をつく。しかし、アイナは一歩も引かなかった。


「グ・ラ・ン・ツ・さ・ん?」

「あー……へいへい、わかったよ」


 彼は肩をすくめると、依頼書を一枚ピッと破り取って去っていった。


「すみません、フェイさん……。彼、悪い人ではないんです。面倒見がよくて素晴らしい実力の持ち主なんですけど、新入りの方をああしてからかうこともあって……。お気を悪くされたら本当に申し訳ないです」

「いえ。それより、庭師協会って――」


 どこに行けば入れるのか気になり尋ねようとするが、その前に、アイナが悲しい事実を教えてくれた。


「ありません。彼の冗談です」

「ないんですか……」


 フェイはしょんぼりとして肩を落とした。

 



(ˊ・-・ˋ).。oO(ないんだ……庭師協会……)



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