第9話 ヒロインの真骨頂は地道な努力です!
今回はちょっとした日常話になります。
「どう!?マリア!フォーム崩れてない?」
「崩れてない?と聞かれましても……」
屋敷の庭でトレーニングウェアを着て、私は日課のスクワットをしていた。
筋トレが終わったら、走り込みの予定である。無酸素運動の後に有酸素運動、これ常識!
「膝をみて!膝が前に出過ぎてなければオッケーなの!」
「うーん……出てないように見えますが……」
マリアが一生懸命見てくれるが、どうも頼りない。こう言う時に、お助けキャラ・ジルがいてくれたらいいのだが……流石に、フォームチェックのために呼びつけるわけにはいかない。
「……というか、なぜリエラは筋肉トレーニングをしているの?」
「本当はね!フェンシングをやりたかったんだけど、お父様に『リエラちゃんの細腕で剣を持つのは危ないよ。体力だって心配だし』と言われちゃったの!だから、まずは筋肉と体力をつけるところからよ」
えっほ!えっほ!あと10回!
「……そうではなく、そもそもなんでトレーニングしているの?」
「来るべき女の戦いの備えてね!この前の縦ロールの人みたいなのが今後現れたら、コテンパンにできるようにしないと、でしょ?」
「クラリッサ様、ですからね……」
マリアは項垂れたふりをしながらも、楽しそうにしている。「まぁ、私もクラリッサ様は好まないので、気持ちはわかりますが」と共感してくれる。さすが、我が友!
「……おい、これはどう言うことだ」
マリアと盛り上がっていると、後ろから声が掛かった。この声はーー
「ジル!!私のために来てくれたの!?」
「 ……マリア嬢から、すごいものが見れるかもしれない、と手紙をもらって来たんだよ……お前、何やってんだ?」
「スクワットよ!!ねぇ、ジル!フォーム見てくれない!?」
私が華麗なスクワットを披露すると、無視された。ひどい。
「……なんでこんなことになってるんだ?」
「すみません、ジルフォード様。この前、クラリッサ様とちょっとトラブルがあって、そこでリエラの火がついてしまったようなんです」
マリアの説明に、ジルフォードが大きくため息をつく。「だからお前たち2人の外出は心配だったんだ……」と呟いていた。
「あれは女のバトルだからね!ジルがいたとしても、どうにもならなかったよ」
「そうですよ、ジルフォード様がいたら、余計に話が拗れてましたわ」
「……そう言うことじゃないんだよ……というか、マリア嬢。あなたがついていながら、なぜこんなことになってるんだ」
「……まぁ、端的に言えば、面白そうだったので、つい」
えへへっ!とあざとくマリアが笑うのが可愛らしい。私、あなたみたいな子好きよ!
ジルフォードはこめかみを引き攣らせている。
こんな美女の笑顔を前にして、なぜそんな顔ができるのだろう。人生、だいぶ損していると思う。
「……あなたにリエラを頼んだ俺が悪かった……」
「あ、その件、私恨んでますからね?こーんなに面白いリエラを、何年もジルフォード様だけで独り占めして……あなたって、やっぱり性格悪いですよね!」
「あ!マリアもそう思う!?やっぱりジルって性悪だよね!!」
私とマリアでノリノリで会話してると、ジルフォードは疲れ切った顔をしている。若いのに、だらしないわね!
「……と言うわけでジル、私、体を鍛えることにしたの。このスクワットのフォーム、大丈夫そう!?」
「フォーム以前に、どういうプランなんだ」
「まずはスクワット50回、その後、走り込みよ。屋敷を5周するの!」
「……やりすぎだ、やめておけ」
おふざけモードから一転、ジルフォードが真剣な顔で言ってくる。
「やりすぎじゃないわよ!このくらいやらないと!!」
「いきなり体に負荷をかければ、無意識にダメージは体に蓄積される。俺たちは今、成長期なんだ……独学でのトレーニングはやめろ……体を大事にしろ」
ジルフォードの眼差しに、私の手と足は止まった。
「……ジル」
「……もと、体の弱い人間のアドバイスは、しっかり聞いておけ」
「……あなた、今でも私より体力ないじゃない」
ジルがあまりにも真剣に言うから、思わず茶化してしまったが、ジルの言うとおりだ。
ジルはプライドに触ったのか、私にチョップをかましてきたが、甘んじてそれを受け入れる。
「……ありがとう、ジル」
「伯爵にトレーニング止められて、勝手にやっているってところか?……鍛えたいんなら正攻法でいけよ。そのほうが、お前らしいよ」
「……そう、だよね!わかった!私、お父様にもう一度直談判してみるよ!!」
「それでもダメなら、もう諦めろな!?」
「ネバーギブアップ!!納得してもらえるまで、説得してみせるわ!!」
「リエラ!がんばって!」
「まっかせて〜」
「おい、マリア嬢!ふざけんな!」
ーーーーーー
……意気込んだはいいものの、お父様は思った以上に強敵だった。
体を鍛える、許可が降りない。由々しき事態だ、とても、ヒロインの父親とは思えん!
「どうしよう!ジル!マリア!!」
「諦めろってことだろ。それより、経済学の課題は大丈夫なのか」
「絶対嫌よ。あの課題は、昨晩必死で終わらせたから大丈夫。ちなみに、今日の試験に向けたメネスト語も準備は万全よ」
「……リエラって、実は努力家だし頭いいんですね」
「……それがこの女の厄介なところなんだ」
マリアとジルフォードが目配せをしているが、今はそれどころではない。どうやって、お父様の許可を得ようか。
「……どうやって説得したんだ?」
「まずは、娘らしく『お父様〜、私、強くなってみんなをあっといわせたいの♡』って甘えてみたんだけど『リエラちゃんは、十分みんなを驚かせる性格だから大丈夫だよ』って言われちゃって」
「……リエラ、お父様からの評価大丈夫なの?」
「安心しろ、マリア嬢。伯爵は、親バカな側面があるから、この親子の関係は良好なんだ」
「あ、そう……それで?」
「娘らしく♡作戦は失敗したから、次は、ロジカルに、娘に力があるとどういう点がいいか、プレゼンしたの」
「……振れ幅大きいですね?」
「…….この女はそう言う奴なんだ……それで?」
「リエラちゃんのプレゼンにあるメリットは、護衛を強化すれば片付くから必要ない、だって」
「……正論ですね」
「伯爵が常識人で良かったよ」
「それで次は、お父様の好きな料理を作って、お酒もガバガバ飲ませてみたんだけど、意外とガードが硬いのよ」
「……急に頼み方が雑になったわね」
「お前、面倒になってきてるだろ」
「そうじゃないけど!!じゃあ他に、どうすればいいのよ!!」
私が根を上げると、ジルがつかさず「もう諦めろ」と言ってくる。でも、そんなの絶対に嫌だ!!
「ねぇマリア〜、いい案ないーー?」
「うーん。あると言えばあるのですが……お父様の説得が成功したら、リエラはどこを目指すんですか?」
「……貴族令嬢最強、かな?」
「……それは、女性騎士も含まれます?」
「もちろん!!」
私が笑顔で頷くと、マリアが首を振った。
「リエラが、護衛術を身につけるところまで、と約束してくれるなら、アドバイスしてもいいですよ」
「本当に!?」
「ええ……それなら、ジルフォード様も異存ないでしょう?」
「ないわけないだろう。悲惨な未来が、ちょっとよくなっただけだろうが」
「もう!ジルは黙っていて!で、約束するから教えてよ!どうすればいいの!?」
聞けば、マリアは私の耳元で囁く。
な、なるほど……マリアって、頭いいね!
ーーーーーー
「と言うことで、許可おりましたー!5日前から、護衛術の訓練してるのー!」
「すごい展開だな!?」
「まぁ、マリアのおかげよねー!ジルもしっかりしないと、私のお助けキャラ、マリアに取られちゃうからね!」
「お前のいうお助けキャラ、はどうでもいいが……どうやったんだ?」
「あのね、お母様に『私が体を鍛えて、お母様にもできる美容と健康の運動を見つけるわ!』と言ったら、秒で頷いて、お父様を説得してくれた」
「……どう言うことだ?」
「ジルフォード様は鈍いですね。貴族女性は、矜持もあってダイエット情報なんて、なかなか収集できないんですよ。だから、リエラがお母様の代わりに、実技を通して、有効なダイエット方法を見つけてあげる、というこじつけで、リエラのお母様からお父様に許可をいただいてもらったんです」
「……マリア嬢、性格悪いな」
「あら、誰かに似たのかもしれません、遠縁ですから」
ジルフォードとマリアがにっこりと微笑みあっている。うん、仲良きことは美しきかな。
「と言うわけでごめん、私、訓練あるから今日はもういくね」
「……訓練って、具体的には何をやるんですか?」
「筋トレと走り込み。その後、まずは受け身の練習よ」
「……思ったより地味ですね」
「ヒロインの力は、地味な努力によって積み上げられるのよ。と言うことで、行ってきまーす!」
私が師匠のもとに走って行くのを、マリアは手を振って、ジルは仏頂面で見送ってくる。
見てなさい、縦ロール!今度イチャモンつけてきたら、メッタメタのボッコボコにしてやるんだから!!




